第34話
「試験の方向性を変えました。つまり即戦力に限らず将来性のある魔術師……エステルさんとまではいかずとも、成長を見込めるのであれば今の実力は重視しないという形ですね」
「……なるほど?」
要するに弟子が成功体験なわけだ。
入った当初の弟子は正直大したことなかったけど、今や技術だけなら上級冒険者顔負けの一流を超えた超一流レベル。
私から見たらまだまだだけど、人類の上澄みに片足を突っ込みかけてるといってもいい。
しかしそんな弟子も試験の成績的にはホントぎりっぎりだったわけだし、私が目をかけなかったら落ちてた可能性も大いにある。
だからこそ弟子みたいな金の卵を取り零さないようにってこと……いや、あんな異常な成長性を持った天然チートがそんないるわけねぇだろっていう話でもあるんだが。
……そもそもなんでそれが、私が試験を受けるって話になんのさ。
「一つに、貴女に受ける側の視点から試験の採点をしていただきたいということ」
「素の状態が見たいと。うーん、まぁよくあると言えばよくあるやつですけど」
「それと、試験自体に対しての改善もあれば見ていただきたいですね」
「新試験方式だというなら、まぁそれも理解」
「あと個人的に、貴女には常識的なレベルの魔術師ともっと関わっていただきたいとの判断もあります」
「誰が非常識ですか」
「はて、貴女が常識的だと……?」
「……」
いや、思わずノリでツッコんだものの、私が非常識なのは自覚あるし分かるんですがね。
なんだろう、この人に言われるとすごく腑に落ちない気持ちになる。
凡人のフリした狂人が常識を語らないでいただきたいのですがっ……。
「お忙しいところ申し訳ないのですが、どうかやっていただきたい。事務処理関係の代われる仕事は全て私が行いますので」
「やるやるやります」
え、マジで?
しばらく書類仕事から解放されるんですか! やったー!!
いや実際、この人の事務能力は異次元だから文字通り百人力……どころでは済まないかもしれないレベル。
研究開発(と、自分の趣味)にかまけてて地味にかなり書類溜めてるからマジでホント助かるんですわ……。
ああこれ……見たくも触れたくもないけど期日前に試作の時間遅延術式使ってでも追い込み掛けなきゃかなぁ……って思ってんだよ……。
大量の書類、ソルがここ出てく前に駄目な子を見るような目をしながら分類整理してくれてるから、これそのまま渡すだけで済むし!
サンキューソル! フォーエバーソル! 仕事のできる男は素敵だぞ! その調子でアルも早めに見つけてくれなっ!
あ、そういえばあれも、そろそろ冒険者ギルドで初クエストとかしてる頃かな?
活動資金も有り余ってるポケットマネーから渡してるけど、情報収集もしなきゃだし。
もしギルドに情報があったとしても個人的なことは教えてくれないから、冒険者への聞き込みなんかが頼りだよね。
冒険者ギルドって信用に関わることに関してはホント融通が利かないからねぇ。
……うん。そう。
たとえギルド内に核心的な情報があったとしても……流石の私も、そこまで後ろめたい方法で情報を引き出そうとまでは考えてないんだ。
それこそ、やろうと思えばギルドのセキュリティを全部素通りして個人情報を引き出すことも可能だけど。そもそも近年のセキュリティ技術は全部私製だし。
でもそれは重大すぎる犯罪だし、どんな事情があったって、いくらなんでも許されない。そんなことしてしまったら皇帝様にもあいつにも、顔向けできなくなっちゃう。
……え? 使い魔くんは後ろめたくないのかだって?
いや、でもあれは、見守り用途だし……純度百パーセントの好意と善意だし……?
あいつに何かあった時の保険的なものであって、決して享楽のためじゃない……はずだから……。
プライバシーも、で、できるだけ……見ないようにしてたし……。
壊されてからの捜索活動とかも見守り継続のために仕方なく……そう、仕方なく……。
……なんかソルが生まれたおかげで、一周まわって健全な方法に戻った気がする。
いや、冷静に考えたらこれまでの私ってかなりやばいストーカーだったのでは?(何を今更)
まぁあいつには本性がバレても大丈夫だろうって確信はあるけど、正直見せたくない部分ではあるよね……。
あれがあいつと会えた時、ほんとできれば余計なこと、言わないでほしいところ。切に。
ああ、あいつ今、なにやってんのかなぁ……。
「それに貴女は一般にあまり顔を知られてませんからね。貴女が外で活動される際は主に超過サイズのフードを被ったローブ姿ですから、恐らく気付かれないでしょう」
ん……。確かに私は、魔術院の人間として外の部外者と会うときは基本的に本気ローブを着ている。
まぁ外出る機会自体がそんなにないんだけど、式典の時とかの公の場では本気ローブだから人と会うならその姿の方が何かと都合が良かったりするのだ。
こないだのカジュアル遠征は侍女兼護衛ってスタイルだったからローブ不要だったってだけで。
その後の懲らしめターンではガッツリローブ姿で威圧しましたけど。
そう言われてみればあんまり意識してなかったけど、確かに私の素顔って帝国ではあんまり知られてない気がするな。
世間一般に知られているイメージとしてクー・ド・ヴァン・デュ・シエルという魔術師は、ぶっかぶかのローブに滅茶苦茶魔力線を走らせて浮遊しながら周りを威圧してる、みたいな感じになってそう。
それ以前の帝国冒険者時代とかは単なるクーでしかなかったし、そもそもその時代もローブ姿だ。
流石に四六時中じゃなかったと思うけど……あの頃は結構人見知りしてたから大体着てた。あいつのローブ着てると落ち着くし。実は今でも寝るときとか、無駄に着てたりする。
だからその中身がこんな美少女だと知っているのは、皇帝様と魔術大臣さんを除けば魔術院の人たちくらいかもしれない。
たしか最初で最後の試験官の時もローブ着てたから素顔は出してなかった、かも。あの時の弟子がビビってたのはそういう意味もあったのかもなぁ。
それ以降の新人なんかが私を見てマウントを取ろうとしてきたのも、単に別人の女魔術師だと思われてただけってことなのかもしれない。
だとしたら、いい度胸してんなおい……って全力でわからせをしたのは可愛そうだったかもしれないな。
その結果が、私の研究室には弟子しか残ってないという現状。盛大な自業自得でしたね……。
ま、まぁ。そんなわけで、素顔を晒して人前で魔術師として振る舞うのは相当久しぶりなのかもしれない。
……なんだかドッキリの仕掛け人みたいでちょっとワクワクするね。
「そういうわけで、宜しくお願いします」
「了解。書類の件、こちらこそ是非よろしくお願いします」
「言うまでもないことですが、新人候補生なのですから、やりすぎないように」
「……善処します」
信用ないなぁ……。
「……」
「……?」
「先に謝罪します。ですが……致命的なことがない限り、どうか必ず、その場では様子を見て下さい」
「了解……?」
なんか脅されてるみたいで怖いけど。
まぁ、まぁ、ちょっとした息抜き気分でやってみましょうかね。
・・・
<教国教会での密談回想>
「魔術を修めた……魔族?」
「そうそう。最近の魔族は魔術を覚えていたりする。苦し紛れの言い訳のように使う稚拙なものじゃなく、ちゃんとした魔術を、ね」
「魔族が、魔族の魔法ではなく人間の魔術を……人類を見下す自称上位存在たる魔族が、ですか……?」
「うん。つまりそれって負けを認めたってことなんじゃないかな。何百年もかけて研鑽してきた魔族の汎用魔法技術を、人間の魔術が超えた。勝てないと思わせた。だからプライドを捨てて学び始めた」
「最近……。帝国の魔神さんの、影響でしょうか」
「たぶんね。勇者の聖剣でもなく聖女の奇跡でもなく、魔神の魔術が魔族という種族……魔王に負けを認めさせたってこと。……ちょっと悔しいけどね」
「……」
「でもそれで少し困ったことになるんだよね。元々魔術師は魔族容疑が掛かりやすいんだけどさぁ……」
「魔術師の魔術と魔族の魔法は似ていても違う。……専門家以外では違いが分からない方も多くおられるのですが、私どもにとっては大きな頼みの綱。自白に等しい判断材料」
「魔族の魔法を使う魔術師は存在しないからね。強力無比で千差万別だから使われると困るけど、使ってもらえたら一発で魔族判定できる」
「それが今後は、たとえ追い詰めても使われない可能性があり得る。代わりに……魔術師と同じく強力な魔術を……」
「うーん、それってだいぶやばいよね。絶対、いずれ不味いことになる」
「……魔術師狩りの再来」
「まぁ、まだ当分は大丈夫だろうけどね。あまり知られていない情報だし」
「……だから貴女はここに」
「そう。ここは結構保守的で過激な宗派だからね。今の教国は聖女を有しないから戦力は法国よりだいぶ下、だけど影響力はあるから変に動かれると困るんだ」
「この秘密会談も、情報を絞る為、ですか」
「魔族が魔術を使う噂はここの上層部の一部にもある。今の段階でそれと、"街に魔族がいるという情報"とくっ付けさせるわけにはいけないんだよね。勝手に暴走されちゃ堪ったもんじゃない」
「……」
「てなわけで、僕はここの動きを抑えるために動けない。事後処理はこっちで何とかやるから、頑張って秘密裡に対処してね。抜け駆けのアリアさん?」
「……やはり私は貴女のこと、苦手です。横取りのテッラさん」
・・・
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