第25話 覚醒
魔力が流れ込んでくる。少し声が聞こえた気がした。師匠の声だ。
「こんなんで生き返ったって…いや、言ってる場合じゃねぇもんな。」
お前が守れと…そう言われている気がした。託された命だ…紡がれた命だ…ならもう無駄には出来ないもんな。
「師匠…ありがとうございます…。」
自分を卑下している暇など無いのだ。己が守りたいと望んだのなら、守り続けなければならないのだ。
少し、呼吸を整える。壁に埋まっている、そいつを見る。ありゃ師匠の裏拳をまともに食らったな?
ガラリとその場所が崩れ、奴が姿を表す。
「ったく…とんでもない威力………だ…は?」
奴はようやく俺を視界に捉えたらしい。
「よぉ…世話んなったな…?」
「ヒノカグツチ…なぜお前が………?」
「てめぇの隠し種…よく効いたよ。こっからは…俺の番だ…。」
今なら…無限に力が溢れてくる。目の前の男を、ぶちのめせる。
炎もなにも纏わず、ただ跳ぶ。それでもその跳躍はそいつのもとまで届いた。身体が軽い…と言うよりも…これが師匠の言っていた力の継承だろう。
「なッ!?」
お構いなしにその距離から拳を振るう。大地が割け、そいつは地割れの中に落ちて行く。
「な…舐めるなよ…!」
大量の水泡…その姿でも使えるようになったと言うことか。
現れる巨大な水棲魔獣達。あの時苦戦していたそいつらさえも…軽い。突進してきたシーサーペントを掴み、そのまま叩きつける。上から振ってきたケートスには火界を当てる。鬱陶しいオルカどもも投げ飛ばし、クラーケンの触腕さえ引きちぎる。
「お前の方こそ…舐めるな…。」
「くっ…。」
こいつは…いちいち小賢しい。だからこそ真っ正面からのぶつかり合いなら、分があるのはこちらの方だ。
沸々と沸き立つように…炎は俺を取り巻く。
「ヒノカグツチッ!!」
刀と共にこちらに突進してくる。その刺突をよけ、腕をとる。そして、俺がさっきまで倒れていたところに投げる。
「がッ…あぁ!!」
ゆっくりと…それに近づく…。
「は…ハハ…どうやって倒すつもりだい?」
「どうとだってできるだろ。お前は神でもなんでもない。」
炎を握る。言われている気がする…力を使えと。
「言うねぇ…覚醒ってやつかい…?」
「無駄口叩くなら…自分の心配しろよ。」
1歩…また1歩と近寄る。奴の間合いに入る。
「なら忠告だ…お前も自分の心配をすることだな!!」
そう言うと奴は刀を横薙ぎに振るう。それを素手で受け止める。
「ああ…忠告ありがとう…。」
「ハハハ…やっぱり化物だね。でも僕だってまだ諦めちゃいないよ?」
「あぁそうかい…。」
そのまま、刀ごと奴を空に放り投げる。跳躍…そして奴の腹部を殴る。まだ…もっと遠くへ…再び飛び立つ。何度も殴り付け…何度も追い付き…また何度も殴る。
やがて…雲を越える。
「ここらなら…そろそろ大丈夫か?」
そいつを手に…俺は炎も纏わずに空を飛ぶ。
「なんだよ…その姿…。」
「これが力の継承ってやつなんじゃないか?」
適当に答える。なぜ飛べているのか。俺の背には緋色に燃える1対の羽があった。
少なくともここなら地上には被害はでない。
「…羨ましいねぇ…。」
「何がだ…?」
「知らないなら知らないでいい。まあどちらにせよ…あの人の前では案外誤差なのかもしれないしね。」
「てめぇの言うあの人ってのは誰だ?」
「教えないよ。て、言うか君こそとっとと僕にとどめ刺さなくていいの?また君の首跳ねちゃうよ?」
「今のお前にできるわけ無い。」
「ほう…なんでそんなこと言いきれるんだい?」
「お前は今、自分の命を紡ぐことに全魔力を注いでいる。そして、その身体…みたところ全身骨折だ。」
「そんなことまで解るとは…。」
復活してから…妙に魔力の流れまで見えるようになった。これが師匠見えていた世界であり…俺の速さについてこれた理由なのだろう。相手の行動がある程度解る。
「そんで…こっちとしても情報がほしいだけだ。」
「そうか…いつでも君は僕を殺せると…。」
「ああ。」
「それじゃあ1つ…この世界はどっち道、近い将来終わりを迎える。」
「どう言うことだ…?」
「さあ。死に行く僕には、神の考えなんて解んないからね。今を生きる君がその目で見てみるといい。」
「あっそ…。」
そうして俺は…そいつを軽く投げ。
「【
そのまま焼き払った。
塵の1つも残らないだろう。
ただ、俺もそこが限界だった。今まで俺を支えてくれた羽は炎となり消える。魔力の流れも、途端に解らなくなった。この力…それなりに時間制限があるらしいが…そもそもこんな強大な力、そんなに使う機会なんて無いだろう。
そうして俺の身体は…落ちて行くのだった。
目を覚ましたのはそれから数日経っての出来事だった。なぜ俺の身体があの高度から落ちて無事だったのかは…師匠のおかげだ。異常なまでに俺の身体は頑丈になっており、身体能力も爆発的に高まっていた。
しかしまあ…久しぶりに魔力が切れていた。理由はあの形態変化である。あれが何なのかについては現在調査中である。
そして何より…あれ以降スサノオは発見されていない。いったいやつは何だったのか…そこが気になる部分ではあるが死人に口無しである。
そうして俺は…しがないFクラスの日常に…。
「日野くん!!あれは何!!」
「せ、先輩?」
病室に彼女の声が響いた。西山先輩も目を覚ましたらしく、同じ病院に入院中である。
「あれと言いますと…?」
「ほら!君空飛んできたじゃん!!」
目をキラキラさせながら俺に質問する先輩…俺の存在を知る人がこの世に1人増えてしまったのであった。
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