第18話 ホムンクルス


「勇者殿、例の件ですが……、」



 ――――学長との戦いから数日後、俺はクエレさんからゲイリーの話を聞くことになった。二人が初めて対面したとき、クエレさんが似た人をかつて見たことがあると感じたと言う話が発端となっている。



「え? 何の話でしたっけ?」


「この前の、あなたのお弟子さんの事についてです。彼についてある程度調べてきたのでお話ししたいのです。」



 当日は一旦持ち帰り、調査をするということになっていたのだ。行方不明事件が一件落着したということで、この件について説明したいとのことだった。



「私は彼を過去に見たことがある、と言いましたね? 最初は見間違いではないかとも思いましたが、調べているうちに羊の魔王との戦いで奇妙な目撃例の記録を発見したのです。」


「魔王との戦いに一体何が?」


「今から一千五百年前に、人ではない人の戦士がいたという話です。」



 事前にアラムさんの話を聞いていたから、実はそんなに驚いていない。今聞いている話はある意味、あの話の答え合わせみたいな物だった。



「外見は人でしたが、不死身めいた強さで、いくらでも傷を再生し、それどころか首を刎ねてもそのまま戦い続けるという恐ろしい戦士だったというのです。」



 まず、この部分はゲイリーの特徴と一致する。傷はいつの間にか回復しているし、絶命したとしても復活した事例は二度確認されている。そして、エピオンとの戦闘後は真っ二つになったが、謎の失踪を遂げている。これは生き返ったかどうかは不明瞭なため判定はグレーだ。



「しかも、みんな同一人物かと思えるくらい判を押したような外見だったといいます。そういう人らしからぬ特徴がいくつか見受けられたため、人ではないと判定されたのでしょう。」


「はは、さすが魔王軍。やばいヤツが昔からいたんですね。」



 渇いた笑いしか出てこない。クエレさんからは得体の知れない戦士の話を聞いて引きつっている様に見えているかもしれないが、実際はゲイリーとの特徴の一致具合にドン引きしているのだ。



「その外見というのが正に彼と一致していたのです。私も記憶もおぼろげだったので、過去の他者が起こした記録を見たときにやっと記憶が戻ってきたのですよ。まだ現存していたのかという驚きで一杯だったのですよ。」


「アイツが魔王軍のスパイだという疑惑が本当だったなんて……。」



 これでほぼ確定したといえる。大分昔だがもう軍の中に存在していたんだから。とはいえ不可解な部分もある。他の魔王やその眷属とは普通に戦っていたからである。猿や蛇の魔王はゲイリーを味方とは見なしていなかった。それが謎を深めている。



「とはいえ、アイツは他の魔王ともやり合ってるんすよ。どういう事なんでしょう?」


「うむう、それは何とも言えませんが、昔から魔王軍とは横の繋がりが希薄とも言われていますのでねぇ……。」



 以外と昔からそういう事は言われてるんだな。魔王軍と一括りにされているが、魔王それぞれの思惑があって行動しているので連携が取れていない。そういう欠点があっても、人間側の勢力を圧倒するだけの力はある。大体、チート級の能力を持っているからゴリ押しが利くんだろうな。だから雑に舐めた戦い方をしても勝てるという……。強者ってのはそういうヤツが多いよな。



「そして、彼らのような生物は俗にホムンクルスという名前で呼ばれています。古代に存在していた人造生物の名が由来です。特徴が似ているためその名で呼ばれる事になったのですよ。」


「……ホムンクルス!?」



 ついにその名が出た。アラムさんが言っていた都市伝説の内容と合致した。やはりアレは実話なのかもしれない。一般的には忘れられているが、古代から生きている人が言っているのなら信憑性が高くなる。



「あの血の呪法と並ぶ、禁断の秘術ですよ。一から生物を自らの手で生み出すのです。魔法生物の様に既存の物を加工するのとは訳が違います。ある意味、神の領域に踏み込む愚行ともいえます。」



 でもそんな倫理は魔族には関係ない。どんな手段でも平気で使ってくる。どんな残虐な手段でも、どんな卑劣な奸計であろうと使ってくる。特に虎や蛇はそうだったし、羊にも異様な気配を感じた。



「特に羊の魔王は昔から各種キメラの創造、禁呪法を多用する魔王と恐れられています。ですが、彼はそれほどの知性を持ち合わせていながら人語を話したという記録は一切残っていません。それ故、“沈黙の魔王”と呼ばれています。」


「沈黙の魔王か……。」



 本人とは一度、遭遇したことがある。ほんの少しの間だけだったが、その恐ろしさの片鱗は十分すぎるほど良くわかった。アイツだけは何かが違う。その思想、行動だけでも異質な物を持っているのは間違いないと思った……。

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