第3話  航と翼

「喫茶?」


「ふーーん、絵里香ねえ、入ろうよ」


 麗華が、引戸を開ける。

 カランカランと、扉に付けられていたベルがなる。


「いらっしゃいませ」


 低い男の人の声がした。

 麗華は、カウンターに座っていた目付きの悪い男と思いっきり目が合ってしまった。罰が悪くて、絵里香の後ろに隠れた。


「あと、一時間くらいで閉店ですけどコーヒーで良いですか?」


 カウンターの中にいる、茶髪で縁の無い眼鏡をかけた男が言ってくる。


「えっと、ジュース!! オレンジの!!」


「私は、アイスティーで。遅がけにごめんなさい。妹が電車の中から見たここへ来てみたがっていたの。探すのに手間取ってしまったの」


「カフェだとは思わなかったぞ~!!」


 麗華の「カフェ」という言葉に、カウンターの中と外の男は、顔を見合わせて大笑いだ。

 二人ともまだ若そうだ。20代前半だろう。


「なんか変なこと言った~?」


「カフェなんて、昨今の流行りの言い方だろ? ここは、昭和の終わり頃に建ったレトロな喫茶店さ。前店長の趣味丸出しのね」


 そう言って、カウンターの中の人は、店の中に絵里香と麗華を招き入れた。


 店の中の壁という壁に、棚が取り付けられ、ボトルシップが飾られていたのだ。

 麗華は、初めて見るボトルシップに心を奪われた。


「すこーい!! どうやって作るの?」


「物凄く、手先の器用なおじさんがいたんだよ。この店は初めてだね? だったら、この席が特等席だよ。湖に夕陽が沈むのが見えて、ボトルシップも見放題」


 麗華と絵里香は、カウンターから出てきた男に案内された席に座った。


「どこの駅から、この店が見えたって?」


 カウンターに座ってた目付きの悪い男が二人に喋りかけてきた。


 麗華は、どぎまぎして、


「あの、高台の駅!!」


 絵里香は、クスクスと笑う。


 目付きの悪い男は、カウンターの中の男と喋っていた。


「あ~ 駅の前に建っていた三階建てのアパートが取り壊されて、更地になったじゃん? あれで見通しが良くなったんだな」


「じゃあ、あの土地は、まだ買い手がついてないのか……」


「翼? やっと真面目に生きる気になったか?」


「航こそ、就活頑張れよ」


 二人は、とても仲が良いらしい。

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