第28話 新たな日々へ
ヘイグロト討伐後、ギルド近くのマンションへと帰宅する。いやぁ…ここ最近はアグレッシブな子も居たものだ。美海さん曰く、その子が探索者となったのはここ1年の話らしい。
ベッドに倒れ込み、これから何をしようか考える。
「…あの生活に慣れたら駄目だな…。」
絹井での生活。師匠に稽古をつけてもらっていた日々。それが当たり前になってしまっていた。
ここでは思い切り自分の力を発揮することなど出来ない。それをぶつける相手も居なければ場所もない。
今回のヘイグロトだって割りとすぐに蒸発した。師匠から感覚を教えてもらって以降、制度が飛躍的に向上した。その空間だけ、あたかも最初からそうであったように…なんとなくその感覚が解る。
「ただそうは言ってもなぁ…俺がこれから戦う相手…。」
東京湾のダンジョン…そこのボスとおぼしき存在。それが出てくるとしたら…そしてそれがグレゴリ種なら間違いなくレベル7相当の大惨事だ。俺が対処するしかない。
それと、もう1つ気になるのがここ最近のレベル5指定魔獣の出現頻度だ。ここ2週間…もっと言うとスサノオ討伐後から全国各地で出現が相次いでいる。
何よりきな臭いのは…集団で現れる物が居ないこと。
例えばこの前はカラミティワームが1体、出現したらしい。あれは少なく見積もっても10体は同時に出現するはずである。
「なぁんかなぁ…スサノオだけじゃなかったような気がするな。これ。」
そもそもスサノオはなぜあのタイミングで俺を狙ったのか。スサノオは…俺の存在をいつ知ったんだ?
まあ、心当たりがあると言えばあの配信。つまりそれまでスサノオはこの人間社会に溶け込んでいたこととなる。
あの配信を見た段階で俺は脅威と見なされ…ってとこか。
と言うことは…東京湾のダンジョンのボスはまだ出てこれないのではないだろうか?
「いや、変な憶測はやめよう。」
仮にそんな怠慢で、そいつの上陸を許してしまえば…東京は壊滅的な被害を受ける。それだけはさけなければいけない。
しかし俺もどう戦ったものか…。
「今回こそ…バレるよな。規模的に。」
スサノオの言っていた神々の存在。それこそグレゴリ種のことだろう。これの封印が解かれようとしている。或いは、もう既に解けている。
恐らくは全てスサノオが仕組んだこと。
奴は言った。近々世界は終わると。神の考えることは解らないと。
「まあ、そんな脅し文句でビビってるようじゃ…世界は救えんわな。」
もっと…強くならなくては。
そんな中、携帯が鳴った。発信元は真島さん。こういうときはまた、何かあったときだ。ため息をつきながらその電話にでる。
「もしもし、お疲れ様です。」
『勇太、まずは先のヘイグロトの対処お疲れだった。』
やけに深刻そうな声である。
「ええ、それで何です?またレベル5指定魔獣でも出ましたか?」
『そんな簡単な話だったらよかったのだがね…とりあえずリンクを送る。それを確認してみてくれ。』
そうすると、俺の携帯にURLが送られてくる。とりあえず真島さんの言う通り確認してみると、それはとある掲示板のリンクであった。
炎の魔神について語るスレ
「これがどうかしたんです?」
『まあ、読み進めていってもらえば解る。』
そう言われてそのスレッドを読み進めていく。そうやって辿っていくと、不意に変な奴が現れた。炎の魔神はザコ…まあよくある荒らしだろうそれがどうしたのかと思えば…こいつの発言。
「…真島さん…この人…。」
『ああ…明らかにお前が人間だと言っている。』
逆張り程度ならいいさ。そんな奴は割りといる。だけどこいつの意見は一貫して「あれはただの人間だ。私でも勝てる。」と…正直若干の痛さは残っているが、俺のことを人間と認識している。
人類の中には、人と魔獣を正しく見分けることが出きる目を持つものがいる。
普通の魔力を持つ探索者の場合は鍛え上げれば気配で察知できるようになるが、そうではなく、生まれながらにして魔力の流れを目視できる存在。
これは本人が魔力を持っていようと、持っていなかろうと発現するらしい。現に俺の身の回りで言うと美海さんがそれに該当する。
とまあ、随分と稀有な存在ではあるもののそう言う奴は確かにいる。
「仮に…仮にただの逆張りじゃなく…本当に言っているのだとしたら。」
『正体がバレる。』
「…まあ…そのときはその時か。」
『えぇ…いいの?それ?』
「何て言うんですかね。1回死んでみて解ったんです。なんか、このまま俺の回りの人たちを守れずにプライドを守り続けるのってちっぽけだなぁって。」
『いい話っぽくまとめようとしてるのかもしれないけど、とりあえずお前しか使わない文言やめてくれ。』
「まあでも実際そうですよ。今あるものを守る。これからはそんな感じでやらせてもらいます。」
『解った。身バレしたらそのときはそう言う風に動こう。』
「本当…ありがとうございます。」
『………。』
「真島さん?」
『なんか…反抗期の息子が振り向いてくれた感じがして…。』
「あんた独身でしょう。」
『………。』
そんな会話をする、休日の午後。明日からは学校が始まる。また転校扱いだそうだ。
まあ、また俺はしばらく怠惰なFクラスをやっておけばいい。
―――――なんて思ってた俺がバカだったのかもしれない。
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