第4話  麗華の一目惚れ

 やがて、オレンジジュースと、アイスティーが運ばれてきた。

 運んで来たのは、以外にもカウンター席に座っていた男で、さっき、この店のマスターらしい人が「わたる」と呼んだ人物だ。


「ほら、今日はこれを飲んで早く帰れ。もう、店を閉める時間なんだぞ」


「御免なさい」


「今日は、仕方ないじゃん!! 何処にあるか分からなかったし!!」


 絵里香が素直に、謝るのに対し、麗華は、口を尖らせて文句を言う。


「何処のお嬢ちゃんだよ」


「奥浜名湖の山の家!!」


「国民宿舎があるあたりか?」


「違う山だと思いますけど……」


 わたるは、しばし考えたが、分からなかった。彼にとってもここが故郷という訳では無い。


「翼、分かるか?」


「航が分からないのに、僕が分かるかよ」


 カウンターの中のマスターは、とてもにこやかで愛想の良い人だった。


「絵里香ねえ、あの人たち、マスターが翼で、もう一人の人がわたるって言うんだね」


「そうね。麗華ったら、相変わらずなんにでも興味津々ね」


「だって~~!! こんなに眺めの良いところにカフェをやってるのにぜんぜん流行ってないみたいだもん」


 麗華は店の中をぐるっと見渡して、溜息をつく。


「もっと、流行りの明るい店に見えたんだけどなぁ~~」


「おい!! 聞こえてるぞ!! 勝手に店の終わる時間に転がり込んできて!! 聞きたいことがあるなら、堂々と聞け!! コソコソされるのは俺は一番嫌いだ!!」


「ピえ~~!! 絵里香ねえ~~」


「いつもの麗華はどうしたの?」


 絵里香が麗華に言う。


「あの~ もこのお店の関係者なの?」


 小学生にも見える麗華に呼び捨てをされて、航はカチンときた。


 航は麗華の頭をクシャクシャにして、


「航さんだろうが!! 自己紹介もしてねえガキに呼び捨てされるほど俺は落ちぶれてないんだよ!!」


 麗華は、自分の事を一人前に扱って怒ってくれる航に感動してしまった。


「ご、ゴメン!! あたしは三条麗華。こっちは姉の絵里香。航さんはこのお店の関係者ですか?」


「関係者っていうより、もともと航の実家だよ」


 カウンターの中から、グラスを拭いているマスターが言ってきた。


「翼!! 俺の実家って訳じゃあねえよ。お前の伯父貴の家だろ?」


、お前の家じゃん」


「二人の関係は?」


 堪えきれなくなって、麗華が口を挟んだ。


「義理の従兄弟かな? おない年だけど、僕は地元に残ってこの店をやってる。航は、東京の大学に行ってるんだ。今年三年生で、就活中。こっちに帰って来るか、東京で探すか、まだ迷ってるんだよな」


「翼!! 初対面のガキに、ベラベラと内輪のことを喋るな!!」


「どうやら、保護者付きだから、大丈夫でしょ」


「絵里香ねえは、18だぞ」


 その途端、翼はグラスを落とした。


 たおやかなお嬢様に見えた、絵里香は18歳より上に見えたのだった。

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