新米探索者

第27話 魔力を持つ者、持たぬもの

 スサノオ襲撃事件。それは日本のみならず世界にさえ危機感を与えた。その事件より、はや2週間が経過した。騒動は未だ収まることはない。ギルドからは正式に討伐を確認したとの声明が発表されている。


 でも、それはスサノオに限った話である。


 炎の魔神…もといヒノカグツチ。これはまだ討伐報告は上がっていない。それもそうだろう。

 スサノオと同じく神の名を持つ、ダンジョンの外で活動している魔獣…と言うことになっているが、私は知っている。あれはただの人間であると。


 私こと、相葉あいば 由美ゆみ(17)はCクラスの探索者だ。探索者の中では上のクラスだ。実際、探索者の割合がもっとも高いのはDクラス。その次がEクラス。私って言うのは上澄みの人間だ。


 だから、あのヒノカグツチだって倒せるはず。そうすればもっと私の才能にみんな気がつくはず。もっと名前をあげれるはず。もっときちんと生活できるはずだ。たかだか炎。私の氷で全部消し飛ばしてやる。どこの誰かは知らんが…ヒノカグツチ待っていろ…。


 ―――――都内某所。ギルド本部。

 私はそこに向かっていた。目的は1つ。これからダンジョン探索に出向くからである。

 基本的にダンジョンに出向くのであれば許可が必要になる。今日も私は鍛練のため、渋谷のダンジョンに探索に行こうとしていた。


 ―――――が。いざ、ギルドに到着すると


「そこ、今立ち入り禁止なのよ。」


 と、言われた。この受付の人…見たこと無いな…ここ1年くらい探索者をやっているけど今までみたことがない気がする。新人さんだろうか?


「立ち入り禁止ってどう言うことです?」


「ちょっとダンジョン内で異常があってね。動ける人に対処してもらってるの。」


「そのくらいだったら私も行きますよ?ほら、Cクラスですし。」


 そう言って証明書を見せる。


「Cクラスかぁ…ちょっと厳しいかな。」


「ええ!?駄目なんですか!!」


「うん…。」


「なんでです!!」


「うーん…今あそこの12階層にレベル5指定の魔獣が沸いてるの。ヘイグロトって言うんだけど聞いたこと無い?」


 ヘイグロト…昔何かで聞いたことがある。氷を司る精霊であり、その姿は小さく妖精のようであるもののその力は強大で触れたもの全てを氷漬けにする恐ろしい魔獣であると。


「そ、そんなものが!?大丈夫なんですか!!それ!!」


「まあ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。すぐに行けるようになると思うわ。」


 妙に落ち着いた話口調に違和感を覚えつつ、そんなレベル5指定の魔獣が現れたと言う事実に動揺する。


「私も…行かなきゃ。」


「行って何ができるの?」


 振り返ったところで、受付の彼女はそう言った。


「だってそんな魔獣放っておけないじゃないですか!」


 そうして私は走り出す。


「ああ!ちょっと!!」


 なんて言葉が聞こえたけれど構わない。Aクラスパーティが必要だろうが関係ない。戦える人は多い方がいいに決まってる。


―――――――――――――――

――――――――――

―――――


「行っちゃったか…。」


 走り去る彼女の姿をみて、とりあえず携帯を取り出す。3コールで出た彼にことの内容を説明する。


「―――――ってことで今から1人そっちに行くかもしれない。」


『行くかもしれないって…なんで止めてくれなかったんですか?美海さん。』


「だって、止めても聞かなかったし…それに勇太くんだったらもう終わらせてるかなぁって。」


『はあ…解りました。すぐ帰ります。』


 そこで通話は切られた。さすがは勇太くん。ヘイグロト出現から10分で対処してくれるなんて…最強もいいとこだね。

 しっかし、さっきのあの子…不安だなぁ。今後無茶するようであれば…いや、絶対する。ともかくは、しばらく厳重注意かな。


「証明書の名前…相葉 由美だったかな。」


 覚えておこう。


――――――――――


 ―――――渋谷のダンジョン。12階層。

 そこに私が到着したときには全てが終わったあとだった。


「誰も…いない…。」


 ここに来るまでにすれ違った人もいない。何の気配もない…辺りはどこか焦げたようなようになっている。もう…どこにもいない。帰ったの?


 こんな芸当ができるのはAクラス…それも上位の人間。そのなかで炎、あるいは熱を使うとなると…やはり序列1位の佐々木さん。それであれば納得だ…。


 だけどこんなに早くことが終わってるなんて…。


 Aクラスとの差を感じる。でも私だって…まだまだ強くなれる。強くなって…ヒノカグツチを倒さなきゃいけない。私が1番強いんだって…見せつけなきゃ。


 その時、ふと背後に気配を感じる。この感覚…ゴブリンだろう。即座に魔法を展開する。

 振り向き様、私の手には氷の剣が握られていた。そこから繰り出される刺突。

 それは確実にゴブリンの核を突いた。すると、その体は消滅する。不思議なことに魔石は落ちなかった。が、たまにある出来事だ。そこまで気にも止めない。


「…弱い。」


 もっと…もっと強い相手と戦いたい。私はのしあがらなければいけない。


 みんなバカにしすぎだ。みんな神格化しすぎなのだ。たかだか人間。その程度…魔力を持っている時点で私は選ばれた側の人間なのだから。


 神なんていない。そんなの私が許せない。


「ヒノカグツチ…私の目を誤魔化せると思うな…。」


 誰もいないダンジョン。私の呟きが響く。そして、私の右目は青く魔力を帯びるのだった。

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怠惰なFクラス探索者、有名配信者の配信に写り混みバズる 烏の人 @kyoutikutou

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