第4話 もっと強くなる

 人類最弱。私の学校にはそう呼ばれる存在がいる。Fクラスの探索者、日野 勇太。


 彼はいつも学校で虐げられている。


 日野くんを初めて見たのは、1年前の始業式の日。私はその頃、Cクラスの探索者であった。一目見た瞬間から、只者でないオーラがあった。


 そうしてある日、いつものようにそのギルドに足を伸ばすと受付の人が変わっていた。何でも、前のおばあちゃんはもう引退したのだとか。それで新しく入ってきたのが美海さんだった。そしてその場にはもう一人、日野くんの姿があった。


 その日、初めて彼が探索者であることを知った。それが、私と日野くんの出会いだった。


「桃華、どしたの?考え込んだ顔して。もしかして、またあの子?」


 友達のゆうにそんな風に聞かれる。


「まあね。」


「ほんと物好きよね。Fクラス…日本にあの子しかいないんでしょ?」


「日野くん、絶対もっと強くなれると思うんだよ。」


「と、言いますと?」


「前、一緒にダンジョンに潜ったことがあるんだけど…その時も日野くんは基本雑用だった。」


「強くなる要素どこ?」


「いやね、日野くん敵の位置全部把握してたんだよ。」


「…私、魔力もってないから解んないんだけどどんぐらいすごいの?」


「うーん…死角から飛んでくる弓矢に気づけるくらい?」


「なにそれ。気にしすぎだって!そんなことできるわけ無いよ!」


「そうだよ。私はできなかった。」


「…え?」


「日野くんが居なかったら私は死んでたってこと。だからポテンシャルはあるんだけどねぇ…本人にやる気がない。」


「やる気がないかぁ…因に、Bクラスの桃華から見てどのくらい強くなりそう?」


「うーん…軽く見積もってもCクラスは妥当だし、それ以上に鍛えるなら私とまともに打ち合えるくらい。」


「え、こわ。」


「だから…欲しいんだけどねぇ一緒に高め会える仲間っていうの?」


「なんか…武人みたいなこと言ってるね。」


「ほら、ライバルっていた方がいいじゃん?」


「まあ、そうだね。」


「実際、ここ最近私は伸び悩んでる…もっと行ける!とも思うけど…何だかなぁ…。」


「本当、楽しそうに語るよねぇ。もっと他のこととか興味ないの?」


「無いね。」


「言い切るねぇ…ほら、炎の魔神とか今話題じゃんこいつに挑もうとか無いの?」


「炎の魔神…?」


「え、知らないの?それでも探索者?」


「他の事は基本アウトオブ眼中なので。」


「えぇ…これだよこれ。」


 そう言って見せられたのはとある配信者の切り抜き。そこには巨人と戦う少年?のような存在。あまりにも速い…。


「これが炎の魔神…?」


「そうそう、こんな魔獣見たこと無いんだけどさ、やっぱり無理そ?」


「無理だね。そもそもこれ…切り抜き元Aクラスのヒロキってなってるけどあの川田 宏樹だよね?」


「そうそう。」


「じゃむり、この人にもこの巨人にも勝てない。」


「人…人?」


「人でしょ。これ。」


「いやいや、無理あるって!こんなん人間にできた動きじゃないよ!」


「まあ、そうだけど…。」


「世間じゃ新種の魔獣同士の争いだってなってるし。ギルドだって魔獣って認めてるからね。」


「ギルドが?」


 なら…魔獣…なのかな?


「そうそう、そうだよね。さすがにBクラスじゃ無理だよね。」


 そう言って笑う優だが…Bクラスじゃとかじゃない。多分だけどこの2体の魔獣…いや、どちらかでいい。


 そのどちらかが世に解き放たれれば、この世界は終わる。


「そう言えばこれってどこのダンジョンなの?」


「ああこれね、ちょっと待ってよ…あ、出てきた。絹井のダンジョンだって。」


「絹井!?」


「ど、どしたの?」


「あそこって限られた人しか入っちゃいけないダンジョンだよ!?」


「…と、言いますと?」


「たとえAクラスでも…入れないはず。」


 おそらく川田さんの実力を知っての特例。まさか…こんなものが潜んでいるなんて…。

 いやぁ、やっぱり私って根っからの探索者なんだな…疼く。すごくソワソワしてる。すっごくワクワクしてる。近場にこんなすごいところがあることに。こんなに強い存在がいることに…!


「…と、桃華?」


「優…私、探索者になってよかった!」


「あぁあ…スイッチ入っちゃった。」


「よっしゃー!もっと頑張るぞー!!」


 ガッツポーズと共に気合いを入れて…ふと目に止まったのは先ほどまで話題に上がっていた彼の姿であった。

 何やら電話をしているようである。そうして、電話を切ったかと思えばどこかに行ってしまった。


「…?」


「どしたの?」


「いや、今日野くんが…。」


「あぁね。なんか親が病弱って話聞いたことある。よく早退してるんだって。」


 ほう…早退ねぇ。どうにも私の目には彼の目に闘志が宿っていたように見えたけど…勘違いかなぁ…?


――――――――――


「何ですか…上からの指示って無かったんじゃないんです?」


 美海さんからの電話があって、俺はギルドに来ていた。


「いやぁ、まあそうなんだけど…。」


「おお、来たか。ヒノカグツチ。」


 なんか…すごくイラっとする声。聞き覚えがある。


「お久しぶりです。真島まじまさん…そのヒノカグツチってのやめてくれますか?」


 そこにいた初老の男性にそう声をかける。この人はギルド本部の会長である真島 柳之助りゅうのすけ。言ってしまえば俺の育ての親である。


「そうだな、今はこちらの名で呼んだ方がよいか、炎の魔神。」


 早速だが言ってしまおう。俺はこいつが大嫌いだ。

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