第2話  喫茶ボトルシップ

 次の日の夕暮れ、七月の太陽は眩しいが、湖面を渡る風が高台までとどいて来て、三条家の別宅は地上よりも温度が涼しかったのは確かである。


「きゃーー!! 見て!! 絵里香ねえ、ここからでも湖が見えるんだね~!!」


「ここが、高台なんだから当たり前よ。麗華、昨日からはしゃぎ過ぎよ」


「だって~~ あの瑠璃子お義姉さんと、やっと離れられたのよ!!」


「気持ちは分かるけど……」


「だから、夏休みになったら直ぐに、絵里香ねえのところに来たんだよ」


「でもお兄様の、お嫁さんで私たちのお義姉様よ。悪く言ったらいけないわよ」


「でも、もと旧家出身のお嬢様だか知らないけど、あたしのことを大和撫子に育てるって息巻いてるの!! ニュージーランドのママに電話してるのを聞いちゃったのよ!! もう急いで家を出てきたわ!!」


 絵里香はクスリと笑う。

 三人兄妹だったが、それそれ年が離れていた。


 絵里香と麗華でも五歳違いだったが、兄の佳樹とはさらに10歳以上離れていた。


 佳樹は、父の会社を若くして継ぎ、同時に結婚をしたばかりだった。

 政略な意図はあったにせよ、兄は嫁の瑠璃子が気に入ったようだ。


 それまで、妹を溺愛してくれていたので麗華は少し寂しかった。


「そりゃ、三条家の末娘は、お父様がリタイヤした後に生まれたニュージーランド生まれの野生児だと、もっぱらの噂ですもの」


絵里香はクスクス笑う。


「人を珍獣扱いしないでよ!!」


「お嬢様、、羽織るものを持ってくださいませ」


「分かったわ、朝江さん。行きましょう、麗華」


 麗華は優雅に歩いて別宅のドアを出ていった。その後をピョンピョン飛び跳ねて、麗華がついて行った。

 同じ父母から生まれたとは思えない。


「それで? 何処なの? その変な建物って」


「う~~んと、ここから一駅前の湖の近く!!薄いグリーンで屋根が青いの」


「何屋さんかしら?」


「何だろね?」


 二人は、絵里香のワーゲンの白の「up!」で山を下り、湖の方に車を走らせらた。


 なかなか、目当ての建物を見つける事が出来ず、あきらめて帰ろうとした時に、その建物は二人の目の前にあらわれた。


 薄グリーンの木の壁に、青色の屋根。何処か不格好に見えるこの建物は何と、「喫茶店」だったのだ。


「ボトルシップ?」


「ボトルの中に作った帆船のことよ。余程手の器用な人でなければ作れないわ」


 麗華の問いに恵里香が答えた。

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