第17話 Aクラスの意地
「は、はは…。」
渇いた笑いがこぼれる。ここまでやってようやくこれだけ…。
「いやはや…これ程とは。恐れ入ったよ、ヒノカグツチ。」
焼けた大地にそのふざけた声は響く。
「ハッ…生きてんのかよ。スサノオ。」
あれで蒸発してくれたらありがたかったが…どうにもそうはいかなかったらしい。
「あの程度で死んでちゃ、神の名なんて名乗れないからね。まあ、正直死にそうだったけど。」
「ああ、そうかい…んじゃ次はてめぇだな…。」
制御なんて構わず炎をともす。
「えぇ…君まだここまで動けるの…?」
「動けちゃ悪いかよッ!!」
そのままの勢いで殴りかかるが、あっけなく躱される。そりゃあそうだ。先の戦いでこちらの集中力は切れ、疲弊している状態。
「まぁ、いいよ。どっちにしたって今の僕の目的は…。」
奴の姿が水となってまた消える。本能的に先輩の方を向く。
「こっちだから…。」
「趣味が悪い…本当に…。」
「まあ、君の相手はまた後日だ。またね。」
「テメェ…!!」
体に思うように体が動かない。というか、力が入らない。今や跳躍はおろか走ることさえままならない。
奴は…先輩はまた水となって消えていった。
「ま…待て…!」
そんな声もむなしく、ただ膝から崩れ落ちるだけだった。
――――――――――
―――――海岸線から離れたダンジョンにてその男、川田はそれと対峙していた。
俺の目の前に現れた存在…八首の黒竜。大きさもゆうに10メートルを越えているようだ…神話に登場するヤマタノオロチのようだった。
「なんだよ…これ…。」
ここ最近の騒動に加え未知の魔獣の出現…ただ事ではなさそうだ。コメント欄も困惑で溢れていた。そりゃそうだ。ここはまだ中層辺り。こんなもんが居ていい場所じゃない。
【流石に逃げた方がいいって!】
【これやばすぎだろ!】
【どうすんのこれ…?】
「逃げた方がいいのは確かだろうけど…逃げることが出来たらな…。」
既に俺は奴と目があっている状態。正直、ここまでのオーラを発しているような奴から逃げられる気がしない。
無言で背中に携えた大剣を引き抜く。あれから新調してもらったバスターソード。それが俺の得物だ。
1つ、深呼吸をする。
「…いくぞ…。」
足に力を込める。魔力を全身に流し込む。跳躍から、奴の脳天めがけバスターソードを振り下ろす。弾かれるが、確実に傷は入っている。
「倒せない相手じゃないか…。」
着地と同時に、横方向から炎が襲いかかる。
ブレス攻撃…首が多すぎてちょっと見切るのが難しい。とっさに後方に飛び退ける。
その炎が止むと同時に、奴に向けて駆け出す。もっと…もっと、魔力を全身に回せ…もっと刀身に回せ…!
加茂ができるんだ。戦闘スタイルが同じの俺だって出来るはずだ…!!
懐まで距離を詰め、その首の一つに対しバスターソードを振るう。
「う゛ぉ゛…ら゛ぁ゛ッ!!!」
力任せの一閃。それは確実に奴の首を跳ねた。
【おお!!】
【すげぇ!!】
【頑張って!!】
コメントなんて目を通す暇がない。あと、七本。死ぬ気で持たせろ…。
勢いのまま、隣の首に斬りかかる。しかし、それは弾かれてしまう。流石に駄目か…集中力が持たない。
だが奴は待ってはくれん。別の首が俺に噛みつきかかる。間髪、距離を取る。
「首1つ跳ねてもこの生命力かよ…。」
ふと奴を見る。見た限り、四つの首がブレスを待機していた。
ズルすぎるだろ。何て考える暇もなく、もう一度魔力を練り直す。もっと強固に、もっと大量に。
奴のブレスが合図だった。こちらに飛び交う熱線を避けながらもう1度間合いに入る。
「これで…どうだッ…!!」
二つの首を捉えたが…それでも絶ち斬ることができたのは一つだけ。あと六本。
「まだ…まだぁッ…!!」
振り抜いた反動を利用し、一回転してからもう一撃。また一つ、首を跳ねる。残り五本。
安心している余裕など無く、真上からブレスが降り注ぐ。避けきれず、咄嗟にバスターソードを盾に回避した。
なんだ、勇太の方が断然熱い。
「はぁ…はぁ…。」
にしたってこいつ、タフすぎる。ここまで首を跳ねたのにも関わらず攻撃の手をやめるどころか怯えてすら、ましてや怯んですらいない。
「ちょっと化物過ぎやしないか…?」
無機質さが、少しばかりの恐怖を産む。
だが、そんなことも言っていられない。ブレス攻撃から抜け出し、そのままその首を跳ねる。残り四本。
半分まで削りきった。多少は楽になって欲しいが…。
「よし…。」
正直、こいつ…固すぎる。1つの頭を跳ねるのでも相当な集中力を要する。だが、俺程度だと体を両断など出来る気がしない。やはりこれしかないのだ。
限界まで体に魔力を回せ…まだまだ俺はこんなところでへばっちゃならない。
「ハァッ!!」
やることなんていつも決まってる。この大剣で道を切り開く。高みへと上っていく。それが俺の生き方である。
今この場を数万人が見ているのだ。負けられるわけがない。
力任せにまた剣で薙ぐ。一本、首が跳ぶ。あと三本。まだまだ…近接のまま、隙を与えずもう一振かます。あと二本。次第に視界が赤く染まっていく。耳は既に心臓の音しか聞こえていない。集中しろ…もっと…もっと…!!
思えばここまでこの力を引き出したことなど無かった。やはり、実力に伴わない魔力の引き出し方などするものではないらしい。
もう既に、脳も回っていない。言うなれば本能で動いているような状態。躱せ、切れ、倒せ。それだけだ。
跳躍―――――そして斬擊。残り…一本。
俺は―――――また横薙ぎに、一閃が走った。
「…ぁ…―――――。」
そこで全てがプツリと切れた。
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