第24話 炎と共に
ワシの目の前で勇太の首が目の前で跳ねられた。完全な不意打ち。その男はどこまでも狡猾であった。
「は、ハハハ…アハハハ!!呆気ないねぇ…ヒノカグツチ!!」
「貴様…!!」
沸き上がる怒り。その感覚は随分と久しぶりのものだった。手に持つ少女を地面に寝かせる。目の前の男は勝ち誇ったように勇太の死体を見ている。
燃え落ちるその身体。もう既に…事切れている。
「しかしまあ…こんなのがいたとはねぇ…これも邪魔かな。」
そう言うと…奴はワシに刃を向ける。
「君も死のうか。」
「誰に口きいとるか…解ってのことか…?」
「さあね…?」
ダンジョンと言うのは我々で言うところの手枷、足枷…それが無き今…ワシは権能を扱うことができる。だから…今やるべきなのは勇太の処置だ。
「そうか…なら羽虫は黙っとれ!!」
鬱陶しく浮かぶそれの身体に裏拳を入れる。反応速度も勇太に劣る程だ…。
その身体はダンジョンの壁があったその部分に叩きつけられる。
「勇太…すまない…。」
ワシは…勇太に無理難題を押し付けてしまったのかもしれない。
あの不意打ちの芸当をみて解った。あの男は水となりこの少女に完全に憑依していた。直前、それを解き背後に回る…そんなこと常人にはできん。
「お前が一番嫌いな事と知っての処置だ!赦せ!!」
我が権能。それは再生の力。己の身を犠牲にすれば例え人の命であろうとよみがえらせることができる。
勇太…最期まで駄目な父親代わりで済まなかった。
「この命と…この力…お前に全て託す!!」
そうして…自分の胸に手を突き刺し…心臓を取り出す。
そうして…勇太にそれを浴びせるように…その臓を握りつぶした。
その鮮血は…勇太に降り注ぐ。その血から芽生えた植物たちは、頭と身体を接合させる。あとは…彼が目覚めるのを待つだけだ。
――――――――――
―――――俺は…死んだらしい。暗闇の中、意識が漂う。何とも呆気ない不意打ち。それが俺の首を跳ねた。
しくじった。
なにも守れなかった。
約束を破ってしまった。
傲慢だった。
躊躇ってしまった。
―――――だって俺は神でもヒーローでもない。人間だ。そりゃ判断も鈍るし、親を殺したくない。もう2度とあんなこと、起こしたくない。
今から17年前の話。俺が生まれたときまで話は遡る。とある病院の1区画が炎に包まれると言う事故が起きた。それによる犠牲者は約30名。生存者は1名。そのたった1人の生存者が俺である。
炎と共に、俺は生まれた。
その炎によって両親は死んだ。生まれながらの人殺し。それが俺だ。
だからヒーローなんて語る資格も無いし、表だって世界を守るなんてこともできない。俺はそんなことをしてはいけない側の人間だから。
ヒノカグツチの名を聞いたとき…正直本気で真島さんを焼き殺してやろうかとも思った。しかし…まあこうなってみると、あの人はどこまで先を見越していたのか解らん。真島さんにだけは頭が本当に上がらない。癪にさわるような言動だろうとそこには必ず意図があった。
何より、師匠と巡り会わせてくれたのも真島さんだった。師匠の幽閉されたダンジョン…それを発見したのが真島さんだ。2人は…お互いをよき理解者だと言っていた。
だからこそ、本当に申し訳ない。こんな呆気ない最期で。なにも守れず、真っ暗闇をただ漂うだけとなってしまった俺にはもう何も…。
いや、案外これだけでいいのかもしれない。
最悪の人殺しは死んだ。全うしたと考えれば俺はもう…これで。
「これで…なんだって言うんだろうな。」
中途半端だ。何をするにしても俺は…結局、力に飲まれただけの一般人だ。
そんな責務…俺には荷が重すぎるだけだ。
僅か。ほんの僅か…暗闇に灯火が垣間見えた。
「俺に…何を求める…?」
こんな無様な死体になにかできる?
それでも灯火は訴えかけるように確かに煌めく。
うざったいと目を瞑るが。それは主張を強めていく。やがて、暖かいと感じれるほどに…灯火は炎となり煌々と俺の手元へとやってきた。
「何なんだよ。どうしろって言うんだ?」
盛る炎を見つめる。これは言ってしまえば呪いのようなものだ。俺は…こいつを支配しなければいけない。完全に…そうでないとまた誰かを…ってもうそんなこともないのか。
もう俺は責務から解放されたのだ。
世界など知ったことでは………知ったことでは…。
「ない…こともない…。」
俺の知っている世界には…幼馴染みがいてくれる。親代わりがいてくれる…先輩がいてくれる…。
何も無くしたものばかりではない。炎をみているとそんな気がしてくる。
「受け取れって言うのか?お前を…。」
相手はただの炎。それでもそいつは…頷くようにただ揺らめく。
「まだ…どうにかなるんだな…。」
そうして俺は…その炎を掴むのだった。
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――――――――――
―――――
目が覚めた。悪い夢でもみていたようだが…残念ながら現実で…さらに言うと事態は酷くなっていた。
「…師匠…。」
その有り様をみて察する。これは師匠がやったことなのだと。俺に全てを託したのだと。守れと…あの炎は…きっと師匠からの贈り物だったのだろう。
やがて師匠の身体は、金色の魔力の束となり俺の周りを漂う。優しく撫でるように…安心させるみたいに…魔力が俺に注ぎ込まれていく。力が溢れてくる…これが師匠の言っていた継承と言う奴なのだろう。
「…ありがとうございます…。」
託された命…今一度俺は…そいつを睨む。スサノオ…。
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