第22話 世界を守ると言うこと
誰かを守るような存在になりたかった。犠牲になるなら、俺1人でいいと本気で思っていた。
今、目の前に居るのは圧倒的すぎる力を持つ最悪な敵。俺にはヒーローの性分は向いてないらしい。
どれ程の猛攻も、海の化身の前では無意味だ。ここまで無力を痛感させられることもそうない。表向きには、俺が日本で1番強いことになっている。そんなのまやかしだ。
勇太の方が何度も世界を救ってきた。あいつがこの星で1番なのだ。
まだ身体は思うように動く。
「まだ戦える…。」
戦えるのに…諦めている。
どんな魔弾も、どんな斬撃も、どんな魔法も。海は等しく受け止め、いなし、弾く。容易くそれをやってのける。
確かに、所詮俺たちは時間稼ぎでしかない。だが…せめてあいつに少しでも楽させてやらないと…駄目だ。
あいつの兄貴分の意味がねぇ。
「俺は…!」
情けねぇ。どうやったって敵わないだとかそんなの信じたくねぇが…受け入れなきゃ駄目だ。だったらせめて腕の1本でも持っていかないと…もっと体力を削らないと…そうして多重に魔法陣を展開しようとして…
「龍馬…押さえろ。お前がそれを使ったとて、奴に敵うかどうか怪しい。」
鮫島に止められた。
「鮫島…。」
全てお見通しと言うわけか。幼馴染みにはかなわんな。
続けて、鮫島は語る。
「奴を倒すよりも…確実に止めることを考えろ。うちには最強が居るだろ。」
…トドメなら勇太がやってくれる。だが本当にそれでいいのか?あいつにばかりこんな思いをさせていいのか?
「勇太のこと、もっと信じてやれよ?」
「…え…?」
「あいつは俺たちよりも遥かに強い。お前だって解ってるだろ?例えこいつとて、勇太の前では塵でしかないって。」
「あ…あぁ…。」
「なら俺たちのすることは1つだ。あいつの願いを叶えてやること。それこそ兄貴分のすることだろ。」
「あいつの…願い…。」
あまりにも俺は…視野が狭かったのかもしれない。あいつは…誰も死んで欲しくないと本気で思っている奴だ。それに報いるのであれば…確実な足止め。
足を止めるのであれば、ここで俺がむやみに体力を消耗している場合じゃない。
足を止める…動きを止める方法ならある。
「ありがとな…。」
そうだ。簡単な話だ。少しでも削る…そんなことを考えている暇など無い。少なくともこいつさえ抗えないもので縛ればいい。
「俺さ…お前らのこと信じていいか。」
「当たり前だろ?」
「当たり前じゃん?」
口を揃えて2人はそう言った。
「なら、あとは任せる。俺は今日1日、もう動けないからな?」
そう言うと、俺はスサノオのもとへと歩き出す。
「お、君が来るのかい?君との近接戦闘…あれも随分楽しかったけどねぇ…?」
生意気なことをはいてやがるが、生憎と戦闘ではない。
俺の瞳に金色の魔法陣が宿る。なにも、光を操るだけが光属性の魔法ではない。例えば治癒もそうだし、以前使った転移も広い目で見れば光属性だ。
今回はその応用になる。
「さあ、来なよ?」
刀を構えるスサノオ。臆することはない。こいつの動きは止まる。せいぜい10分が限界だろうが、勇太ならそれでいい。俺はもうあいつに全てを託す。
走り出す。奴に向け。触れることさえできればいい。
「愚策かい?」
その刀は俺の腹部を貫く。構わない。距離を詰めることができたのなら。その手首をつかむことができたのなら。
「捕まえたぜ…?」
なにも…倒すことに拘らなくていいのだ。
金色の魔法陣は作動する。奴の瞳にも同じものが現れる。
これを操れる者は後にも先にもいないと言う。それこそ俺が日本一たる由縁。
【ラグナロク】
光とは絶対的な速度である。そのため光の速度をねじ曲げれば、時間は同じように歪む。例えばこの魔法を加速に使えば、俺の速度に勝るものはいなくなるわけだし、例えばこの魔法を減速に使えば俺の触れているものも同じように減速する。
「な…!?」
「ちょっとばかり…おとなしくしておけ。」
万能のように聞こえるかもしれないが、無論凄まじい量の力を消費する。とりあえずこれを全力で使えば使えば俺は丸1日は動けないし、3日はまともに魔法が使えない。
それを差し引いても、こいつを10分確実に止めることができるのは凄まじいアドバンテージだ。
少しばかり、俺は時を止めた。
――――――――――
―――――絹井町のダンジョン最下層。
「―――――そんな…それじゃあ師匠は…!!」
「構わんよ。どうせ、この力の後継者を探していたところだ。」
「ちがう!!そうじゃない!!どうしてそんな自己犠牲みたいなことするんだって聞いてんだよ!!」
「…勇太。お前は強くなった。過去の因縁を乗り越えるときが今だと思え。それがお前をさらに強いところに持っていってくれる。」
「そんな………俺は…もう一度親をこの手で殺さなきゃいけないのかよ…そんな方法なら俺は…俺は…。」
「勇太。正直こんなの、ワシのわがままなんだがね…人に敗れこんな地に封印されるくらいならいっそ全てを託し、死にたいとそう思っているのだよ。それにたる人物が君だ。勇太。」
「…なんでそんなに…。」
「ワシももう
「師匠…。」
嫌だと…声を張って言いたい。ふざけんなと、叫びたい。だけど…確かに師匠の言う通りにすれば被害は最小で済む。でも…。
「ぐずぐずしとらんで、そのスサノオとやらをこのダンジョンにぶちこんでこい!!」
それは師匠の魂からの叫びであった。本気なのだ、この人は…俺は世界を救わなければならないのだ…。
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