【第一章:ノブレス・オブリージュ⑱】

 コンビニへは、自転車ではなく徒歩で向かった。



「暑いね」



「それにしても都心より涼しいでしょ? ここは人口密度もそこまで高くないから」



「そうかもしれない。でも、暑いものは暑い」



 急に小学生みたいなセリフが飛び出す行く道の果て、コンビニに辿り着いた。たった五分でも灼熱の中では遠出である。



 コンビニの中は、相変わらず風邪を引きそうなくらいに寒い。



「とりあえず飲み物」



「じゃあ、これも追加で」



 コーヒー缶を一本手渡してくると、よろしく、と手を振って駄菓子のコーナーに向かっていった。まさか奢りじゃないだろうな。



 僕は今日のぶんの食料を探す。お金にはそこまで困っていないが、それでもできるだけ節約したい。コンビニでご飯を調達するのもできれば避けたいところだが、立地が立地だ。時間はお金には代えられない。



 コンビニのうどんとパンを適当に選び、買った。会計に彼女は現れなかったので、コーヒー缶は僕の奢りになった。悔しい。



 それが会計を終えれば、ひょこっと彼女は現れる。



「コーヒー代、あとで徴収するから」



「ノブレス・オブリージュというやつは?」



「それはこちらの善意から発するから成立するものなの。義務じゃなくて責任」



 あぶないあぶない。彼女の詭弁に今日も騙されてしまうところだった。



「さて、それじゃあ早歩きで帰ろう。私たちが融けてしまう前に」

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