第3話 たった一人のFクラス

「時に…川田くん。日本で1番強い探索者って誰だと思う?」


 絹井町のダンジョンから帰ってきた翌日。俺はギルド本部に呼び出されていた。そうして、そのビルの最上階の会議室。荘厳とした雰囲気の中3人の男が俺のことを睨んでいた…。


 日本で1番強い探索者という言葉に先日の少年の姿が思い浮かぶ。


「日本で1番強い探索者…。」


「そうだね。今、君が思い浮かべた人物だ。昨日の炎の魔神とか呼ばれているんだったか?あの子だ。」


 さてこの男3人…ギルドの今後の方針を決めることので切るほどの権力者…どうにも俺はとんでもない地雷を踏んだらしい。


「あの、質問ですが…何故彼は無名なのでしょう…?」


「本人がそう望んだからな。」


「本人が?」


「ああ。彼にも色々あるんだ。詮索はよしてくれ。それでだが、今回の一件で我々は彼を魔獣として扱わなければ行けなくなった。」


「えっ!?」


「お前のせいだぞ。大分面倒なことをしてくれおって…もっとも、ほとぼりが冷めるまでの間だけだ。」


「あの、彼は…ゆう―――――。」


「彼の名を口にするのもタブーだ。」


「…えぇ…。」


「ヒノカグツチ…我々は彼をそう呼んでいる。」


 ヒノカグツチ…火の神様の名前だっけか?確かにその名にふさわしい実力をもっていた。本当、誰が勝てるんだって言うぐらいに理不尽な程の力。


「はっきり言ってな、彼は我々の最終兵器だ。表向きには、他のAクラスが行っていることになっている即刻対処するべき魔獣、俗にレベル5の討伐…あの地域では殆ど全て彼がやっている。」


 レベル5…放っておけば人類壊滅に繋がりかねない災害を招く可能性のある魔獣。その討伐を単体で?


「彼1人なんて危険すぎるのでは…?」


「いいや、逆だ。他の者が着いていく方が危険だ。君は太陽に素手で触れるのかね?」


「そ、そんなの地球上の誰だろうと無理ですよ。」


「そうか…彼の炎は太陽の表面温度と同等の温度だ。」


 ????


「…はい?」


「解るだろ?足手まといなんだよ。彼の前ではどんな存在も。」


 馬鹿げてる。


「この事は口外禁止だ。あのダンジョンに行くことを許可した受付にもキツく言っておかねばなるまい。」


 そうして…俺はその部屋を後にした。何て言うか…才能の差って確実にあるんだな。俺ももっと…強くならなくちゃ。ダンジョン完全攻略なんて夢のまた夢だったんだ。


――――――――――


―――――絹井町のギルドにて。


「…物の見事に広まったわねぇ…炎の魔神。」


「切り抜き…もう何本も出回って全部三桁万再生越えって…。」


 修行をつけてもらう分にはいいが、上からの指示はないだろう。そうなるとどうなるか。


「俺マジのガチでFクラスの収入で食っていかなきゃならんのか!?」


「大丈夫でしょ?貯蓄あるんだから。ほとぼり冷めるまでの辛抱よ。」


「まあ、これでも何回か世界救ってきましたからねぇ。」


「さらっと言うことじゃないからね?」


「まあ、でも、働かないと。」


「苦学生してんねぇ…普通に休日なんだから休んだら?」


「休んだら何か…感覚鈍っちゃうんですよね。」


「努力家め。」


「人に有り余る力なんで、そのくらいしないと。」


「…まあ、魔力もってない私から言わせたら、そんなものを制御できている時点ですごいわよ。」


 そう言って、美海さんは俺のことを抱き締めた。何て言うか…昔もこういうことされてたな。ただ…今と昔じゃ訳も違う。何年も経ってるわけだからそりゃ成長してますよね…ええ、男子高校生には身に余る体験だ。


「あのぉ…お取り込み中でした…?」


「「!?」」


 ちょっとタイミング悪すぎません!?


「に、西山にしやまさん。き、今日はどうしたの?」


 西山 桃華とうか(18)。このギルドに通っている俺と同じ高校の1つ上の先輩だ。よりにもよって…いや本当によりにもよって。


「いや、まあ、どうって言うか…様子を見に来たんですけど美海さん…未成年はアウトですって…。」


「違うから!!そう言うのじゃないから!!」


「いやぁ…ねぇ?いくら彼氏できないからって…ねぇ?」


「出来ない訳じゃないからッ!!作ってないだけだからッ!!!」


「ほう…。」


 すごい、共々軽蔑の目を向けている。


「まあ、解ってますよ。隣町のダンジョン、異常無いです?」


 なんか…冗談にしてはすごく肝が冷えた。


「え、ええ。大丈夫よ?」


「そうですか。何かあったら言ってください?このBクラスの私が対処しますから!!」


 Bクラス…探索者の中でも随分と上位に位置する。実際、彼女と1度ダンジョンに潜ったことがあるがその実力は確かであった。


「日野くんも、何かあったら私に言うんだぞ?」


 そして謎にお姉さんキャラを突き通している。まあ、俺のクラスがFってのもある。はっきり言おう、仮にここに本物のFクラスが居たとしよう。どのくらい強いかっていうと一般人と大差ない程度だ。違いとすれば魔力が僅かにあるかどうか。

 因にだが、Fクラスは現在日本に1人しかいない。


 俺である。


「まあ、俺もダンジョンに潜ることはそんな無いですし…あっても雑用なんで。」


「何ならお姉さんが修行に付き合って上げようか?」


「…めんどい。」


「めんどい!?ねぇ、そんな一蹴すること無くない!?ひどくない!?」


「いいですよ。俺に構わなくて。俺は楽して生きていきたいんで。」


「楽して生きるなら…もっと強くなったほうが楽できるよ?」


「強くなったら忙しくなっちゃうじゃないですか。俺、できれば働きたくないです。」


「うわー、言っちゃうかぁ…ま、まあ、気が変わったらお姉さんにいうんだぞ!」


 諦めねぇなこの人。

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