第10話 炎と水

 翌日。隣町のダンジョン5階層にて。


「て、言うかこれよくよく考えたらサボりですよね。」


「いいのいいの。進路に関わることなんだから、」


 軽口を言い合いながら、先輩その短剣を弄ぶ。先輩の得意なスタイルは近接戦闘。翻弄してのヒットアンドアウェイが基本だ。


「始めよっか…勇太くん。」


「お願いします…。」


 まあ、適当にあっさりとやられておけばそれで、なんて考える。だが眼前まで迫った短剣を見て気がついた。


「…!」


 この人…本気だ。本気で刺す気だ。

 咄嗟に、体をのけぞった。


「やっぱり、避けれるんじゃん?」


「あ、当たったらどうするんです!!」


「なに言ってるの?ダンジョン内において、やるかやられるかは基本だよ?」


 目がしっかりと俺の事を捉えている。半端な手抜きは許されない…この人にはバレている…俺がただのFクラスでないことが。


「さぁ、見せてみて。」


 的確に、急所に振られる刃。なんとかギリギリ感を醸し出しながら避けていく。と、言うか流石Bクラス探索者…迷いがない。

 流水のようになれた手付き。どれ程日常的に鍛練されているかがよく解る。


「もう少し…躊躇ってくれてもいいんですよ?」


 喉…手首…内腿…脇…狙う場所が的確すぎる。


「そう言う日野くんも…どうしてこれを全部避けれるのかな?」


「避けないと…死ぬからですよ!」


 駄目だ…無理無理。一般人のふりしながらこの猛攻なんてしのげるわけない。


「あら、よく解ってらっしゃる。ならとっとと本気を見せてみなさい!」


 こいつ…狂人が過ぎるだろ!!


「先輩…流石にどうかと思いますよ!」


 脇腹に突かれた短剣を躱し、間合いに入る。


「!?」


 拳を握り、彼女の眼前で止める。


「…これで、満足ですか?」


 そう言うと、彼女は尻餅をつく。


「…や、やっぱり私より強いじゃん。絶対Fクラスじゃないね。」


 そう言う彼女に手をさしのべながら返す。


「俺は昇級したくないだけです。怠惰に生きてたいんですよ。」


「なんでさ?給料もよくなるのに。」


「今ので満足してますよ。Fクラスでも数こなせば一人暮らしするくらいには困らないくらいはもらえますから。」


「なるほどねぇ…まあ、その実力ならなっとくか。Aクラスも狙えるんじゃない?」


「だから…はぁ、ま、この際いいです。これで満足ですか?」


「うん。納得いったよ…色々と。もっと私も強くならなきゃ…。」


「…先輩が強さを求める理由って何ですか?」


「急だね。」


「俺の隠し事知られたんですから。」


「そうだね…私ね、魔力があるって解るまですごい引っ込み思案で…逃げてばっかりだったの。それで、10歳の頃に適性検査を受けたら魔力を持ってて、それで探索者になろうって思った。もっと、強くなって弱かった頃の自分とは決別しようって。」


「なんと言うか、探索者にもいろんな人がいるもんですね。」


「どう言うこと?」


「俺の知ってる範囲だと…自分だけが犠牲になればいい、とか考えてる奴がいたんで。」


「ええ、なんかものすごい暗そう…。」


「めちゃくちゃいい人ですよ。先輩と同い年だったかな?」


「へぇ…転校前の話?」


「そうですね。アイツとは幼馴染みみたいなもんなんで。」


 まあ、結局アイツはそれに足る実力をつけた。Aクラス序列1位、佐々木 龍馬。


――――――――――


「あー、聞こえてます?真島さん。」


 3コール以内に取られた電話に豆だななんて思いながら口を開く。


『佐々木か…緊急会議にも参加せず全くお前は…。』


「まあ、収穫あったんだから許してくださいよ。」


『収穫ってお前なぁ…そもそもどこにいるんだ?』


「え?福岡のダンジョンですけど?」


『ま、待て…福岡のダンジョンと言うと…まさか封鎖されたダンジョンじゃあるまいな?』


「そこ以外どこに行くって言うんですか?」


『馬鹿なのか?そこには既になにもないだろう!』


「ここ、カプリコーンが大量に発生した場所でしたよね。あれも3年前、勇太が全部倒したらしいですけど…その余波で現在はダンジョン内が燃えているため立ち入り禁止と。」


『解っておるなら―――――。』


「でもさぁ、不思議ですよね。ダンジョンって。」


『はあ?』


「だって当時の記録の写真見ました?泉が干上がってないんですよ?」


 勇太の火力、そして大量のカプリコーンとの戦闘と言うことを考えても泉が干上がっていないのはおかしい。


『…何を見つけた?』


 泉の底から拾い上げたそれを見ながら呟く。


「まあ、何て言うんですかね…言っちまえばただの指輪なんですけど、微弱な魔力がこもってる…。」


『魔力のこもった指輪…だと?』


「まあ、ここが特殊なだけかもしれませんけど。もしかしたら今回のカプリコーン騒動が起こった泉にも…何かあるかもしれないですね。」


『…すぐに調査に向かわせる…。』


 そう言って電話は切られる。いやぁ、にしても流石は勇太。熱いったらありゃしないね。未だに燃え盛り続けるダンジョン。お陰さまで息苦しい。


「気がつけば俺が守られる側とか…ダセェ。」


 軽口をいいながら笑ってみる。にしても、今はこの指輪だ。

 青い魔石の嵌め込まれた装飾の整った指輪…。


「多分だけどこいつだよなぁ…カプリコーンを産み出したのって。しっかしまあ…出来すぎた話だ。」


 炎と水の対立。そしてカプリコーンの同時発生、場所的にも明らかに狙われている。水系の魔獣ごときに勇太が負けるとも思えんがな。


 しかし、何かしら考えはあるのだろう。人類最強の灯火を消すようななにかが。俺の勘が言っている。おおよそこれってのは、人類に対する宣戦布告だろうと。


「勇太…気を付けろよ。」

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