第23話 一閃
足取りはいつもより重い。だが…師匠の決めたことだ。俺はそれを全うしなければならない。
いつもならこんなことにはならないダンジョンからの帰り道。
「最悪だよ。何もかも…。」
呟きながら足を動かす。見慣れた町はいつもよりも静かで、不気味であった。
ギルドへと向かう。みんな無事なのだろうか…?俺は…きちんと作戦通りに動けるのだろうか。
そうして、その現場に到着し目の前の光景に唖然とした…。
「みん…な…これは…?」
警戒体制の鮫島さんと加茂さん…そして、時が止まったみたいに動かない龍馬さんと―――――。
「せん…ぱい…?」
最悪だ。何もかも。目の前のそれがスサノオと言うことなのだろう。あまりにも…あまりにも屈辱的であった。それと同時に恨みはつのっていく。
「…勇太…来たか。当初の作戦は失敗か?」
「…ま、まあ、策はある…けどこれは…。」
「大丈夫だ…全力で俺たちが連れて逃げる。そろそろ…こいつが止まって10分だ…。」
瞳に宿る金色の魔法陣…それでおおよそ何が起きたかを察する。
拳を握る。火の粉が舞散る。
「解りました…。」
覚悟なんて決まらないまま…瞳の魔法陣は消えた。その瞬間、動き出す。
「がはッ…。」
龍馬さんは腹部を刺されている…それをすかさず加茂さんが抱え…みんな戦線を離脱した。
「まさか…あんな隠し球があるとは思わなかったが…まあいいさ。本命が出てきた…。」
「お望み通り来てやったぞ…スサノオ。」
「一騎討ちだ…ヒノカグツチッ!!」
その瞬間…大量の水泡を空中に浮かばせるスサノオ。あいつと…レヴィアタンと同じだ。これは圧縮した水ではない…召喚魔法である。
「…何が一騎討ちだよ。」
炎を纏う。ここには…この場にはもう誰もいない。少なくともみんなともそれなりに距離があるだろう。
端から全力でやらせてもらう。炎は蒼く盛る。
高速移動から顔面に思い切り拳を入れる。
「がッ…!?」
きれいに頬に入った。それでもよろける程度。レヴィアタンとなった先輩を取り込んでいる以上、神性があるとみていい。
水泡に向け火界を放ち、全て蒸発させる。
「ふ…ふふ…この速度。この練度…流石だよ。」
「うるせぇな…。」
イラつく心のまま、そいつの腕を取りダンジョンの方にぶん投げる。間髪入れず、その後を追いかける。もう何もかも嫌だ。とっとと終らせてしまいたい。
「いい…いいねぇ…。」
奴の言葉に炎はさらに盛る。もうどうだっていい。
「いい加減…黙れ。」
炎の拳はそいつの頬に突き刺さる。町中にそいつの身体は叩きつけられるが、休む暇など与えない。
ダンジョン方向に蹴りをいれ、そちらに弾き飛ばす。
ふざけた作戦だ。
「ああ…痛い…。」
「ならどうしてそんな…余裕そうなんだよッ…!!」
殴り飛ばして、蹴り飛ばして…最終的にダンジョン上空までそいつを蹴り上げる。
そして、そいつに追い付きまた腕をつかむ。
師匠の考えた作戦。それはまさしく捨て身のものだった。
力一杯、何もかもどうだっていい。俺はこいつを殺すことだけ考える。そのままダンジョン最下層まで届くように熱を俺の力に変え真下に叩きつける。
大地が割れる程の怒号。何層にも及ぶダンジョンの地面を突き破りそいつは落ちて行く。師匠のもとへ。大きなクレーターを形成しながら落ちて行き…そうしてついにそいつは最下層の地面へと叩きつけられた。
「あ…ぁあ…こんなに強いかい…。」
伸びているスサノオの四肢を…師匠がつかむ。4本の腕。確実にその身体を拘束する。
これこそ…師匠が言っていた策である。気にせずに殺せと…こんなこと…ねぇだろ。
それでもやらなければ行けない。こいつを殺さねば…世界を守ることなどできない。世界なんて…。
「【
その詠唱で炎は紅く揺らめき、俺の手の中に集約する。温度は上がり…何もかもを溶かす勢いだ。熱波が立ち込める。これを全て…あいつに叩きつければ何もかも終る。先輩だってきっと…戻ってきてくれるはずだ。もうどうにでもなれ。
「くっ…あぁぁああああぁああ!!!!」
絶叫と共に急降下。熱を増していく…紅く…さらに紅くと獲物を求める。
「こいっ!勇太ッ!!」
師匠の目が見開いた。至近距離でそれを放とうとする。
たったの1年間…いや、長い1年間だった。俺は…俺は…。
「師匠…!!」
何もかもこちらの作戦通り。やり場の無い涙が頬を伝う。スサノオの眼前。そこで俺の最大火力を放つ―――――。
放つ…その僅かな時間で気がついた。
スサノオが笑ってる。
刹那その声は後ろから聞こえてきた。
「いやぁ、上手いこと行くもんだね。」
「なッ…!?」
ニヤリと笑っていたはずのスサノオの表情はぐったりとしている。そして、その声は後ろから聞こえる…つまり目の前のこれは…。
「せん…ぱい…?」
その拳を振り下ろすのを躊躇った本の僅かなその隙。俺の首筋に一閃が走る。
「勇太ッ!!」
痛みはなかった。直後見えた景色によって、俺の首が跳ねられたと言うことが解った。憎たらしい男は悠々とこちらに笑みを浮かべている。
世界がゆっくりに見える。血しぶきを上げる俺の胴体。ほくそえんだスサノオに炎をぶつけようとするが…伸ばす手はそこにはない。
その瞬間に気がつく。俺は敗北したのだと。そうしてこれから死んでいくのだと。
完全なる不意打ち。見事な一太刀に俺の意識は途絶えたのだった。
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