第29話 出会い
都内某所の高校。今日から俺はここに通うこととなっている。探索者の養成を目的とした学科のある高校で、鮫島さんや加茂さんはここの卒業生であるし、佐々木さんに関しては先輩になる。
無論だが、俺も探索者として登録してある以上、その学科に分けられることとなる。
ただまあ…自己紹介がだるいんだよな。
と、言うのも一応俺はFクラス。悪目立ちすることは目に見えている。前回、絹井に行った時がそうだった。まあごく僅か、俺の実力がFではないことを見抜くような化物もいるが…本当にごく稀だ。
まあ…そうなってる以上そうするしかないんだがな。
そう言うわけで転校初日孤立RTA、はーじまーるよー。
そう言うわけで、その扉をあける。視線が一斉にこちらを指す感覚。そりゃそうだろう。ここにいる奴は全員常に上を目指している向上心の塊みたいな奴だ。ここに1人増えるってことは、敵が1人増えるのと同じ。そりゃ疎まれて当然って訳だ。
「日野 勇太です。クラスはF。以上です。」
淡々とした挨拶にざわつく。このくらい無愛想な方がいい。だって関わりたくないんだもん。
そもそも俺はこのクラスのせいで舐められることはほぼ確定。だったら初めから不貞腐れたような陰キャでいた方がいい。
その方が初めから孤立できる。と言うことで記録は3分ちょい。なかなかいい記録じゃなかろうか。
…ってか思ったけどこのクラス…平均アベレージたけぇなオイ。師匠から継承したこの目。これを使ってみて解ることなのだが…なぁんか皆C~B相当の実力がありそう。魔力の流れがそう語っている。
そんでもってガチで睨んできてる奴が1人…そいつのとなりの席が空いているのが嫌だな…。
「じゃあ、日野はあそこの空いてる席。相葉の隣だ。」
やっぱりか…言われた通りその席に着くが…圧がすげぇな。
「あんた…よろしくの一言もないわけ?」
「ああ…よろしく…。」
ぎこちなく、関わられることの無いように挨拶を交わす。
「あんたねぇ…。」
あきれられたようにそう言われる。なんか新鮮だな。
「まあ…気分を害したならすまない。」
「なんか…調子狂うわね。そもそもFクラスがそんなにイキってるんじゃ無いわよ。」
「イキって無いですよ。ここじゃあどうあがいても着いていけないんですから。」
「ほ、ほう…少しは見る目があるみたいね。」
「まあこれでも探索者ではあるんで。」
「ダンジョンに潜ったりとかもしてるってことね。」
「もっぱら上層ですけどね。できることと言ったら逃げることだけ。」
「あんたねぇ…そんなんじゃいつまでたっても強くならないわよ?」
「強くなくたっていいんですよ。今、生きてるんだからそれでいいじゃないですか。」
「探索者である以上、上を目指すのは当然でしょ?」
探索者である以上ねぇ…まあそう言う奴がほとんどだろう。先輩だってそうだったな。上を目指していた。
「………君も探索者?」
「まあそうだけど?」
「いつごろ探索者になったの?」
「去年だけど。」
去年…となればダンジョンに潜り出したのもそれくらい。見たところ実力はCクラス相当。
典型的だな。
「…すげぇな。」
実際、その年でCクラスなのはすごいほうだと思う。すごいとは思うが…この教室ではどうにもそのすごさが霞む。
「あ、ありがと…。」
典型的に勘違いしてる奴だ。自分は上澄みだと思っている…いやまあ上澄みではあるが『向上しなきゃ』と言いつつその実『満足している』ような奴だ。
「俺からすれば、この学校に居る人らは全員すごいですけどね。」
あくまでも俺は今、1番下の存在。
「まあそうでしょうね。あなたじゃ一生かかってもたどり着けないような人も居るし。」
「まあ、そうでしょうね。」
努力の賜物か、才能の怪物か、ここにはそう言う奴が山ほど居る。凡才がいくら努力しようが届かないような奴だって居る。
「だからあなたも頑張らないと。」
「俺はこれでいいって思ってるんですよ。そこに踏み込むなら言ってやりましょう。余計なお世話です。」
「…人がせっかく強くなるように助言してるのに。」
イラつくように彼女はぼやく。俺から言わせりゃそうじゃない。
「だから、俺はそう言うの求めてないんですよ。今の自分に満足してますしFクラスでいいと思ってるんです。」
「なんでよ。」
「なんでっていうのは?逆に、どうしてそこまで強さにこだわるんです?」
「強くないとなにも守れないじゃない?ここ最近だってスサノオとか居たじゃない?誰かを守るには強くならなきゃいけないの。」
「でも結局スサノオを討伐したのもAクラスの上位3人のパーティでしたよ。そこが出てきてようやくのレベルです。人が努力したところであんな化物連中に敵うわけないんですよ。」
「そんなの…やってみなきゃ―――――。」
「じゃあ、1年後Aクラスになってください。」
「はぁ!?そんなの無理に決まってるでしょ!!」
「佐々木 龍馬はやりましたよ。」
佐々木 龍馬。類い稀なる才能とそれを操る努力をもってして完成された日本最強の男だ。彼にできて、彼女はそれに追い付けると言っている。なら、やってもらうしかない。
「それは…。」
「君が目指したのはそう言うレベルの高みです。」
「それでも…やらない理由にはならない…!」
「そうですか。」
暑苦しいな…この人。正直若干苦手だ。
これからは数ヵ月は一緒に居るであろう存在にそんな感想を抱いてしまうのだった。
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