第19話 ※絶対に人に向けて使ってはいけません。


「ギョワワワーーーッ!!! 死ぬぅ!!」


(バシャシャーーーッ!!!!)



 事件は解決したが、その後始末が大変だった。タニシのお洗濯が待っていたのである。変装のために体毛を黒く染め、下痢をお漏らししたため、その洗浄をしているのだ。牧場にある激しい水流が出せる特殊な魔導器を借りて、吊したタニシを洗浄している。しかも、難航して結局、夜が明けてしまった。



「こら、タニシ! そんなに暴れるな! 周りに水が飛び散るだろ!」


「だってぇ、あっしはお風呂嫌いなんでヤンしゅ! 暴れるなという方が無理があるでヤンしゅう!」


(バッシャアアアアッ!!!!)


「ギョベーッ!!!」



 さすがにコレの洗浄力はすごい。井戸から吸い上げた水を細く絞ってノズルから発射する。まるで熱光線で金属とかを溶かすみたいに、汚れを落とす事が出来る。



「これはお掃除の時にも重宝しているんだジョ。パワーを上げれば、こびりついた汚れでも徹底的に落とせるんだジョ。」



 ピエール君も早起きしてこの現場に駆けつけていた。最初は直接水をかけて洗っていたが、それを見かねたピエール君が魔道器を出してきたのだ。本来は農機具とかの汚れを落とすために導入された物らしいが、お風呂代わりにピエール君も使用することがあるらしい。特に暑い夏とかにやると気分爽快なのだそうだ。



「実はタニシ君、コレでお洗濯されるのは二回目なんだジョ。あの時もウ○コまみれで臭かったんだジョ!」


「○ンコまみれ、二回目だったんか、お前……。」


「あああーっ!? また、あっしの黒歴史が明らかになってしまったでヤンしゅう! 恥ずかしーーっ!!」



 ピエール君によると、昔、鬼ごっこかなにかで牧場を走り回っていたとき、タニシが誤って牛糞の山に突っ込んでしまうという珍事が発生したらしい。しかも、埋もれて身動き出来なくなった上に、助けの声が周りに聞こえず発見が遅れたとのこと。夜になってやっと発見されたらしいが、おわかりの通りウン○まみれになったので、即、洗浄となったようだ。それからしばらくは微妙に臭かった事もあり、ウ○コマン呼ばわりされていたという……。



「じゃあ、折角だから今回の事件は超人ウ○コマンが解決したということにしておこうか? 最大の功績者の名を讃えるということで!」


「おおーっ! それはいいアイデアだジョ! ウ○コマン、大活躍の巻! 町中、噂で持ちきりになること間違いなしだジョ!」


「いやでヤンしゅう! そんな不名誉な功績は残したくないでヤンスぅ!」



 まあ、それは冗談だとしても、犬の魔王と羊の魔王両者の気を同時に引くことは出来たんだ。囮作戦は成功だったといってもいい。功労者なのは間違いない。その後の後処理は大変だけどな。



「うーん。これ以上は汚れ落ちないな。」


「さすがスミス氏の持ってきた染料だジョ。あれはそもそも、人間用の白髪染めみたいだったから簡単には落とせないんだジョ。」



 あの胴長従業員スミス氏の持ってきた染料は特殊な物だったようだ。普段の生活でも中々落ちないように作られているのだから、簡単に落ちてもらったら困るもんな。商品の都合なんだからしょうがない。



「じゃあ、しばらくはブラック・タニシとして生活してもらおう。」


「ブ、ブラック・タニシ! なんとなくパワーアップとか闇落ちしたみたいな、シブキャラな雰囲気を醸し出せそうな気がするでヤンス! これで女の子にもモテモテ?」


「そんないいもんじゃないぞ。どちらかと言えば、タガメおじさんと瓜二つな外見になったともいえるからな。」


「タガメおじさん!? あっしも変態度がパワーアップしてしまったでヤンしゅかぁ!?」



 タガメおじさんはタニシよりちょっと黒っぽい毛の色だった。染め物の色が落ちない状態では瓜二つな外見となってしまった。不本意にもあの変態マスターに似てしまったのは不名誉なことだろう。



「あら、タニちゃんのお洗濯はまだ続いてたんですね。」


「うん。まあ、これ以上落ちないから、もう終わりにしようと思ってたところ。」



 メイちゃんとファルは犠牲者、頭部を差し替えられてしまった冒険者達を埋葬しに行っていたのだ。深夜に作戦が決行されたが、彼女も念のため寝ずに待機してくれていたのだ。おかげでグロい姿になった遺体を人目に付くことなく埋葬できたのだ。



「そろそろ、終わりにして朝ご飯でも食べましょう。無理しすぎると倒れてしまいます。」


「そうなんだジョ。しかも明日はお祭りがあるからゆっくり休んでおいて欲しいんだジョ。」


「お祭り!? そういえば、今はあの季節! ハッスルするでヤンしゅよぉ!!」



 タニシはどんな祭りかを知っているようだ。そこまで祭りに張り切るヤツだっただろうか?タニシが興奮するような祭りとは一体?

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