【第一章:ノブレス・オブリージュ㉓】

 僕に、家族という家族はいない。ただし、金銭があった。



 僕は自分の両親について、本当に何も知らない。思い出せる限りの家族の最新の情報。それは僕が中学校に入学したときのところまで。



 父親は僕が生まれた頃にはいなくて、母親はどこかへ行ってしまった。一体どこへ行ってしまったのか、それも僕には分からない。



 ところで、人間はある程度のところからしっかり自立できるように出来ているらしい。中学生でも余裕で一人暮らしはできた。ただこれは、僕の手元にそれなりのお金があったからだ。



 愛とお金を天秤にかけるような例え話があるけど、現実という天秤にかけるなら僕はお金のほうに傾くんじゃないかと思ってる。なぜなら、あの家庭に愛があったとしても、お金がなければ存続できないように思えるから。



 愛は特に何も解決してくれなかった。一生懸命な労働というものは、一生懸命さに結果がついてくればよいものだけど、そこまで都合が良くないことは認めざるを得ない。母親の姿を見ていてそう思った。



 ある日、母親の消失と共に大量のお金が手に入った。この事実については詳しく語らない。いや、思い出さない、考えない。分からないようにしているからだ。それは僕の精神性にしては珍しく、その意味を考えるのが嫌だからだ。



 ということで、お金には困らなかった。そのおかげで僕は、人並みの生活ができるようになった。生活用品さえ調達できれば、あとは僕が体を動かすだけで明日を迎えられる。その行動の質は生活の質を変えるだけで、存続の有無を危ぶむことではない。保障された人生であった。



 さて、両親はいないし、よく知らない。そんなわけで祖父母を含む親戚との面識もほとんどない。一般的に考えられる血縁関係というものはなくて、独立している状態だ。



 僕はきっと恵まれている。なぜならお金があるからだ。お金があるぶん困ることは少ない。僕は生きていける。それに比べて、様々な問題を抱えながら生きている人間がいる。家族の期待、暴力、収入、などなど。それに比べて僕はどれだけ幸せなんだろう。



 恵まれた人間は、それに応えるようにして生きていかなければいけない。それが、ノブレス・オブリージュという考え方。



 僕は自分の幸福を感じると同時に、責任を背負うことで制約としている。



 今後、僕が背負う責任とは何だろうか。

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