第6話 カプリコーン
「なんか…すごい怒号が聞こえたけど、大丈夫だった?」
「…俺、世界から狙われるってよ。」
「ハァ!?」
「ちょ、声大きいですよ。」
「いやいやいや、海外の上層部でもヒノカグツチの名前は通用するはずよね?一体どうして…?」
「何でも民間の探索者が組織してるらしいです…。」
「うへぇ…面倒なことになったわね…。」
「そこん所は真島さんに全部押し付けます。どうせ、あの人ならどうにかできる。」
「…すごく嫌ってるみたいだけど、なんだかんだ信頼してるのね。」
「信用してるんです。彼の判断が間違ったことなんて1度もなかった…それが今一番悔しい…!!」
何なんだあのカリスマ性…まあ、だからギルドの長が務まるんだろうな。
「ともかく、俺には暫く仕事は振られないみたいなんでAクラスの方々にどうにかしていただくしかないですね。」
「…無理あるくない?」
「まあ、本当にまずかったら俺が出たら良いわけじゃないですか?それに、場合によってはそれで無害って認識される可能性も…無いか。」
炎の魔神…それが各地に現れるとなればそれこそ世界の終わりだ。
「とりあえず…今から学校行ってもなぁ…よし、隣町のダンジョンでFクラスしてきますよ。」
「う、うん。気を付けて―――――。」
「聞き捨てなら無いね。先輩として。」
この人、厄介なタイミングで現れる能力でももってんのか?ギルドの入り口に姿を表したのは、西山先輩であった。
「…何故ここに?」
「いやぁ、君が早退するってなった時偶然見かけてね。親の看病の割には妙に嬉しそうだったから気になって急いで後を追いかけたら…ダンジョンに行くんだってね?」
こいつほんま。
「いつから…そこに?」
「ん?ついさっきだよ?ダンジョンでFクラスしてきますよ、の辺り。」
「…やっぱやめよう…。」
「なぁんでよぉ!行こうよダンジョン!一緒に切磋琢磨しようよぉ!」
「ちょ、高三でしょ?駄々こねないでください。地面でじたばたしないでください!」
「じゃあ行こ!ダンジョン!」
すごい勢いで近づいてきた。美海さんに助けての目線を送ると…諦めろの視線が帰ってきた。
最悪です。まあ、もともとFクラス相応のことをしようとしてたので問題はないが…嫌だなぁ…この人。妙に察しが良い。
そう言うわけで、やってきました。ダンジョン。すごく乗り気ではございませんが、やっていきたいと思います。現在5階層です。
「言っときますけど、俺そこまで戦えませんからね。」
「ふーん、鍛えれば君はBクラスも夢じゃないと思うんだけどな。」
この人…焚き付けようとしてる。
「別に、昇級に興味なんて無いです。」
「ならそれ相応の場所に行かないとね。」
すると彼女は俺の腕を取り走り出す。逃げ場を失い俺はそのまま、転移魔法陣の方へと引っ張られる。
「え!?ちょ、ちょっと待ってください!そこは!!」
「えーい!」
こいつ…周りが見えなくなるタイプのバカだ。特に今、何故かこの人はすごくワクワクしているらしい。
ぐらつくこの感覚には慣れない。
たどり着いた。そこは、前回俺がカラミティワームどもを焼き払った場所。42階層であった。
「ここ中層ですよ!Fクラスの俺が居て良い場所じゃないです!」
「大丈夫!Bクラスの私が居るから!!って…なんかここ景色変わった?」
前回、派手にやったせいで若干地形が溶けている。まあ、俺だとは気がつかんだろう。
「知らないですよ…。」
なんて悪態つきつつ、正直ここは気になっていた。あれから正常に戻ったかどうか。
「まあ、気にしない気にしない!さぁ!行くよ!!」
そう言って俺には手を伸ばす。しぶしぶ、その手を取った。そのときである。
「キィィィィイ!!??」
「な、なに今の!?」
聞き覚えがある。これは…カラミティワームの鳴き声…。
「…逃げますよ。」
取った手を引いて入り口に向かい走り出す。この転移魔法陣、一方通行なの本当によくないと思う。
「え!?なになに!?どう言うこと!?」
取り逃していたみたいだ…いやそんなことよりも今はこっちの方が問題だ。カラミティワームが鳴いた。それって言うのはつまり、自分の身に危機が迫ったことを意味する。
居る。ここには少なくともレベル5以上のなにかが潜んでいる。
「ちょ、日野くん!!」
西山先輩の声に反応する暇なんて無い。ともかくここから彼女を逃がすことだけを考えろ。走れ、とにかく走れ。
「日野くん!聞こえてる!?」
「説明なんてしてる暇無いですよ、こんなん…。」
「え…?」
「ともかく黙って走ってください!入り口まで!!」
駄目だ…ここの転移魔法陣、入り口から遠い…もしも気がつかれていたら…俺は力を使うしかないだろう。
入り口まであと少し。その時、地響きが起こった。あまりの出来事に、足を滑らせ転ぶ西山先輩。
「大丈夫ですか!?」
マズイな…完全に気がつかれている。
「な、なに…あれ…?」
猛る山羊…先の地響きは奴の体当りか…?
「あれは…カプリコーン?」
「な、なに?それ?」
「なんで聞いたこと無いんですか!?レベル5指定魔獣ですよ?」
「レベル5指定魔獣って…ぎ、ギルドに連絡を!!」
「お願いします…。」
「日野くんは!?」
「誰かが時間稼がなきゃならないでしょう?」
「なら私が!」
…多分、西山先輩を向かわせても瞬殺だろう。かといって…ここで俺が力を使うと言うのは。
いや…いやいや、誰かを守るのにそんなの必要かよ?流石にこんな緊急事態、バレるとか関係ないだろ。
「死にますよ。西山先輩。」
覚悟を決め、拳を握る。少しばかり、火の粉が舞う。
「日野…くん?」
「俺―――――。」
その瞬間、風が一迅吹き抜けた。
音もなく、カプリコーンの脳天は撃ち抜かれていた。その事に気がつき、魔力を流すのを中断する。
「よっ、大丈夫か?」
その声は入り口方面から聞こえてきた。
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