怠惰なFクラス探索者、有名配信者の配信に写り混みバズる
烏の人
Fクラスの探索者
第1話 人類未踏破区域
俺…
ここまで、長い年月をかけ努力で成り上がったAクラスの探索者。そもそも、ダンジョン完全攻略自体、人類史に名を残せるほどの偉業だ。これまで、たったの3組のパーティしか無し得なかったもの…それをソロで…今世界中に配信している。
活動名、ヒロキ。おっさんに痛々しい名など不要。この大剣で道を切り開いてきた。チャンネル登録者数も数百万を誇る。自分で言うのもなんだが大物だ。
「みんな…今までありがとう!!応援してくれて…俺やってやるよ!ソロでの完全攻略!!」
そうして…その洞窟に似つかわしくない人工的な分厚い扉を開けた。
「ん…?」
いや、予想外だ。コメントも爆速で流れてやがる。
「先客が…いらっしゃる…。」
「あ?なに見てんの、おっさん?」
余裕そうに、彼はそう言っているが。相手はこれまで見たこともないような四つの腕に単眼の巨人。いや、彼も彼だ。炎を纏い…顔はよく見えない。
「え、ちょ、きみここ…。」
「今忙しいんだけど。」
この少年…涼しい顔で巨人と力比べをしている。が、相手は4本の腕をもつ。空いた腕で殴りかかられるが、それを容易く避けている。
「いや…えぇ…嘘ぉ…。」
あり得ない身のこなし。てかまずあれ熱くないの?燃えてるんじゃないの?
「師匠!あれ!」
少年は…巨人のことを師匠と呼び、俺の方を指差した。え?なに?
凄まじい威圧感と共に巨人はこちらを見つめる。俺もこの道に入って長い。解る。
これ死ぬ。
「すまぬな。取り込み中で気がつかなかった。」
えぇ喋るのぉ…魔物はある一定数喋るものがいる。それは本当に極一握りであり、例に漏れずソイツらはSクラスの探索者案件らしい。因にだが、Sクラスの探索者は日本には居ない。
死ぬって。
「挑戦者よ。また後日にしてはくれまいか。弟子が中々強くてな。久方ぶりに楽しんでおったのだ。」
今俺…相手にならんって言われた?てかあの少年は何者?
「は、はい…。」
「解ってくれて何よりだ。ワシは無駄な殺生は好かん。」
めゃくちゃつよい武人の台詞やん…。
「あ、あの…少し見ていても構いませんか…?」
「うーん…ワシは構わんが…どうする?」
「まあ、邪魔になら無ければ。」
「だそうだ。」
そう言うわけで…俺はその戦いを見ることとなった。
「ちょっと予想外すぎて…。」
そう言って腰を下ろす。コメントも戸惑っている。
【わけわかんなすぎて草】
【あれ誰なん?】
【え、ヤラセ?】
【なわけなくね?】
「ま、まあ…後日俺が挑む参考にでもなれば…。」
等と…甘い考えだった。目の前の少年と巨人の戦いはほぼ互角。が、どう考えても人に出きる動きではない。
炎が残像として残っている程度、それ以外はAクラスの俺でも見えん。間違いなく目の前の彼はSクラス相当。だが、先も言った通りSクラスの探索者は日本には居ない。そしてAクラスの探索者も顔の知れた存在が殆どだ(そもそも、10人程度しか居ないからだが)。
「その力…随分馴染んで来たようだな。」
「ええ、お陰さまです。」
「だが、まだ完全には掌握しきれていない…。」
「流石にこれ以上出力上げたらこの辺りがプラズマ化しますよ。」
何かあの少年…馬鹿みたいなこと言ってない?てかそうだ、ここ100階層なんだ。え、マジでこれ俺…ソロで挑もうとしてたの?
はっきり言って俺…あの少年にさえ勝てる気がしない。
「構わん…とも言いきれんか。」
チラッとその単眼に睨まれる。あ、俺邪魔なんだ…。
【な、何かやばくね?】
【これあの男の子の方も魔獣なのでは?】
【あり得るけど…これは…w】
【もう笑うしかない】
そう、もう笑うしかない。明らかに音を越えた速度の打ち合い。少年の攻撃もそうだがあの巨人…その全てを見きっている。
「おっさん!熱いの平気?」
「え?あ、ああ。」
「解った!!」
そう言うと彼は、彼の炎は青白く盛った。
「あっつッ!?」
とっさに身を屈める。今ので配信機器が逝った。てか、熱いのってそう言うことかよ!!彼の足元の地面は融解…さらには蒸発している。
そこからは閃光が一筋走っただけ…それ以降は見えなかった。
大剣を盾に、なんとか熱波を凌いだ。が、この剣はもう使い物にならない。彼の通った跡は抉れ…巨人はダンジョンの壁に吹き飛ばされていた。
「い、いやはや…これほどとはね。やはり、本気のお前とは打ち合いとうないわ…。」
「まだまだ…熱の変換効率が悪い…。」
「少なくとも…ワシの出会った人間のなかでは1番だがの…。」
なんであれ食らって会話できてんの?わけわかんねぇんだけど?
「さてと…で、おっさん。参考になった?」
炎を振り払い、少年はこちらに向かう。服…燃えてねぇのは何でだ?
「い、いやぁ…。」
甘かった。舐めていた。ダンジョン完全攻略の恐ろしさ。まさか…100階層のボスがこれ程とは…想像していなかった。
「ん?おっさん…もしかして配信者?」
「え?あ、あぁ…。」
その瞬間、彼は物凄い剣幕で詰め寄る。
「俺の顔…映ってねぇよな…?」
「だ、大丈夫だと思うが…。」
「思うじゃ困るんだが…そう言うのは先に言ってもらわねぇと困る…!」
「す、すみませんでした…。」
「これまさか…今も配信状態…?」
「いいや…さっきの熱波でやられたよ…だから今は切れてる。」
「そうか…ならいい。俺のことは口外しないでくれよ。くれぐれも。」
そう言うと、彼は出口に向かう。
「じゃあ師匠、また稽古つけてくれ!!」
「あいよー!」
手を振る巨人…まるで親子だ。
「それで…次は君ってことでいいか?」
「い、いや、俺は…。」
「まあ、冗談だ。剣もボロボロ。おまけにこちらの足場も焼け跡と来た。また準備を整えて来るといい。」
この巨人…ものわかりがいいッ!!
「まあ、君がワシに挑むのが何年後になるかは知らんがね。まだまだ…勇太にも及ばんが筋はいいと見るよ。」
あの少年…規格外過ぎる…一体彼は…?
「あの…彼は…?」
「探索者なんだと。Fクラスのな。」
「え…Fクラスだと…!?」
予想外のクラスに…ただ俺は呆然とするしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます