第26話 別れ
スサノオの襲来から数日が経った。絹井町の景観は戦いの余波で随分と変わってしまった。
にもかかわらず、一般人の負傷者は0だったと言う。
当初、危惧していたような県全域におよぶ被害も無く、ギルドはスサノオの完全消滅を宣言した。
一方で、ネット上では『ヒノカグツチ』の名前が広まることとなった。と、言うのもギルドの発表ではAクラス上位3名のパーティがスサノオを撃破したことになっているが、肝心のヒノカグツチについては一切触れることがなかった。
様々な憶測が飛び交い、今後『炎の魔神』は『ヒノカグツチ』と呼ばれるようになる。
一般人の負傷者が0であったのに対し、探索者及びギルド職員3名の負傷を確認している。
探索者、佐々木 龍馬はスサノオとの交戦時、左脇腹を刺され内蔵損傷による怪我を追うものの早急な治療により現在はある程度回復している。
ギルド職員、村田 美海はスサノオに襲われ交戦。その際に全身打撲と肋骨を骨折している。命に別状は無いものの、魔力も持たず何の変哲もない短剣1本でスサノオと交戦した事が発覚し、他のギルド職員からは「アイツ何者?」みたいな視線を向けられている。
探索者、西山 桃華は当初意識不明で発見されたものの数時間のうちに意識を取り戻した。スサノオに連れ去られるまでの記憶ははっきりとのこっているようで、スサノオが何者なのかギルドに聴取を受けている。
以上3名が公に公表された負傷者である。
日野 勇太。魔力切れにて意識不明で発見。速やかに回収された後、現在は回復している。
病室の天井を眺める。ただそれだけ。時間が過ぎていく。俺は、スサノオに勝った。
引っ掛かるのは奴も神産みで生まれたと言うこと。なら探索者にも成れただろうに。いったいなぜ、それができなかったのか。
塵1つとて無くなった今では、何を考えても無駄だろう。
「日野くん!」
なんて病室に似つかわしくない元気な声が聞こえる。
「先輩…どうしたんです?」
「いやぁ、日野くんとお話したいなぁ…って。」
「話すことなんてもうないですよ。あれが全てです。」
「いろいろ聞いたよ…ヒノカグツチ…君だったなんて実感無いなぁ。」
「そりゃあそうでしょう。目の前にいる奴があんな怪物なんて。」
「私はかっこいいと思うけどな。」
「かっこいい…ですか。」
なんか…そう言う感想ははじめて言われた。
「うん。めちゃめちゃ強くて…人知れず私たちを守ってくれて…そりゃあ、私より強いよね…。」
「先輩だって強いじゃないですか。」
「いやいや。全然。だってはじめて一緒にダンジョン潜ったときのこと覚えてる?」
「あぁ、先輩がまだCクラスだったときの…あの時も先輩が先行して無茶して中層付近まで行って逃げ帰ったんでしたっけ?」
「ああ言わないで!もう本当に恥ずかしいから!」
「いやいや、今となっては思い出ですよ…。」
そこから、しばらくの静寂。そして、先輩は口を開いた。
「日野くんはさ…これからどうするの?」
「これから………まあ多分、東京に行く事になりますね。」
「行く事になるって…。」
「俺には親がいません。今まで育ててくれたのは真島さんですし、ここで俺に修行をつけてくれた人も居なくなりました…だから東京のギルド本部のほうへ行くと思います。」
「そっかぁ…君ともっと探索者できると思ったけどな…。」
「まあ…探索者してたらどっかで巡り会えますよ。それに…先輩はもっと強くなれる。多分ですけどAクラスだって夢じゃない。」
「お世辞ならいいよ。」
「お世辞じゃないですよ。本当です。そもそもその年でBクラスってとんでもないんですからね?」
「そうなの?」
「…10代のBクラスって言ったら日本に10人ですよ?」
「…え!?」
「そんぐらい強い。それでまだまだ伸び代もあるんです。」
「私って…強いんだ…!!」
先輩の実力。正直凄まじい。この人がBクラスの器な訳無いと思ってる。
「そうです。だから、きっとどこかで会うことになりますよ。俺の存在も知ってるし。」
「君のこと…他言無用だったよね?」
「ええ、お願いします。」
「解ったよ。」
この町ともお別れである。1年と少しであったが…思い入れは深い。
先輩がギルドの人に呼び出され、1人になった病室。少し考える。
東京か…1年ぶりだな。
まあ浮かれてる場合じゃないんだけどな。多分俺が召集される理由は『ここにいる意味がない』からじゃない。『次の戦場がそこになる』と言うことを示している。まだ黒幕が出てきていない。とどのつまりそいつってのは東京湾のダンジョンのボスだろう。
それも恐らくは…師匠と同じようなグレゴリ種。つまりは神である。師匠の力を受け継いだ今…俺が次に戦うのはそいつになりそうだ。
それからさらに2日後。予想通り、俺と美海さんは東京に召集されることとなった。絹井のギルドについては引き継ぎができているそうだ。
そして、迎えたその日。
「勇太くん!!」
ギルドのあった場所。真島さんとの集合場所がそこであった。真島さんを待っているとそこに先輩が現れた。
「…先輩。」
「行っちゃうんだね。」
「まあしょうがないですよ。」
「本当…今までありがとう!!」
「…こちらこそ、ありがとうございます。」
「またいつか!絶対!!」
「ええ…またいつか。」
その約束を交わしたのだった。
――――――――――
あとがき
どもども。この作品を読んでくださりありがとうございます。
ここらで1章は区切りとさせていただきます。それに際して毎日投稿を控える『可能性』がございます。
と、言うのも今とんでもなく体調を崩しておりまして割りとしんどい。でも好きなことしたいなぁなんて思ってる自分もいる。
そう言うわけですので、しばらく間が空くかも知れませんし、なんなら今夜投稿してるかもしれません。そう言うわけですので今後ともどうかよろしくお願いします。
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