第18話 東京湾のダンジョン

 翌日の出来事だ。俺、日野 勇太はギルド本部に召集されていた。昨日のこともそうだが、もう1つ問題がある。今後の対応についてであった。


「昨日の出来事だが…凄まじい勢いで認知されているのは知っているな?」


 真島さんと2人きりでの会談。なんだかんだこうして話すことは多い気がする。


「いやぁ…やっちゃいましたねぇ…。」


「現場周囲には半径2kmにも及ぶクレーターの出現さらに5km圏内にはガラス化した砂があちらこちら…火事の被害に関しても同様。さらには高温の衝撃波による電波障害等々―――――。」


「わかりました!わかりましたから!!」


「…まあ今回の件、炎の魔神があの地に降り立ったと言うことにしておいた。」


 流石は真島さん。


「で、だ…予定では例の討伐隊が動き出す予定だったのだが…あれは無理、との回答をいただいた。」


「まあ、民間のギルドだとたかが知れてるでしょうし…。」


「わりと映像も出回っててな。巨大な影も見える…あの場を知るのはお前しかいない。何があった?」


 そう聞かれたので、昨日俺の見た全てを話した。あの指輪の出所、スサノオとの会話、先輩のこと…そして、裏に控えているであろう何かのこと。


「―――――はっきり申し上げて…これはレベル7指定で間違いないと。」


「スサノオ…面倒だな。」


「なぜこのタイミングで動き出したのかも謎ですが…やはり関係があるのはあそこでしょうね。」


「東京湾のダンジョンか…お前から見てあそこには何がいると思う?」


「…師匠に匹敵する何か…少なくとも、今回のレヴィアタン以上の何かですね。」


「はあ…胃が痛い…。」


「これに関して言えることって言ったら…俺1人でどうこうっていうのは無理です。国が1つ消えます。」


「そうだろうな…今回の件でよくわかった。」


「だけど、スサノオがいつこちらに襲ってくるかもわかりませんし…何より先輩がどうなったかもわかりません…。」


 拳に力が入る…もっと俺が正しい判断を出来ていればあんなことにはならなかった。


「大丈夫さ。きっと。」


 真島さんはそう切り出す。


「まずは目の前の問題の対処だ。どちらにせよ、スサノオは敵となる。これまでに類を見ない程のな。」


「…はい。」


「さっきお前は、1人ではと言った。なら勝算は?」


「…師匠を解放することです…。」


「お前の師匠…グレゴリをか?」


「はい。それしか…俺には思いつきません。」


 絹井町のダンジョン最下部に存在する…いや、正確には封印されている存在。それがグレゴリ。俺の師匠だ。

 神性を持つ師匠であれば、俺の炎でも大丈夫だろう。俺と共闘できる存在で言ったら、彼ら神性を持つものしかいない。


「しかし、ダンジョンからの脱出など…。」


「俺が風穴ぶち開けたらいい話です。」


「簡単にいってくれるが…もう本当にそのくらいしか策がないのも事実…グレゴリが現れたとして、パニックになったとしても…うーん…。」


「絹井…いや、戦場になるのは町単位じゃないですね…とりあえずスサノオが現れたら、その県に全面避難を要請してください。俺が向かいます。」


 スサノオ…お前だけは俺が仕留める。何に変えても…。


――――――――――


―――――東京湾のダンジョン、最新部。その空間だけは水がなく、普通のダンジョンのような大きな空間になっていた。その場所に青年と、巨大な人魚の姿。


「いやぁ…本当にさらってくるってどういう神経してんの?」


「あなたが言ったんでしょ?外に出たいって。僕はそれを叶えているだけですよ。」


 黒く焦げた彼女の体。まだ息がある。指輪も朽ち果てなくて本当によかった。


「ヒノカグツチ…いやぁ、流石よね。まさか選りすぐりの魔獣たちを吹き飛ばされるなんて思っても見なかったわ。」


「僕も同じくですよ。あれだけのことをしておいて全く倒れないんですから。彼の魔力がどれ程あるのか知りたいくらいです。」


「ほんとよねぇ。」


 そんな雑談混じりに、彼女の体に触れる。流石は魔獣化したことによる耐久性。おそらく、数日もすれば自然治癒で元通りだ。

 いや、逆か。神性を持った存在に瀕死の怪我を負わすことの出きる奴が規格外なのだ。

 まあ、いい。ちょうどよく食えるほどに弱ったのだから。


「じゃあそろそろ…。」


 体を水に変化させる。『水』と言うよりも、スライム状の方が正しいか。そのまま彼女を飲み込んでいく。魔力回路に、神経網に染み込んでいく。体を…

 特段この子は適正が凄く高い。同じ人間とは思えない。むしろ、この子の方が魔獣なんじゃないかっていうくらいだ。


 完全に体に溶け込む。体がどんどんと再生していく。凄く…凄くよく馴染む。


「気分はどう?」


「あー…うん。いいね。悪くない。」


 水魔法もある程度扱ってみる。水泡、召喚、圧縮、どれも問題なく機能する。流石…レヴィアタンにさえ適応した子だ。素晴らしい。


「…これであの邪魔なヒノカグツチを殺してあなたのことを外に出せそうですよ。」


「本当に?やったぁ!!」


 水を圧縮した刀を手に、素振りをする。身体能力も申し分ない。何より、ガワがこれなのが一番いい。おそらく奴は躊躇うだろう。


「まあ、もう少し待っててくださいよ。」


 そう言って僕は、液状化して海へと戻る。あの人を外に出してあげる上での一番の障害。それこそがあのヒノカグツチ。

 今一度、あの人の時代にするために。悲願である人類再創造のために…僕は人柱にでもなってやろう。

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