【研究資料.1】

 今回調査の対象となった患者十二人のうち、八人が同様の症状を示した。これは彼らが実際に事件現場に居合わせた際の強烈な印象によって引き起こされた衝動的な現象とも考えられる。しかしこの現象の奇妙なところは、彼らは一度体験した恐怖から逃走するのではなく、むしろそちら側へ向かってしまうような行動を誘発するからである。これは闘争でも逃走でもない、強いて言葉を選ぶのであれば挑戦と言えるのかもしれない。



 この現象が最初に発見されたのは、今から十年前だ。当時からこの現象についての研究は進んでいるが、その具体的なメカニズムは未だ発見に至っていない。今回の調査からも原因の特定は不明であったことは、上記した神経の発火状態からも分かっていただけるだろう。



 ただし、この現象は今後の行動医学界に大きな影響をもたらすだろう。そのためにも、いち早くの命名が必要である。私から提案できることといえば、その現象にGlourious-Seeker syndromeという症名を提言することくらいである。



一八八八年 Grace Doverが調査委員会へ提出した文書より引用


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