「季節の中にいるということ」の解説①

*以下の解説は同作品内の第一エピソード「季節の中にいること」にて投稿した俳句の解説になります。作品オンリーで味わいたい人はご注意ください。


このエピソードは、私が過去に読んだ俳句について、その句を読もうと思った経緯から、作句にあたっての言葉選びに至るまでを丁寧に解説してみようという試みです。俳句に慣れていない方や、そもそも僕の俳句の言葉足らずのために改めて深く理解したい方のためにこのような解説をしようと考えました。俳句を詳しく解説してしまうのは、読み方を単一に限定してしまったり興ざめになったり実際に読み取ったものと違う意味を提示するおそれがあるかも知れませんが、それでもよければどうぞ。



まず一句目。「春立つや光にも圧力はある」について。

立春の季節というのは、長い冬の時期が終わり、暖かな陽光に草花が芽吹きを始める時期です。私は立春の季節の、特にその日光に着目しました。生物というのは圧力を感じることができます。例えば人間は気圧や水圧を感じることができます。あるいは春の植物も同じでしょう。ところで、光も他の媒質と同様、科学的な文脈において圧力という概念があるということを私は最近知りました。それは私たちの肌感覚と矛盾するものではありません。私たちが例えば家のドアを開けて、いきなり肌にその春の陽が差す時、確かに私たちは肌を押される感覚があります。この句では、その光が圧力を持っているという事象を、科学的にというより、むしろ触覚として感じ取って欲しいと思います。それは長い冬には経験できないような感覚で、その春特有の光の性質が、その年に春を初めて知る生物全員に降り注ぎます。そのために地面から芽吹きが始まり、冬眠していた生物もまた起き始めるのです。ともかく、光が持つ圧力という性質をぜひみなさんにも感じ取ってほしい。日常生活を送る中で、「あっ、これが光の圧力か」と発見してほしい。その思いを句に落とし込みました。しかし一方、この句では季語を生かしきれていないなと自分で反省してもいます。もっと上手く書けたら良かったなあ。以上、一句目「春立つや光にも圧力はある」でした。


二句目。「桜散る道にぽつと立つ屋台」について

桜は春の訪れを代表する季語です。その桜が散るというので、これは春の特に中旬辺りで詠んだわけです。普通、春になると皆は神社にお参りに行きます。御神籤を引いて運勢を確認したりする中、神社には同時に屋台巡りや花見といった楽しみもあります。しかしこの句ではそういった賑やかな情景ではなく、もの寂しい雰囲気を含んだ情景を描きました。まず大きな桜の木から花びらが落ちてくる上の画角から徐々に視点が移動し、木の下に立っている一つの屋台に視線が集中するといったことを狙いました。その屋台は他の屋台と乱立するのではなく、一つのみ、まさにポツンと立っています。花見といった行楽事が終わった後の、訪問者の少ない神社の中を、さみしそうに立っているのです。ここであえて指摘しておきたいのは、「建つ」ではなく「立つ」を選んだ理由です。「建つ」というと、その屋台を組み立てた動作も感じとらせてしまいます。一方、「立つ」というのは物だけでなく人にも使う、より一般的な様子を想像させます。さらにあえて説明します。「立つ」というのは「座る」の反対語なわけですが、通常「座る」というと、安定や安堵を感じさせます。それでいうと、「立つ」という様子は不安定や不安を微かに感じさせることができます。すなわち、その不安定性が「ぽつと」という語と共鳴する仕組みになっています。

ところで、この句について、「桜散る道にぽつんと立つ屋台」でも良いと思われる方がいるかも知れません。しかし私は、「ぽつんと」よりも「ぽつと」が良いと思っています。そもそも私の意図としては、「ぽつと立つ屋台」という言葉をもし口に出して読むなら、「ぽつ…と立つ屋台」と読んでほしいなあと勝手に思ってました。何が言いたいかというと、「ぽつ」の直後で急ブレーキ。次にアクセルを踏み始めて「と立つ屋台」というように読んでほしいんです。(勝手ですみません)すると、「ぽつんと立つ屋台」という表現の間で微かな差が出るのに気づかれますでしょうか。「ぽつんと立つ屋台」と音読すると分かりますが、口がせわしなく動くことになります。音が途切れず鳴り続ける訳です。しかし「ぽつ…と立つ屋台」と音読すれば、少しの不快を感じるほどに不安定感が残ります。実はそれを狙いました。伝わってくれ〜!!というわけで、二句目「桜散る道にぽつと立つ屋台」でした。


(この調子で解説していって大丈夫かな。私的にはかなり情熱を消費しているようで、字数も多く書いてしまっています。)

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