第5話 ヒノカグツチ
真島 柳之助…俺にヒノカグツチの名前を与えた人だ。身よりの無かった俺を育ててくれた人だが…俺はこいつのせいで何度か死にかけた。
それもこれも、魔力の操作の特訓だとか言って俺をダンジョンに放り込んだからだ。馬鹿なんじゃねぇのか?こいつ。
「あ、あの…随分と嫌われているみたいですけど…。」
「構わん。それはそれとして、本題に入らさせてもらう。個室はあるかね?」
いつになく真面目な顔。その圧に押され、奥の個室へと移動する。俺と真島さんの2人きり。美海さんは受付で誰も来ないように見張っている。
「それで、本題とは?」
「まず知っての通り、お前さんのあの姿は有名になりすぎた。今や炎の魔神と言えば知らぬものはおらん程だろう。」
「まあ、そうですね。迂闊でした。」
「こちら側にも、やつを向かわせてしまった責任がある。」
「てっきり、新しい職員かと思いましたよ。」
「これからは徹底するように勉めよう。湿っぽい反省はここまでだ。時にお前さん、今ギルドで魔獣認定しておるのは知っておるな?」
クッ…こいつ殴り飛ばしてやりたい。
「ええ、存じ上げてはおります。大変不本意ながら。」
「まあ一旦…どうか一旦この件は水に流してくれ。本題はここからなんだが…謝罪せねばならんことがある。」
「今さらダンジョンの中に放り込んだことを謝罪しに来たんですか?」
「いや、それじゃない。」
「じゃ、何なんです?」
「いやあ…その…なんと言うか………今回の件…海外に知られてしまってな?」
「…は?」
「お前の討伐部隊が組まれてるところもあるらしくて…。」
「ハァ!!??」
思わず立ち上がり、目の前の外道の胸ぐらを掴む。
「ま、待って!大丈夫!大丈夫だから。あくまでも民間だから!」
「何が大丈夫じゃクソボケコラァ!?ワレ何しでかしたか解っとんのか!?」
「ひぃ…クワバラ、クワバラ…。」
「そいつぁ雷だ…まあ、だったとして容赦はせんがな。ジジィ…骨が残ると思うなよ?」
「その討伐部隊に関しては、俺らが今なんとかしてる最中だから!どうにかするから!」
「………んじゃ、最悪の場合俺はどうしたらいいんだ?まさかだが殺さない程度に痛め付けろとでも言うんじゃないだろうな?」
「本当に最悪は…そうしてもらうかも…。」
「…消す。」
「勇太くん…こわいって…マジで。」
「いや、今回のは本当に看過できない。マジで止めてくださいよ?じゃないと乗り込みますよ?」
「解った…解ったから!!」
多分こいつ…解ってない。が、その辺は真島さんに任せておけばいい。この人…そう言う才能はめちゃある。それは俺が保証しよう。
「んじゃあ、それまで俺はおとなしくってことでいいですか?」
「あ、ついでがあったんだった。」
「…。」
「嘘だよ。流石に頼むわけ無いじゃん?こんな状況だし。」
「そうですか。そうならいいんですよ。」
そうして、俺はその部屋を後にする。真島さんは連絡しなければならないところがあるらしく、少し部屋を借りると言っていた。
――――――――――
「はぁ!!??ヒノカグツチ借りられなかった!?どう言うことだよジジイ!!」
ダンジョン内に、怒号がこだまする。Aクラスの中での序列は3位。彼女の名前は
『いや、だって…すっごい怒ってたんだから…。』
「ふざけんな!アイツ居ねぇと楽できねぇだろ!!」
『あくまでも楽すること前提なのどうかと思うが…くれぐれも気を付けてくれ…。』
「なっ!おいこらジジイ!!チッ、切りやがった。」
カプリコーン…半山羊半魚の水を司る魔獣である。本来なら自然と発生することはない。と、言うかこいつの発生条件に関しては謎が多く未解明である。解っているのはごくごく稀に水辺に現れることのみだ。
さて、ここは絹井町から離れた県境のダンジョン。都心部も割りと近いことから配信者には人気のスポットである。
華奢な体躯にあわない大斧を片手に彼女は敵を見据える。
「どう倒す…。」
カプリコーン。あれは液状化することが出きるため基本的に物理攻撃が効かない。更には生半可な魔法さえも効かない。その上好戦的で機動力が高く、階を移動しながら狩りを行う。
そしてたまに…ダンジョンの外に出ていく個体が居る。適正クラスは一体につきAクラスパーティ1組。
「まあ、簡単か…切ればいい。」
無論、この少女とて馬鹿ではない。カプリコーンの性質を知った上でそう言った。
カプリコーンが大きく跳ねる、少女に向かい頭突きの構えをとる。
それに応えるべく、少女も飛ぶ。真っ正面からの激突。大斧は振り下ろされる。
先程、物理攻撃は基本効かないと言った。『基本』と言うことは『例外』が存在する。
彼女の大斧はカプリコーンの身体ごと空間を引き裂いた。
極限まで魔力を身体と刃に流し込むことによって、空間をも断絶する。
タイマンで彼女に勝てる探索者と言うのは限られてくる。それこそ、序列が上の2人。そして勇太。後は海外のSクラスくらいだろうか?
「はぁ…はぁ…まずは1体…クソジジイ。せめて応援くらい寄越せよ…。」
カプリコーンはあともう1体居る。
「なんでカプリコーン相手に私がでなきゃならん…もっと相性いいやつ居るだろ!?」
愚痴を言いながらも、立ち上がる。魔力を込め直すには時間が要る。だが、相手は待ってくれない。すぐさま飛びかかるそれを斧で振り払う。
「一発屋だと思うなよ?山羊風情が…。」
仮にも大斧である。大の大人が、両手でやっと振れるかどうかのそれを彼女は容易く片手で扱う。
もう一度、振り払った隙を見計らい魔力を完全に込め直す。
「死ね。」
横薙の一閃が、その首を跳ねた。
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