第16話 この世の終わりみたいな戦い
「キミハ…ダレ…?」
思考が一時停止する。記憶が…ないのか?
「せ、先輩…?」
「セン…パイ…?」
どうやらなにも覚えてないらしい。考えてみればどうやってこいつと先輩を切り離せるのか…同化と言っていたが………あの指輪か…!
右手の中指に付けられた指輪が青く光る。あれさえ取り除けば、可能性はある。なにより、今の先輩とは意志疎通が出きる。
「その指輪…取って…?」
片言プラス身振り手振りで伝えてみる。
「ユビ…ワ…コレハ、『ジョオウサマ』カラタマワッタモノ。ハズセナイ。」
女王様?スサノオよりも上の存在か?いやいや、思案は後だ。
「ムリヤリハズスナラ…。」
そう言うと、彼女はこちらに手を向ける。辺りに水の球が舞う…だが、一度みた技だ。もう当たらない。
水の弾丸を全て見切り、近づいていく
「…。」
それでも、無言で彼女はそれを放ち続ける。
「もう当たりませんよ。」
ゆっくりと、彼女に近づく。あの指輪を取らなければ…。
ひとしきりの攻撃の後、無駄だと判断したのかその水撃は止む。次の瞬間、彼女は大きく息を吸い…叫んだ。
「アァァァァァァァー!!!!」
いや、歌声の方が近いかもしれない。と、言うかまだ隠し種があるか…。
次の瞬間、俺を衝撃が襲った。予想していなかった真横からの攻撃…いや、体当たり。彼女の体から落ちていく。
「マズったか…。」
その時目にしたのは、これまた水棲魔獣…鼻先が尖ったノコギリのようになっている…オルカであった。なぜあんな場所に?
その疑問も同時に解決する。浮遊している水の球…そこから奴は出てきていた。3匹…4メートルはあろうと言う巨体がこちらに降り注ぐ。
「突き刺すつもりかよ。」
結局は…戦わなければいけない。なら…仕方ないか。
もう一度…炎は青く盛る。瞬間的な熱の上昇は爆発に近い。それを皮膚の近くで起こしたと言うのにこの下半身…無傷だ。
やはり…こいつには神性があるとみて良さそうである。神性持ちの魔獣…師匠なんかもそうだが彼らは魔力に対し異常なまでの耐性がある。故に魔力で産み出した純粋な炎なら無効化できるのだ。
落ちながら思案する…あの指輪をどうやって取るか…しかし、そうやって考える時間すら与えてくれないようで…また真横からの衝撃…。
「…!!」
今の俺に触れることが出きるとなれば…それも神性持ちか…!
体当たりしたそれをみてみれば、今度は10メートルはあろうかと言う巨体。
「ケートス…!?」
砂浜側に弾きとばされる俺の体。一応無傷ではあるが、目の前をみてゾッとする。
巨大な水の球…それがいくつも存在している。まさかだが…あれらからそれぞれ魔獣が出てくるって言うんじゃねぇだろうな?
その時、ずっと頭を垂れていた下半身の頭が持ち上がる。
「Grrr…GYAAAAAA!!!!」
それを合図に…宙に浮いた水の球の奥に影が現れる…。
「こいつ…!!」
大きさから推定するに…未知の魔獣…それこそ、存在だけ示唆されていたクラーケン、シーサーペント等の巨大魔獣も出てくるだろう…。
「ヒノカグツチ…ワタシハ…オマエヲコロス。」
「物騒な…。」
未知の魔獣…戦いたくない。炎にどれ程耐性があるのか…俺でも勝てるのか?
次第に奴らは…顔を出す。巨大なイカの触腕が…みたこともないような大蛇が…何体も…何体も…。
久しぶりに恐怖を抱く。
「本気で殺しに来るってか…?」
上等だ…最終的にあの指輪を撃ち抜けばいい。
盛る炎は、俺の体を後押しする。間違いない…今この場にいるのは…史上最悪の危機そのものだ。
鎌首をたげたシーサーペントが先陣を切った。俺に、このまちに襲いかかってくる。奴の頭を真っ向から止める。力比べなら、師匠といつもしている。が、そんなものは比にならないほど俺を簡単に押してのける。
「うわぁぁぁあああ!!!!」
ジリジリと、奴の体表は焦げていく…この温度でもせいぜいその程度だ。こいつらまさか…全員このレベルなのか?流石にそれは…どうかと思う。
「あ゛あ゛ぁ゛ッ!!!」
力任せに上にぶん投げる。奴の体はしなり、宙を舞う。
「【火界】ィッ!!」
青い炎はその体を焼き払っていく。だが、まぁ、からだが残っているの言うのが凄まじい。これでも先の火界と同程度の威力なのだが。
思案もそれほどに、襲いかかる触手を避ける。
「クラーケンって、とこか…。」
しゃらくさい。いちいち1体1体相手取るのが面倒だ…しかも…援軍はまだまだいる。
「あ゛ぁ゛ッ!!」
避けつつ、本体に火炎球を当てる。多少、抉れるくらいだが…ダメージが通るなら問題ない。
そう思ったのも束の間、俺の真横に水泡が現れていた。次の瞬間、それが弾ける。
ただの水の泡にしては高すぎる威力。これもレヴィアタンか?それとも他の奴か?
考えている暇などない。もう手加減など…言ってられない領域なのではないだろうか?今の先輩には生半可な攻撃…それこそ、火界さえも通じない。
手は、無くはない。俺が産まれながらにして持っている元来の力。
「今の先輩なら…耐えてくれますよね。」
巨大な水棲魔獣の面々を前に少し笑みがこぼれる。
神産み…俺はそれによって産まれたらしい。神産みと言うのは、魔力の揺らぎにより生まれつき莫大な力と属性を持ってこの世に誕生することを言う。その中でも俺は特段…化物クラスであった。それが…ヒノカグツチたる由縁。
「行きますよ…先輩…。」
フッと…全身の炎が消える。尚も高温は保ち続け、プラズマ化した空気が割れる。大地が割れる。周囲の地面が溶け、ガラス化しているところもある。
これでも、随分と押さえている方だ。師匠にさえ禁じられた技。それは一欠片の火の粉でさえ、この地球全土を焼き尽くすほどだと聞く。
「【
一欠片の赤い火の粉が舞った。次の瞬間、それは爆ぜる。魔力でそれを前方に集中させる。それでも尚、周囲2km圏内は瞬時に蒸発した。この辺に民家はない。それに避難は間に合ってるから大丈夫…。
被害の大きさとかについてはこいつを野放しにしても多分似たようなことが起きているから無問題。俺か、こいつかの違いしかない。
鈍く轟く火色の輝きは空を裂き、天を割り、大地を溶かし、海を消す。
その巨体どもの影も消し飛ぶが唯一、1番でかいそいつだけはそこに佇んでいる。だが、確実にダメージを受けているのは確かだ。
「GAAAAAAAAAaaaaaaaa!!!!????」
集中が切れる。その爆破の連続はようやく途切れる。クジラの前面は溶けている。青く光る指輪は既に黒ずんでいるのが見えた…。
「すげぇな…これでも生きてるのか………。」
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