【第三章:この宇宙で、最も重要な結論④】
やっぱりどこまで突き詰めても、これは不思議だ。
瑛摩から を追う人はいなかった。あれだけ大々的に報道されていたのに、だ。
僕たちは誤魔化すでもなく、そもそも誰にも疑われなかった。
から は僕の家で居候している。家に帰るのは危ないだろうと思ったからだ。ただ、こんなにも人から疑われないのであれば、また元の生活に戻っても良いのではないかとも思う。
「それは嫌だ」
「ここは二人で住むには狭すぎる」
「狭すぎたって、これでもいい」
これでいい、は彼女の口癖になっていた。
彼女は蓋を開けてみれば、完璧でも何でもなかったのだ。彼女は理性という道を辿って生きていた。完璧だったのは彼女ではなくて、理性のほうだったのだ。
だけど彼女が「理性とは完璧だ」と崇拝するところも、また本心だったようだった。今の彼女は崇拝するだけで、理性に囚われているわけではない。
もし彼女が最初から、その感情に「理性」と名付けなければ、元より理性など知らずに生きていられたのかもしれない。
好きなものを好きと受け入れ、キライなものはキライとして受け入れられる感性の、なんと豊かなことか。
そんな新しい感性が彼女を彩っていく様子が、僕にはとても魅力的に見えた。
休みたい授業は休む。行きたい授業に行く。やりたくない課題は提出が遅れて、なんだかやる気がみなぎるとレポートの制限字数を超過してしまう。そんな当たり前を感受している彼女は新鮮だ。
彼女はカフェインを取らなくなった。
抜け出すのには少し時間がかかった。習慣を変えるのはとても大変だ。彼女にとっては習慣を超えて性質だったのであるから、なおさらだった。
僕たちの暮らしは永遠になった。僕たちは普通になった。
彼女は普通だ。理性という「殻」を捨てて人間になった。
たくさん遊びに行った。水族館に行きたいと言ったなら水族館に行ったし、遊園地に行きたいと言ったなら遊園地に行った。お金がなくなったときは、お金がないことをぼやき合った。
一方で、彼女の研究も順調だった。理性の殻を捨ててもなお、星系意思への関心はそのままだった。以前よりも少し難航しているようだけど、彼女は作業を楽しむというプロセスを踏めるようになっていた。疲れたときは疲れたと言って作業をやめるし、やりたいと言い出すととことんやる。
日を重ねるにつれ、どんどん人間になっていく。
僕は幸せだ。彼女が幸せになることの、なんと幸せなことか。
いつの間にか、大学二年生になっていた。大学一年生の冬には一つレポートを出そうとしていた から だったが、研究は想像を絶する難航を見せた。でも、全く苦しくない。
これでいいのだ。
僕はずっとそう思っていた。
だけど、忘れてはいけなかったのだ。
罪と罰が対であったこと。
僕が二度も罪を犯したこと。
だからこそ、僕はこうして今を生きているのです。僕がもしも、もう一つの選択をしていたなら、僕は今頃こんなふうなことをしていないでしょう。
僕たちはいつも何かを内包しているように思いながら、それに内包されているのです。
僕たちに自由意思などあるのでしょうか。
それに答えを出すために、最後の出来事を話しましょう。
ここからが結論です。
いいね、から?
いいよ。
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