第11話 海底より

「さてと…福岡のダンジョンまで来た甲斐があったってもんだな。」


 この指輪…魔力を帯びてるくせに他の魔力を完全に断絶してやがる。つまり、他者の使用を防ぎたいのだろう。思うに…こいつは時限爆弾だな。特定の時期にカプリコーンを産み出す。全くもって趣味が悪い。


 そもそも、このカプリコーン…そこまで脅威的ではない(俺比)がそれでもレベル5指定の魔獣だ。それなりに強い。それを意図的に生み出すとなると…これはおそらくレベル6指定以上の何かの仕業だろう。


 ってとこまでは読めたけど…正直それがなんなのかさっぱり解らん。こんなことをする意味もだ。


「てなわけでだ、こいつは誰が作ったのかそれを知りたいわけだが…手がかりがない。」


 そもそもこれは誰かがばら蒔いたって解釈であってるのか?ともすればその時点でもうレベル7指定なんだが?

 正直なぁんもわっかんねぇ。もう少し手がかりが欲しいが…まあ、これだけ持って帰ればいいだろう。

 踵を返したところでそいつと対面した。


「ここは…立ち入り禁止の筈だが?」


 作業着の格好をしたそいつ…何より、気配がなかった。俺が気がつけなかった。


「ええ。あなたこそ、ここは立ち入り禁止ですよ。」


「許可は取ってある。」


「ああ、それは失礼しました。」


「いやいや、待てよ。お前の方こそなんなんだ?」


「職員ですよ。ただの。」


「んなわけねぇだろ。」


 臨戦態勢に入る。こいつは…ちょっとヤバイ。野放しには出来ない。人間の形をしているが…人ではない。


「それはちょっと酷くありません?」


「何がだよ…ちっとでも気ぃ抜いたら首はねる気だろ、お前…。」


 こいつはただ者じゃない…空気がヒリつく。


「あなた…なかなか用心深いんですね。」


「用心深いことには越したことないだろ。」


「まあ、言えてるね。じゃあ、その指輪返してくれない?」


「いやぁ、そりゃあちょっと無理な話だわ。こいつは人類俺らにとって重要なもんだからな。」


「なら…。」


 フッと、そいつの影が消えた。


「力ずくで。」


 速い…あまりにも…今ので背後取られたのか?が、殺気を読めばある程度は対処できる。首に飛んできた手刀を躱す。


「躱します?これ?」


「正体現しやがったな…。」


 化物じみた速度。こんなん…どう勝つよ?身を翻し、受け身を取る。

 まあ、逃げるが勝ちだが…逃げれるか?


「まあ、追い詰めるだけですけど。」


 雷がほとばしった。その姿は既に眼前。なら完全に…。


「こっちの間合いだが?」


 仕込んでいたナイフを突き刺す。

 まあ、あっけなく躱されるのだが今回はそれでいい。


「ふふっ…いいですねぇ。」


「変態がよ…。」


 だが、それでいい。この隙さえあればいい。後ろに飛び、距離を取る。俺の得意な戦闘スタイル…遠距離からの魔法戦だ。だが、今回こいつを倒す気はない。


 この距離なら間に合う。


「転移…。」


 隙を見た転移。帰れればそれでいい。


「ほう…。」


 体が青く光り次の瞬間、俺の体は消える。


 次の瞬間にはダンジョンの外だ。


「いやぁ、速いですね…。」


 予想外の声は、目の前から聞こえる。これちょっと…本気で対策しないと駄目か。


「【火球】」


 指先に灯した炎。勇太程ではないが、俺も炎属性はそれなりに使える。ダンジョンの入り口だが…まあ、魔獣なら関係ないだろ。


「おっと…。」


 閃光が走る。あんな余裕そうな声…腹立たしいが実際そうだろう。こんなもんで死ぬような奴じゃない。爆発だって目眩ましにもなるかどうか。だが、ここまで来ればそれでいい。


 護身用のナイフ1本を携え、走り出す。これでいい。思うに、奴はおそらく…ダンジョンの外ではほぼ無力だ。でなければ、もう既に派手にドンパチやってるだろ。


―――――――――――――――

――――――――――

―――――


「まあ、逃げられますよねぇ。て言うか彼…もしかして私の特性に気づいて………?まあ、そのくらいしてくれないと面白くないですもんね…同じとして、張り合いがありますよ。」


―――――


 佐々木からの連絡の後、即刻前回カプリコーンが発生したダンジョンに人員を回す。


「とんでもない収穫をしてくれたもんだ…。」


 魔力の込められた指輪か…魔道具の一種か或いは…。


「東京湾のダンジョン…。」


 なにもダンジョンが存在するのは陸上だけではない。海底にも、それは存在する。その都合上、攻略がもっとも難関なダンジョンだ。


 その中でも東京湾のダンジョンは海溝深くに存在しており、人類で到達できるとしたら勇太くらい。まあ、力業が過ぎる。


 そんな東京湾のダンジョンだが、あそこでは以前巨大な魔力の波長が計測された。そのタイミングと言うのが福岡のダンジョンにてカプリコーンが大量に発生した時だったのだ。居るとすればあそこだが、今回そんな魔力の波長は無かった…いや…。


「…万が一を想定を想定するのが、俺の務めか。」


 もしかすれば…その巨大な魔力の波長を持ち合わせたそれは…出てきているのではないだろうか?

 そんな事態、あって欲しくないのだが…想定はしておくものだ。そして最悪それは…レベル7に匹敵すると考えた方がいい。


「黒幕の尻尾は掴めたが…あとはどこに居るのか…そして我々はどうするのかだけだな。」


―――――――――――――――

――――――――――

―――――


―――翌日。


「あれ…?このダンジョンももう回収されてる………ふふっ、いいねぇ。」


 今から楽しみで仕方ないよ。ヒノカグツチ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る