第20話 最強

 水の刀を手にした彼女…ただ事ではないことを察知し、携えていた護身用の短剣を取り出す。


「へぇー…戦うの?」


 はっきり言って…この子はもう別のなにかに乗っ取られている。戦ったところで私はあっけなく殺されるだろう。だけどせめて…ギルドには連絡をいれなきゃ…。


 おそらくは…スサノオ…!


 緊急回線をオンにする。そして、どうにでもなれと叫んだ。


「絹井のギルドにてスサノオと遭遇!至急避難の要請を―――――。」


「ああ、それでいいよ。仲間呼んでくれて。」


 目の前の奴はそう言い放った。余裕綽々と刀身を眺めている。


「はっきり言って他の奴ってのは僕にとっては同じだからね。深海に生身で放り出されて無傷ですむと思ってる?」


 こいつ…望んでいるのは本当に勇太くんの存在だけ…他の者は眼中に無い…。


「で、終わった?」


「っ…!」


 短剣を構える。勝てない…無理だ。解る…こいつは人間の域をとうに越えている。


「まあ、おとなしくしてくれればなにもしないんだけどね…。」


「そんな言葉…信じられるか…!!」


「まあ、そうだよね。じゃあしょうがない。力ずくだ。」


 そう言うと、目の前のそいつは宙を舞う。そのまま体重をのせ振るわれる刀を短剣で受け止める。


「いいねぇ…。」


 そいつがそう発すると、私の体は吹き飛ばされる。


「なっ…!?」


 重い…あまりにも重たい。


「まだまだ…こんなもんじゃないよな?」


 怯んでいる暇など無い。すぐに刺突が跳んでくる。切先をそらすので手一杯…その全てが強力無比で相手をするだけでこちらの体力が削れていく。


「やはり…強いなぁ…。」


 躱すだけで手一杯だ。


「だが、守るだけだと僕には勝てないぞ?」


 もとより勝つ気など無い。勇太くんが帰ってくるまでの時間稼ぎでしかない。みんなが避難を始めるまでの時間稼ぎでしかない。


 一瞬の隙、それを見てその場を脱出する。


「はぁ…はぁ…。」


 駄目だ。こんなの体力がもたない。


「まだ慣れないものでね…もう少し相手を頼むよ?」


 あれだけ動いたのに、こいつは全く動じていない。どころかさらに跳躍して、私に襲いかかる。


「【草薙】」


 その太刀筋…見きれない程ではないものの、私には受け止めるしかできなかった。しかし、それもまた間違いだった。


「くッ…!!」


 あまりにも…今まで受けてきた攻撃の何よりも重たい。荒波をそのまま一身に受けているようだった。

 そのまま、受け止めた短剣は音を立て折れる。

 大きく弾かれる私。死を覚悟した。これが私の最後なのだと。


「ごめ…ん…。」


 時間にしてどれ程耐えたか…5分程度は稼げたかな…?どこか遠くでサイレンの音がなった気がする。避難勧告のそれだ。そこまで持ちこたえたなら…いいや。


 いや、良くない。まだ…終わってない。終わらせちゃいけない。


「いやぁ…見事だね。まだ立つのかい?」


 武器だって無い。でも、この体がある。持ちこたえろ…勇太くんが来るまでは…!!

 怪我だってしてない。少し衝撃で頭を打った程度。この程度ならまだ…立っていられる。


「これでも…ギルド職員だから…!!」


「タフだねぇ…人質にできれば良かったんだけど…まあ、いいか。」


 そう言うと。スサノオは水の刀を消失させる。代わりに今度は水の球が奴の回りを取り囲む。


「【打て】」


 その詠唱が聞こえた後…聞こえてきたのは撃鉄の音であった。刹那見えたのは宙を舞うスサノオの頭部であった。


「無茶しすぎだよ。美海さん。」


 聞こえてきたのは懐かしい声。


「こ、煌太…くん?」


「だ、誰だ!お前は!!」


 頭だけになっても、スサノオは喋り続ける。どころかおもむろにその頭を拾い上げ、何事もなかったかのように接合する。


「うへぇ、バケモン過ぎるって。」


 目の前の様子に煌太くんも驚いているようだった。だが、彼の目には余裕がある。


「これは…いったい…?」


「真島さんがな、万が一の時のためにって。」


 真島さん…あの人には、本当に敵わない。


「ごちゃごちゃと…まあ、いい。今さら2人になったところで―――――。」


「―――――2人じゃないんだな。これが。」


 その声と共に見覚えのある大斧を持った少女がスサノオに飛びかかる。


「くっ…!?」


 それも刀で防がれてしまうが、それでも私の時よりも動揺が激しい。


「無茶しすぎだって。美海さんは。」


 そう言って彼女はこちらに笑いかける。


「美咲ちゃん…。」


 そしてもう1人、入り口から顔を出した人物がいた。


「さてと、スサノオ…だったか?あのときの借り…返しに来たぜ…?」


 腕を組む佐々木 龍馬の姿だった。


「たかだかその程度で…僕に勝とうって言うのも癪だね。」


「勝とうだなんて思っちゃねぇ。端から俺たちは時間稼ぎでしかないさ。勇太が来るまでのな。」


「勇太…ヒノカグツチか?」


「あいつをその名前で呼ぶな。不快だ。」


 そう言うと、龍馬くんは背後に大量の魔法陣を展開する。


「あん時はただの人間だと思って手出しはできなかったが…さっきの芸当見る限り、もう人間じゃねぇってのが解った。好き勝手させてもらうぜ。」


「く…ふふ…いいだろう。来てみろ!人間風情が!!僕は僕は野望のために君たちを…殺してやる!!」


 Aクラス上位3人によるパーティー…みんな…強くなった。


「勇太くん…。」


――――――――――


 絹井町のダンジョン、入り口。


「師匠…すみません…力を貸してください。」


 そう溢して俺は、そのダンジョンへと潜るのだった。

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