怠惰なFクラス探索者、有名配信者の配信に写り混みバズる

烏の人

Fクラスの探索者

第1話 人類未踏破区域

 俺…川田かわだ 宏樹ひろき(35)…独身。現在、配信者をやっているおっさんだ。十数年かけ、神童と呼ばれた俺はここまで成長した…ついに…ついにやってきたのだ。人類未踏破のダンジョン、ソロでの完全攻略のチャンスが…俺に!!


 ここまで、長い年月をかけ努力で成り上がったAクラスの探索者。そもそも、ダンジョン完全攻略自体、人類史に名を残せるほどの偉業だ。これまで、たったの3組のパーティしか無し得なかったもの…それをソロで…今世界中に配信している。


 活動名、ヒロキ。おっさんに痛々しい名など不要。この大剣で道を切り開いてきた。チャンネル登録者数も数百万を誇る。自分で言うのもなんだが大物だ。


「みんな…今までありがとう!!応援してくれて…俺やってやるよ!ソロでの完全攻略!!」


 そうして…その洞窟に似つかわしくない人工的な分厚い扉を開けた。


「ん…?」


 いや、予想外だ。コメントも爆速で流れてやがる。


「先客が…いらっしゃる…。」


「あ?なに見てんの、おっさん?」


 余裕そうに、彼はそう言っているが。相手はこれまで見たこともないような四つの腕に単眼の巨人。いや、彼も彼だ。炎を纏い…顔はよく見えない。


「え、ちょ、きみここ…。」


「今忙しいんだけど。」


 この少年…涼しい顔で巨人と力比べをしている。が、相手は4本の腕をもつ。空いた腕で殴りかかられるが、それを容易く避けている。


「いや…えぇ…嘘ぉ…。」


 あり得ない身のこなし。てかまずあれ熱くないの?燃えてるんじゃないの?


「師匠!あれ!」


 少年は…巨人のことを師匠と呼び、俺の方を指差した。え?なに?

 凄まじい威圧感と共に巨人はこちらを見つめる。俺もこの道に入って長い。解る。


 これ死ぬ。


「すまぬな。取り込み中で気がつかなかった。」


 えぇ喋るのぉ…魔物はある一定数喋るものがいる。それは本当に極一握りであり、例に漏れずソイツらはSクラスの探索者案件らしい。因にだが、Sクラスの探索者は日本には居ない。

 死ぬって。


「挑戦者よ。また後日にしてはくれまいか。弟子が中々強くてな。久方ぶりに楽しんでおったのだ。」


 今俺…相手にならんって言われた?てかあの少年は何者?


「は、はい…。」


「解ってくれて何よりだ。ワシは無駄な殺生は好かん。」


 めゃくちゃつよい武人の台詞やん…。


「あ、あの…少し見ていても構いませんか…?」


「うーん…ワシは構わんが…どうする?」


「まあ、邪魔になら無ければ。」


「だそうだ。」


 そう言うわけで…俺はその戦いを見ることとなった。


「ちょっと予想外すぎて…。」


 そう言って腰を下ろす。コメントも戸惑っている。


【わけわかんなすぎて草】


【あれ誰なん?】


【え、ヤラセ?】


【なわけなくね?】


「ま、まあ…後日俺が挑む参考にでもなれば…。」


 等と…甘い考えだった。目の前の少年と巨人の戦いはほぼ互角。が、どう考えても人に出きる動きではない。

 炎が残像として残っている程度、それ以外はAクラスの俺でも見えん。間違いなく目の前の彼はSクラス相当。だが、先も言った通りSクラスの探索者は日本には居ない。そしてAクラスの探索者も顔の知れた存在が殆どだ(そもそも、10人程度しか居ないからだが)。


「その力…随分馴染んで来たようだな。」


「ええ、お陰さまです。」


「だが、まだ完全には掌握しきれていない…。」


「流石にこれ以上出力上げたらこの辺りがプラズマ化しますよ。」


 何かあの少年…馬鹿みたいなこと言ってない?てかそうだ、ここ100階層なんだ。え、マジでこれ俺…ソロで挑もうとしてたの?


 はっきり言って俺…あの少年にさえ勝てる気がしない。


「構わん…とも言いきれんか。」


 チラッとその単眼に睨まれる。あ、俺邪魔なんだ…。


【な、何かやばくね?】


【これあの男の子の方も魔獣なのでは?】


【あり得るけど…これは…w】


【もう笑うしかない】


 そう、もう笑うしかない。明らかに音を越えた速度の打ち合い。少年の攻撃もそうだがあの巨人…その全てを見きっている。


「おっさん!熱いの平気?」


「え?あ、ああ。」


「解った!!」


 そう言うと彼は、彼の炎は青白く盛った。


「あっつッ!?」


 とっさに身を屈める。今ので配信機器が逝った。てか、熱いのってそう言うことかよ!!彼の足元の地面は融解…さらには蒸発している。


 そこからは閃光が一筋走っただけ…それ以降は見えなかった。


 大剣を盾に、なんとか熱波を凌いだ。が、この剣はもう使い物にならない。彼の通った跡は抉れ…巨人はダンジョンの壁に吹き飛ばされていた。


「い、いやはや…これほどとはね。やはり、本気のお前とは打ち合いとうないわ…。」


「まだまだ…熱の変換効率が悪い…。」


「少なくとも…ワシの出会った人間のなかでは1番だがの…。」


 なんであれ食らって会話できてんの?わけわかんねぇんだけど?


「さてと…で、おっさん。参考になった?」


 炎を振り払い、少年はこちらに向かう。服…燃えてねぇのは何でだ?


「い、いやぁ…。」


 甘かった。舐めていた。ダンジョン完全攻略の恐ろしさ。まさか…100階層のボスがこれ程とは…想像していなかった。


「ん?おっさん…もしかして配信者?」


「え?あ、あぁ…。」


 その瞬間、彼は物凄い剣幕で詰め寄る。


「俺の顔…映ってねぇよな…?」


「だ、大丈夫だと思うが…。」


「思うじゃ困るんだが…そう言うのは先に言ってもらわねぇと困る…!」


「す、すみませんでした…。」


「これまさか…今も配信状態…?」


「いいや…さっきの熱波でやられたよ…だから今は切れてる。」


「そうか…ならいい。俺のことは口外しないでくれよ。くれぐれも。」


 そう言うと、彼は出口に向かう。


「じゃあ師匠、また稽古つけてくれ!!」


「あいよー!」


 手を振る巨人…まるで親子だ。


「それで…次は君ってことでいいか?」


「い、いや、俺は…。」


「まあ、冗談だ。剣もボロボロ。おまけにこちらの足場も焼け跡と来た。また準備を整えて来るといい。」


 この巨人…ものわかりがいいッ!!


「まあ、君がワシに挑むのが何年後になるかは知らんがね。まだまだ…勇太にも及ばんが筋はいいと見るよ。」


 あの少年…規格外過ぎる…一体彼は…?


「あの…彼は…?」


「探索者なんだと。Fクラスのな。」


「え…Fクラスだと…!?」


 予想外のクラスに…ただ俺は呆然とするしかなかった。

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