第12話 魔法の訓練
眷属の数が、箱庭用に9体(アヴィー含む)、戦闘用に9体と、合計で18体となった。あまり大勢創ると、その分自分の力が削れてしまうので、今のところはこれ以上、眷属を増やす予定はない。
彼らを創ったその日から、食事は全員で一緒に食べるようにしている。全員というのは勿論、戦闘補助用に創った兎達も含めてだ。
兎型とはいえ、食事は私達と同じものが食べられるので、それぞれが自分の好みを探求しているところだ。
私は麺類が特に好きなので、食事のメニューには麺類が出される事が多いが、パンも米も好きなので、それらもよく食事に出ている。そういう訳で我が家の食卓は、和洋中なんでもありだ。
改めて考えてみると、現代日本の食事は多国籍だな。こちらの世界であちらで食べていたものと似たレシピを検索してみると、何か国もの名前が出て来る。
異世界三日目は、私が寛ぐ為の和風建築の自宅の創造に終始した。
和風とはいっても、トイレやキッチンは洋風、もしくは現代風だ。単に畳敷きの和室が多めであり、木材中心なだけだ。
管理室で設計図を引いて設計してそのまま創造。その後は携帯用の小型端末を手に、実際に創った建物へ移動して、その場その場で必要な家具や小物を創造して、設置していく作業に移る。
畳、布団、座布団、炬燵、障子、襖、七輪、土鍋。この辺りは外せない。あとは和室にそれっぽい掛け軸や壺、日本刀なんかも配置してみたり。
庭に梅、竹、桜、椿、松、池、鹿威し、生垣などを配置して、風景も和風で揃えていく。
そんなこんなで一気に創っていった結果、新居はその日だけで整った。また他に必要な物ができたら、その都度創っていけばいい。
数日過ごした本館の寝室から、できたばかりの新居へと引っ越しする。
そちらに引っ越すのは私一人だけだ。それも、夜寝る前に転移魔法陣で移動するだけ。食事や仕事は、本館の方が広くて集まりやすいので、引き続きそちらを利用している。
また、眷属達の暮らす部屋も、すべて本館の方に用意されている。
そんな訳で私は、数日ぶりに和室の畳の部屋に、布団を敷いて寝た。室内で裸足かスリッパで過ごす生活はやはり楽だ。
夜、寝るまでに空いた時間に、法律の簡易まとめ本にも目を通したし、急ぎやらねばと思っていた分の作業は、そこそこのペースで熟せていると思う。
私が家を創っている間に、戦闘補助の眷属達は、訓練施設へ行ってきたそうだ。
最高神が管理するいくつもある箱庭の一つに、眷属専門の訓練所があるという。
眷属用の訓練所には、動物型眷属も人型眷属もどちらも訓練に来るそうで、かなりごちゃ混ぜな訓練風景だったのだとか。
戦闘用の眷属達は時間を決めて交代で行動させて、その合間に休憩を挟むよう、こちらで指示しているが、箱庭の眷属達には各自の裁量で、仕事の合間に休憩や勉強、訓練などを、適宜挟むよう申し付けている。
一般常識は最初からインストールされているとはいえ、それぞれが興味のある分野の勉強をしたり、なにがしかの趣味を作ったりというのは、これからゆっくりとやっていった方がいいと思う。
それらの経験がいずれ役に立つかもしれないし、何より、これから永い時間を過ごすのに、楽しみもなく惰性で生きるだけなんて、虚しいだろう。何でもいいから、楽しいと思う趣味を見つけて欲しい。
転生四日目になる今日は、魔法の訓練をすると決めた。最高神から念を押されている事だし、いつまでも後回しにはできないからな。
…………正直、気が重い。
自分の運動音痴っぷりを自覚しているだけに、訓練がうまくいくビジョンが見えない。だが、やらずに済ますのが不可能なのは、流石にわかっている。
今日は戦闘訓練でなく魔法の訓練なので、まだマシだ。……そう思っていたのだが。
「これは、先代アルトリウスを越えてますね……。歴代最強なのでは……? 桁が違う……」
そう呆れたように呟くのは、漆黒の肌をした美丈夫だ。名を、クサナ・ボードレートという。
金の波打つ長髪をポニーテールにし、明るい灰色の目はやや吊り目といった容姿の持ち主で、作業用のダボダボのツナギを着ている。
技巧神の一人で、私が魔法の訓練に訪れた訓練所で、普段から訓練補助を業務として行っているという。
ちなみに彼は、あの漫画の登場人物ではない。脇役ですらない未登場だ。
今日会って感じた範囲では、淡々とした口調と表情がミステリアスにも思える。だが実は、言葉や表情を飾るのが面倒なだけなのでは? とも思う。なんとなく、物臭同士、ピンとくるものがある。
神同士で敬語は必要ないと最高神が認めているが、素でそういう言葉遣いの者もいるし、喋り方は本人の自由だ。クサナも一応は敬語のようでいて、わりと適当な喋り方をしている。
私は、唖然としているクサナに皮肉を返した。
「最強と言っても、単に魔法の威力に関してだけは、だろう?」
「……ええ。魔法の威力に関しては……」
私の言葉を否定する事なく、クサナも頷いた。
お互いに顔を見合わせ、一拍置いて、盛大に溜息を吐く。
現在この訓練場で、私が魔法を放った訓練所の一画だけが、とても酷い絵面に変貌していた。
具体的に言うならば、焼け野原である。魔法防御を施されたはずの的や、その背後にあった壁などが、きれいさっぱり無くなっている。
なんと私は運動神経だけでなく、魔法制御までもが、壊滅的にダメダメだったのである。
……もう、溜息しか出てこない。
単なる試しに一度、ごく軽く魔力を込めて、魔法を放ったつもりだった。それでこれだ。初っ端からやらかしてしまった。
これまでは、管理室の機能を使った創造以外で力を使った事がなかったから、こんなにも魔法の制御が難しいとは、想像していなかった。
(魔力が神力と比べて多すぎるのか。その上、管理室の宝珠の補佐がないと、適切な量を汲み取るのが難しくなっている)
気を取り直したクサナから改めて、魔力を抑えるように重々注意され、自分でもさらに微量に抑えたつもりで放った魔法で、またも訓練所の一画が消滅した。
次いで、貸りた制御用の魔道具を装着して同じ事を試してみたが、今度はその魔道具が、魔力に耐えられずに壊れてしまうという結果に。
これっぽっちも減った気がしない程度にしか、魔力を使っていないのに! どうしてここまで被害が大きくなるんだ!! おかしいだろう!!!
そう叫びたいのを堪えて、クサナと対策を話し合う。
そしてアヴィーに念話で連絡を取って、魔道具作成の大家だったという先代特製の制御用魔道具を、倉庫から大量に運んできてもらった。それを全身に装着して、更にもっと神経を尖らせつつ、極々微量まで魔力を絞って魔法を放った。
結果、そこまでしてようやく、許容範囲内に収まる威力に落ち着いた。
腕輪やら足環やら腰紐やら、とにかく着けれるだけ着けた装飾品(魔道具)が、とても重い……。こんなに大量に魔道具を装着しないと、魔法をまともに使えないとか、魔法神として致命的すぎないか。
「ここまでとは予想外ですな」
魔道具一式を運んできたアヴィーが、私の壊した訓練所を眺めて、珍しく困った顔をいている。え、もしかしてこの施設、弁償しないといけないのだろうか?
私は密かに慄いたが、この建物は神力で創られているので、修復も神力払いでいいそうだ。良かった。先代の遺産を無駄に浪費しなくて済んだ。(クサナから借りて破損してしまった魔道具だけは、先代の遺産の中から似た物を補填した)
「正直、ここまで制御が苦手だと、この先、苦労しそうです……。でも訓練次第で解決する可能性も、まだ、少しは、ない事も……」
慰めの言葉が、まったく慰めになっていない。言っているクサナ本人も、まるで自分の言葉を信じていないのが、逸らされた視線でわかる。
「どのくらいの可能性が?」
つい、問い返す口調が尖る。
「……ゼロではないです。きっと……」
こちらから視線を逸らせたままで言うクサナに、私はつい、恨めし気な視線を向けた。
面倒臭がりの魔法神は、それでも恋をしている アリカ @alikasupika
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