第14話 レヴィアタン
「各地ダンジョンで未知の魔獣が発生!!」
「なんだよこれ…デカすぎんだろ…。」
「動かせるAクラスは!!」
「1人既に対応してる!」
絹井町周辺のダンジョン…そこに突如として出現した謎の竜型の魔獣。黒い体表に水を操る八首の竜とのことだった。なるほどなぁ…スサノオ。ヤマタノオロチとでも呼んでおこう。
ギルドは現在阿鼻叫喚である。井上には動ける探索者に動いてもらうよう呼び掛けを頼んだ。安藤はダンジョンの様子をまとめるので手一杯なようだ。
「俺も…俺のすべきことをするか。」
海外の民間ギルドの対応…正直言って悪い方向に転びそうだ。奴ら、頭が固いったらありゃしない。それに、こちらは『スサノオ』のことで手一杯なのもあって胃に穴が空きそうだ。
「はぁ…明日にでも討伐チームが向かう…か…あぁ、クワバラクワバラ…。」
そうしてその少年に電話をかける。
『もしもし…。』
やべぇな。不機嫌だ。
「すまん…勇太…討伐チームが日本に来るかもしれん。」
『…まあこの状況です…無理もないですよ。』
え…逆に怖い。あんだけ俺のこと嫌ってたのに…。
『それより…奴、やりやがりましたよ。人攫い。』
「な…どう言うことだ!!」
『多分…スサノオは俺の居場所解ってるんですよね…そんで、ギルドのとある先輩の姿を数日前から見かけていない。』
「それだけで人攫いって言うのは…。」
『で、先程その人にウィンディーネが擬態してたので倒したわけですが…真島さん…動く許可もらっていいですか?』
ウィンディーネが…?そんな魔獣が外に出歩いているというのは流石に看過できない事態だ。だが…この場で勇太を、ヒノカグツチを使わせると言うのもまたややこしくなりそうだ…。
「まあ…解った。バレるなよ。」
『善処します。』
そう言って、通話は切られた。つまりはこう言うことだ。暴れるかもしれないから最大限のアフターフォローを頼む…と。
「仕方のない子だ…。」
子のわがままを聞くのが親の筋ってものだろう。
「絹井町全域、及び周辺地域に避難を呼び掛けろ!炎の魔神が出る!」
ざわついていたギルド職員。それは僅かに静寂となり、次第にパニックへと移り変わっていく。さて、すまんな。皆。
――――――――――
いやぁ、仕事が早い真島さん。避難情報の放送が流れたのは電話のあとすぐの事だった。どこに居るのか…正直見当はついている。だからこそここに居たのだ。
怪しげな魔力の波長を山の奥に感じる。
「海の方か。」
先輩がいるかどうかは解らないが、奴はそこにいる。
仮に先輩がいたら?俺はあの姿を先輩に見せることになる。だが、先輩なら…解ってくれると思う。ここはもう勘だ。
「行くか。」
体に魔力を流し込み、熱を変換させる。大きく飛び上がる。空に…あの山を越えるほどに。
先輩と俺…まあ、よく絡んでくれた人だ。それなりに嬉しかった。だからこそ、それを奪うのなら、俺はそいつに容赦しない。
すさまじい跳躍からの急下降。もうどうだっていいさ。バレるバレないじゃない。自分が何やらないで失うのはもうさんざんなだけだ。
炎がこの身をつつむ。燃え盛り、まるで流星のようにその場に降り立った。
「あれ、早いね?」
「お前…舐めすぎだろ?」
多分だがこいつはあえて自分の場所を教えていた。
「ま、解っちゃいたけどさ。」
その場には…見慣れた少女と見慣れない男がいた。先輩はその場に水の手枷、足枷により拘束されている。
「日野…くん?」
困惑する先輩をチラリとみて、視線をそいつに移す。
「…お前がスサノオか?」
「ああ、そうだとも。」
「人攫いまでしてなにをするかと思えば…ひどい話だな。盾にする気か?それとも囮か?」
「半分正解。」
「あ?」
「1つ、糧だ。」
「糧…だと?」
「そうそう、この子を食って…僕は完全体になるんだ。」
言葉がイラつくが冷静になれ。
「なら、なぜ俺が来る前に食わなかった?」
「そうそう、それがもう1つの理由だよ。ほら、言ったろ?遊んでやるって。」
そう言うと、その男はその指輪を取り出す。
「それは…?」
「君たちが回収したのと似たような奴だよ。あれは封じ込めた魔獣を使役するものなんだけど、今回のはちょっと使い方が違う。」
そう言うと、先輩に近づくそいつ…俺の扱う力が炎のせいで迂闊に近づけない…。
「これはね、封じ込めた魔獣と同化することのできる指輪だよ。」
「っ…!!」
生身のまま走り出すが遅かった…その指輪が嵌め込まれた途端、先輩のからだが青い魔力に蝕まれていく。
波が逆巻き、凄まじい爆風を産む。
「ここに閉じ込めていたのはね、東京湾のダンジョン…第99階層…そこに潜む魔獣。」
巨大だ…それ以外に言葉がでなかった。
「クジラ型の魔獣ケートスだったんだけど…彼女とは相性がよかったらしい。」
ゆうに師匠を越える体躯。海を割り、彼女の誕生を祝福するかのように輝いている。
「名前はさしずめ…レヴィアタンとでもしておこうか?」
巨大なクジラ…その上に彼女の上半身が確かに見える。下半身からドレスのように広がったそれはこちらを睨み付けていた。
「さぁ、これが君のために用意した最高の獲物だよ?」
こちらを見下す彼女の表情には一切の感情がなく、ただ冷ややかに俺を見つめている。
「外道が…。」
「うーん…知り合いの言葉を借りるのなら…神のなす事こそ正道なんだよ?これは僕の知る神の望んだことだ。さあ、存分に楽しんでくれよ。ヒノカグツチ。」
先輩は…いや、レヴィアタンは咆哮をあげる。地に轟く轟音。荒れ狂う波。まさしく海の神とも言えるようなそれは夕暮れの町に唸った。
何がヒノカグツチだよ。神の力だとか馬鹿馬鹿しい。
ぐっと拳を握る。火の粉が舞う。炎が吹き出す。
「先輩…助けますから…。」
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