俺の幼馴染は、ただ魔術が得意なだけの女の子 (1〜3)

第35話

・・・




<勇者のそっくりさん、冒険者になる>

「はい、以上で終了となります。これであなたは初級冒険者です」

「ありがとう」


「……」

「……?」


「最後まで聞いていただき、ありがとうございます」

「うん?」

「いえ、あなた様のような実力者の場合、面倒だから講習はパスしろ、と仰られる人が多いものでして」

「ん、ああ……。まあ俺は出戻りみたいなものだし、、変わってることもあるかもしれないからこういうのはちゃんと受けておくべきだと思ったんだ」

「とても良い心がけです。……クエストの希望はありますか?」


「そうだな……人を探してるんだ。何か噂を集められるようなクエストがあるといいんだが」

「でしたら、隊商護衛などが最適でしょう。ですが今はその種のクエストはありません。もし新しく入りましたらお声かけさせていただきます」


「……いいのか? 隊商護衛って信頼が無いと無理なんだろ? 俺は初級だぞ?」

「ええ。あなた様は、魔術院と皇帝様からの推薦を受けている方ですので問題ありません。それに……この短時間のやり取りだけで個人的にもあなた様は信用できると考えました」

「なるほど……有難い話だ。じゃあ、その時はよろしく頼む」

「かしこまりました。では、それまでの間は他のクエストでもいかがでしょう? 例えば……農業ギルドへのお使いなどがございますが」

「うーん、とりあえずそれを受けておくか。しかし……初クエスト……記憶にあっても経験にない……不思議な気分だな……」


「……」

「……ん?」


「いえ。では、別室へどうぞ。クエストの説明をさせていただきます」

「? 了解、わかった」




(双子でしょうか……? でも、獣人……? 詮索してはいけませんが、複雑な事情がありそうですね……)


※複雑な事情ないです。






・・・






 あ、これは夢だな。と思うことってあるだろう。


 例えば不可能なことが出来たり、出来るはずのことが出来なかったり、とか。

 例えば自分は今の見た目なのに、周りが昔の見た目だった、とか。

 例えば崖から落ちたはずなのに気づいたら地面に立ってて助かった、とか。

 例えば怪我をしたのに傷が一瞬で治って痛みも感じなかった、とか。


 夢であればそういったことにも違和感を感じにくく、当たり前のようにその状況を受け入れたりしてるものだが。

 ふとした瞬間、違和感と共に、夢の中で夢から覚める、みたいなことが起こったりする。


 なら、果たしてこの光景は、現実なのか、夢なのか。






──お、いたいた。今日はなにやってたんだ?


「ん。よぉ、アル。えっとだな……、……、……ちょっとした玩具を作ってたんだよ。ほら」


──おぉーすっげぇ! なんかめっちゃ回る! すげぇ!



(あ、これは夢だな)






 目の前でを浮かべているのは、少年のような女の子。

 あいつの……幼い頃の姿。活発で溌剌として表情豊かだった、男の子みたいな少女の姿。


 そこに幼い俺もいてあいつと向かい合ってて、俺が二人いるみたいな状況になってる。


 この俺たちは……3歳か4歳くらいだろうか。

 なんだろう、昔の記憶か……? 正直ほとんど記憶にはないが……。


 場所は、あいつが小さい頃、研究室?と称して色々と運び込んでた村外れの森小屋。


 ていうか指の上で延々と回転し続ける謎のおもちゃにハシャぐ子供の俺……ガキすぎやしないか……?

 いや、実際にガキなんだが。というか同い年のはずのあいつが大人すぎるってだけな気もするんだが。



 ……地味だけど何気にすごいなこれ。

 どういう仕組みなんだろうか。今の俺が見てもちょっと気になる。





「まぁこんなのはどうでもいいんだ。失敗の副産物だし。……もっと効率的な開発方法を考えないとダメだな」


──えー、しっぱい? こんなすげーのに。


「もっと、ちゃんと凄いものじゃないとダメなんだよ。大人たちも納得せざるを得ないような、完全無欠の有意性というかなんていうか。もちろんその前に何個も段階を踏む必要はあるんだが……」


──ふーん……?


「あぁ……子供は素直でいいよな。大人はどうもしがらみに縛られてるというか。せっかくのチートなのにちょっと世知辛いんだわ……」





 ……これは夢だから、実際にあった会話なのかはわからない。

 昔からあいつは随分と大人びた子供だったように思うが、こんなにも小さな時から、こんなにも大人みたいな振る舞いだったのだろうか。


 そんな気もする。むしろ、小さい時の方が肩肘張って大人ぶっていたような、あいつはそういうやつだった。


 俺たちの村は田舎だからか若者が少なかったものの、俺たち以外にも子供はいた。

 でもあいつは……はっきり言って変なやつだったので、他の子供からも大人からも少し避けられていた。

 あいつに父親がいなくて、母親と一緒に村長の世話になってたっていう状況もあったせいでもあるのだろう。

 とにかく、あいつはいつも一人で、でもそれを気にしない様子で、村外れでずっとこそこそ何かをやっていた。


 誰もが不気味に思ってる、子供とも大人とも違うように見える、変わりものの女の子。

 俺は、この不思議な雰囲気のあいつが、気になって仕方なかったんだ。


 気になるし面白そうだから仲良くなりたい。できれば友達になりたい。

 そんな子供特有の勢いであいつのところに通い詰めて……多分すぐに友達になれたんだと思う。

 それから毎日のようにあいつとばかり遊んでて。


 おかげで俺たちはお互い他に友達らしい友達もいなくて、まるで家族かのように、いつも一緒にいたんだよな。





「なぁ、アル。将来の夢ってあるか?」


──ゆめ?


「大人になったら何になりたいとか、何をしたいとか、だな」


──なんだろ? わかんねーや。


「いや、なんかあるだろ。あれだったらいま叶えてやってもいいぞ? お前の願いを3つ言ってみろー、何でも叶えてしんぜよー、なんてな」


──えーっと、うーん……やりたいこと……ねがいかぁ……。じゃあ……、つよくなってマモノをやっつけたい。


「魔物?」


──だって村のみんな困ってんじゃん。オレがつよけりゃなーって思ってさ。


「うー、あー……魔物……確かに多い気もするが……流石にお前にやらせるのもなんだかなぁ。その願いは却下だ」


──えー、ケチ。なんでもじゃないのかよ。


「うっせ。どうせからお前が強くなる必要ないんだよ。他のにしろ」


──んー、じゃあこれからもあそんでくれよ。ほかにやりたいことなんかないし。クーといっしょにいれるならなんでもいーや。



「お……?」



──あと2つ……なにがいっかなぁ……うーん……まあいいや3つ分まとめてで、このねがいにしよ。だから、これからもいっしょにいよーぜ?



「お……、おぅ……、お安いご用、だ……?」



──やくそくだからな!





 これも記憶にはほとんど残ってない。

 小さい頃に何か約束があったような……気がしないでもなかったが……。


 いや、というかこの約束、何気にだいぶ小っ恥ずかしくないか……?

 ガキの頃の俺って、なんか凄いな……。



 村の魔物被害は、ある日を境にほとんどなくなった。その理由は間違いなく、あいつのおかげなんだろう。

 全くのゼロにしなかったのは、見回る大人たちに配慮したってことなのだろうか。それはわからないが。


 これくらいの時期には、あいつはもうとっくに魔術を覚えていて、こっそりと使ったりしてたんだと思う。

 その力を、俺と、村のために振るってた。きっとそうに違いない。


 学ぶ環境もなかったのに、どこで身につけたのかは全くわからない。

 流石のあいつも、あれほどの魔術をゼロから編み出したわけじゃないと思うんだが……。



 だけどもあいつは恐らく、魔術が使えることを大人に知られるべきじゃないと、ずっと前から勘づいていた。

 子供とも呼べないような幼い俺に対しても、わかるように直接見せることはなかった。


 唯一の例外と言えたのが、俺の身に危険が迫ったとき。例えば、エステルいわく遠隔空間転移で俺を救助したときなど。

 思えばあの時のあいつの表情は、焦燥感と安心感と後悔と葛藤が入り混じったような、複雑な表情をしていたような気がする。

 アホガキな当時の俺はあいつに"夢だ"と言われて、なんだ夢か?とアホみたいに納得してたんだが……流石に今の俺ならあれが紛れもない現実だったってわかる。





 それを、初めて人前で明確に使ったのは、俺たちが6歳の時。


 魔物……ワイバーンの大移動という災害から、たった一人の力で村を守ったとき。


 その選択が。その後のあいつの運命を、絶対的に決定づけた。

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