第5話  ケンカ

「もともと、翼の変わり者の伯父の店なんだ」


「変わり者って?」


 あたしは、食いつく。

 何せ、自分が一族の変わり者と言われてるんだ。


「翼の家は、弁護士の家系なんだ。もちろん、翼の父親も弁護士だ。だけど長男であるはずの親父殿は、海の仕事に憧れてたが、さっきも言った通り、叶わなかった。そのせいか独身で、に引き込もって、趣味のボトルシップ作りに没頭したわけ。ついでに弟が弁護した事件の親無しの子供を引き取ってな」


「それ、航さん? のこと?」


 あたしの質問に、航はまたあたしの頭をクシャクシャにする。

 あたしは、怒って手をどけようとするが航の方が素早かった。


「だったら良いもん!! あたし、あんたのこと航って呼ぶ!!」


「なに言ってるんだ? ガキ! 小学生だろうが!」


 航は、かなり真面目に言ったつもりだったみたいだが、小学生と言われてあたしが怒らない訳がない。足を思いきり踏んづけてやった。


「だっ!!」


「誰が小学生よ。13だもん!! 中学生だもん!!」


「それでも、三月までランドセルを背負っていたんだろが!!」


「べーー!!」


 あたしは、航に向かって舌を出した。


「あんた、なんとか言えよ。妹だろ?」


 航は、エリーに抗議した。でも、エリーは、優雅に紅茶を飲みながらクスクスと笑っているだけだ。


「この子も一族の変わり者だから……航さんと気が合うのではないかしら?」


 エリーのクスクス笑いは、いつも嫌みを感じられない。いつも本音で言ってるのだ。


「さぁ、ジュースを飲んだら帰れよ!! こちとら朝の七時から営業してるんだ。六時には閉めるぜ」


「うそぉ~~ そんなに早くからコーヒーを飲みに来る人がいるの~?」


「翼は、もともと隣県の愛知から来てるんだ。そこはモーニングの有名どころなんだ」


「モーニングて、朝何かあるの?」


 翼が、カウンターの中から答えた。


「モーニング・サービスのことだよ。モーニングコーヒーに、トーストとゆで卵と簡単なサラダを付けたものをコーヒーの価格で出しているんだよ。朝早くに湖の近くをウォーキングしている常連さんが多くてね。朝は忙しいんだ」


「エリー、明日は朝に来よう!!」


「そうね」


 楽しみの増えた、あたしはその日は満足して、ジュースを飲みほすと、大きなゲップをして、


「また、明日くる~~!!」


 と言って、店を後にした。

 エリーは、お金を払って静かに二人に会釈していった。


「対照的な姉妹だな!!」


 呆れるように航が言うと、


「嬉しかっただろ? 航」


「何が!!」


「あんなに、この店のことを気に入ってくれた子がいるなんてな」


「変わり者だろ」


 と言いつつ、航も嫌な気はしていなかったと後で翼さんに聞いた。 

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