第2話 害虫駆除

「あら、お帰りなさい。」


 ギルドに戻ると、受付の村田むらた 美海みか(27)にそう挨拶をされる。

 ギルドと言っても簡素な平屋。集会所みたいなものだ。


「戻りました。」


 まさか…こんな辺鄙な町に配信者が来ていたなんてな。

 とある県の山沿いの町、絹井町きぬいまち。人口は7000人ほどの田舎町。この町で俺こと日野ひの 勇太は探索者として苦学生をしている。と、言うのも俺には両親が居ない。

 日銭を稼がなければ生きていけないのだ。


「今日も修行つけてもらってたの?」


「はい…どうしても、この力を扱わなきゃ行けないので。」


「真面目よねぇ。」


 美海さんは俺がどこで、何をしているか知っている人物の1人だ。あとはギルド本部の上層部が何人か…今回出会ったおっさんもたぶん上からキツく言われるだろう。


「そう言えば聞いてくださいよ!さっき配信者が来たんですけどどう言うことですか!?」


「ええ?あのダンジョンは限られた人しか入れないはずなのだけど…誰が来たの?」


「え、えぇと…おっさん?」


「アバウトすぎるけど…その特徴なら1人しか居ないわね…。」


 あ、これで特定できるもんなんだ。


「たぶんこの人じゃない?」


 そう言ってスマホを見せてくる美海さん。画面に表示された名前には、川田 宏樹の文字。


「そうそう!この人!!」


「うーん…ねぇ…この人…。」


「どうしたんです?」


「チャンネル登録者500万人いるんだけどだいじょぶそ?」


 ごひゃくまん…?5が100万?5×100万?


「ヒェ…。」


「え、ちょっと不味いやつ!?」


「修行してるとこ…ミラレチャッタ…。」


「駄目じゃん!?」


「か、顔は映ってないから…。」


 大丈夫…まだ焦るような時間じゃない…。


「あ、待って。駄目そう。」


 美海さん。追い討ちってどうかと思います。


「もうネットニュースになってる。」


「ああああああぁぁぁあぁあぁあ…あぁ…ァ。」


 見出【魔神?悪魔?巨人と戦う不明な人形魔獣】


「人と認識されてない!ヨシ!!」


「本当…正体バレたくないのね…。」


「そりゃまあ…ちやほやされたくないんで。」


「まあ、そうよね。とりあえずは安心ね。」


「ほんと、よかったですよ。」


「じゃあ、よかったついでで頼み事いいかし…あからさまに嫌そうな顔するわね?」


「だってぇ…ねぇ…?」


「いいじゃない。。弾んどくわよ?」


「害虫駆除程度ならまあ、いいか。」


――――――――――


 ここ、絹井町からバスで揺られること30分。隣町のダンジョン。ここ俺の主戦場だ。絹井のダンジョンはその上、放っておいても大丈夫だ。


「さてと…。」


 確か、害虫が発生したのは…42階層。Fクラス単独だと本来駄目なのだが、俺は特例だ。とっとと行くか。


 因にだが昇級しないのには理由がある。それを上も理解しているからこその措置だ。まあ、もうここまで来たら目立ちたくないし。


 そうして…42階層まで早々に下り…ため息を吐く。


「害虫って…。」


 美海さんは確かに害虫と言った。まあ、害虫は害虫なのだが…


「カラミティワーム…馬鹿なんじゃないの?」


 カラミティワーム…禍々しい字のごとく厄災の蟲として即刻対処するべき魔獣と定められている。無駄に人間くらいのサイズがあるコイツらのクラス相当はAクラスパーティが3組以上。

 以上と言うのもコイツら…大量発生する。で、コイツらが大量発生するとダンジョン内を食い荒らし、やがて外に魔獣を追い出し成虫になる準備をする。


 そうです、追い出された魔獣、町を襲います。よくないですね。


「んでみた感じ…数は………いっぱい。」


 まあ、所詮は虫である。火には弱い。だいたいセ氏1500℃(鉄が溶けるくらい)の直火で焼けば死ぬ。


 んで、俺の安定して出せる最高火力が大体1万度。頭が悪いのでなにも考えず着火する。

 指先程度、ほんの小さな小さな一欠片の青く輝く炎。


「害虫駆除も大変なんだからさぁ…。」


 その一欠片の炎を地面に落とした。まだまだ…これが俺の力の一端であることに自分でも恐怖する。青く輝く炎は瞬く間に爆発し、閃光が空間に充満する。熱波がこの身を焦がす勢いで吹き荒ぶが最悪俺だけなら問題ない。


「キィィィィイ!!」


 と、あちこちから聞こえる。これだからやりたくないんだよ。害虫駆除…見られる危険性もあるし…今度から炎纏っとこ。


 んでまあ…大体駆除は完了した。一応…あれは一匹でも残っていたら厄介なので見回りはしておく。


 いやあ、我ながら派手にやったなぁ…これ。辺り一面には魔獣を倒した際に入手できる魔石。


「これ回収しないとか。」


 そうして、見回りも兼ね1つ1つ拾っていく。


 結局、合計は128個にも上った。Fクラスの所業ではないのは明白だ。まあ、これでしばらくは普通に暮らせるからそれでヨシ!



 と、言うわけで…再び揺られ帰ってきましたが…なんでしょうか、この有り様は?目の前にはひどく項垂れた美海さんの姿


「どうしたんです?美海さん。」


「ああ、お帰り…いや、ネットニュースになった時点で解っちゃいたんだけどね…君、万バズかましちゃった…。」


「…ま、万バズってそんな…。」


「ほらこれ…君がいなかった数時間で炎の魔神がトレンド入り…現在日本一位…。」


「…ヒェ。」


「これは…たぶん上も手軽に君を扱えなくなるんじゃないかな…。」


「え、待ってください。俺そんなに手軽に扱われてたんです?」


「まあ、境遇も相まってお金必要そうだし…。」


「な、なるほど…。」


「ともかく…より一層気を付けるんだよ?」


「解ってますよ。」


 はあ、あの配信者…やってくれたな…。


「あ、これ魔石です。」


「おっ…けい、これ何個あるの…?」


「128。」


「…バグってんねぇ…。」


「そんなの生まれつきですよ。」

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