第21話 古のダンジョン

 今この地上には12箇所ほど立ち入れないダンジョンがある。そのうちの4ヵ所、それは絹井と同じ特性を持ったダンジョンである。


 かつてこの世界には、神と呼ばれる魔獣が存在していた。陸に3柱、海に3柱、天上に1柱、地底に1柱。それらは世界の均衡を保っていた。

 が、それは人間の台頭により崩れることとなる。新たなこの星の支配者は8柱の神々をダンジョンと言う牢獄に閉じ込めた。

 それこそが、今この世界に溢れるダンジョンの起源である。そこから8柱の神々の魔力は大地を巡り、地脈を作りその他のダンジョンが生まれたのだと。


 それこそが失墜の神々グレゴリである。そして、俺の師匠もそのうちの1柱。

 無論だが、神々には個別の名がある。


 俺の師匠の名はバアルと言い大地の神であった。


 その称号にたがわぬ巨体。今俺の目の前にあるそれは何度見上げてもその威圧感は荘厳たるものだ。


「…勇太…。」


 空気を察した師匠は優しく問う。


「師匠…折り入ってお願いがあります…。」


「お前の頼みなら聞こう…。」


「俺と…一緒に戦ってくれませんか…?」


「お前と…か…お前が頼むと言うことはそれだけの事態なのだろうな…だが無理だ。ワシはもう無駄な殺生はせん。」


「そのためにもです…!」


「…と言うと、どう言うことだ?」


「俺…本気を出さなきゃいけないんです…じゃなきゃ倒せない相手が…居るんです。」


「ああ、そりゃあ駄目だわ。ワシの身体が持たん。」


「…え?」


「いいか。良く聞け。お前の炎…それはとっくに神の領域に達しておる。お前の扱うあの【阿鼻司アビス】。あれこそお前の本来の力なのだろう?」


「はい。そうですけど…。」


「あれを完全解放しようものならワシはそれに耐えることができん。」


「…え、神性を持っているのであれば単純な属性攻撃は全て無効化されるのでは?」


「ああ、その通りだ。だが、お前のその【阿鼻司アビス】は単純な属性攻撃ではない。」


「…え?」


「お前のその力はこの世の中の法則を作り替えて発現している力だ。」


「…???」


「ワシもお前の拳を受け止め気づいた。お前の攻撃でなぜ火傷をするのか…あのときの魔力の動きから至った結論がそれだ。お前は世界の法則をねじ曲げ、ことにして扱っているのだ。」


 本っ当に何言ってるかさっぱり解らん。


「え…?」


「要はお前が今できているのは制御であって操る領域まで達していないと言うことだ。その段階でさえ、こんな有り様と言うことだ。そんな中でお前が本気なんて出したらどうなるか…解るな?」


「たとえ師匠であったとしても…甚大なダメージを負う可能性がある…そうなれば俺の補助どころではなくなり結果は同じ…と。」


「そう言うことだ。そもそもの話、お前はどうやってワシをここから出そうと?」


「俺なら風穴を開けれると…。」


「その発想の時点でおかしいからな?できないからな、普通。」


「は、はい…し、しかしそうなると…俺はどうしたら…。」


「策はある………どっち道、ワシは死ぬことになるがな。」


「そんな―――――。」


「それしか無い。」


 そうして淡々と師匠はその策を語るのだった。


――――――――――


 同時刻―――――絹井町のギルドにて。


「いい連携だね…。」


 もはやボロボロになった戦場。建物は倒壊しているがこいつ相手だ。なりふり構っていられない。町民も避難を終えた頃か。


 以前見た男の姿とは全く別の少女の姿をした目の前の存在に意識を向ける。前線の加茂、後方の鮫島と俺。にしても美海さんこれ相手に良く5分も粘ったな。あの人は怒らせたら駄目だわ。


 的確に攻撃を入れる加茂。隙をついた鮫島の狙撃。バフと援護を主にしている俺…1対3と言う状況にもかかわらず、平然とたたずむ目の前の化物。

 Aクラストップ3をかき集めたパーティでもこの様か。せめてSクラスが何人かほしいな。


「わりと辛いな…。」


「わりとで済むかこれ?」


「済まねぇ。」


 そうして俺はまた、金色の魔法陣を大量に展開する。


「またか?」


「ああ、あれだ。」


 ここに来て初っ端こいつに叩き込んだ俺の魔法。


「加茂!躱せよ!!」


 そう言うとチラッとこちらだけ見る。それがあいつなりの返事だ。その瞬間に俺はその魔法を発動させた。


使徒の黄金エル・ドラード


 光属性最大の魔法。それは周囲の物質を光に変換する魔法。質量をそのままエネルギーに変換するためとてつもない威力のレーザーとなり、全てを焼き払う。まあ、勇太の炎ほどではないがこれも随分とイカれた温度だ。


「まあ、それもう…見切ってるけどね。」


 そいつのうざったい声は消えてはくれないが…牽制にはなる。


「水で作ったレンズか…。」


 光と言う都合上、こういう屈折には弱い。本来ならそんなの関係ないくらいに蒸発させることが出きるのだが…流石にこいつの扱う水は別格だ。完全に軌道を曲げられた。


「いやあ…君らも強いよ?強いんだけどね?出すならヒノカグツチにしてくれないかな?僕はあの人の楽しみを奪いたくないんだよ。」


 何よりも…これで手加減してるって言うのが最高に意味わかんねぇ。


「随分と余裕かよ…。」


 こんな奴…勇太はいったいどうやって倒すんだろうか?頼りない兄貴分で悪いとは思いつつ…あいつがどう成長してきたのか…どこまで強くなったのか…それを見るのが楽しみで仕方ない俺が居る。

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