18歳、魔術師です。特技は魔術開発です。 (1〜3)

第32話

・・・



 冒険者、とは何か。


 まぁ現代的に身も蓋も無い言い方をしてしまえば、業務請負契約の派遣便利屋である。


 冒険者ギルドを含むギルドというものは、ざっくりいうと主に、生産系、商業系、戦闘系、情報系、探索系などに分類される。

 実際には更に細分化されてたりして大体の職業はカバーしており、仕事をしている人は大抵どれかのギルドに所属している。


 つまりギルドとは職業組合といっていい。

 それぞれの専門家が集まり、資金や技術的な面などでギルドのサポートを受けたりしながら仕事をしてたりする。


 で、冒険者ってどういう職業かというと、主に戦闘系と探索系の仕事をする人たちのこと。

 文字通り、危険を冒して日銭を得るってことが本来の仕事になる。

 そういう人が集まるのが、冒険者ギルドになるわけ。


 だけど冒険者ギルド自体は実のところ、情報系のギルドになっている。 

 要は色々な依頼主から依頼を受けて、色々調整や精査をした上で冒険者にクエストを発行する、仲介業者って感じだ。


 冒険者の登録をすると、主に行うクエストの分類に合わせて、その専門ギルドへの登録も自動で行われる。その辺は一応最初にちゃんと説明もある。

 例えば討伐系のクエストをメインにする人は、狩猟ギルドも掛け持ちしてるってことになる感じ。

 そうすることで、狩猟ギルドからのサポートを冒険者ギルドを通じて受けることができるのだ。

 依頼の報告、納品、報酬支払いなんかも冒険者ギルドが全部代理で行なってくれる。


 他も同様。なので根を張って固定の仕事をしている人以外は専門ギルドに行く必要がほぼなく、冒険者ギルドで事足りるといっていい。

 むしろそっちの方が煩わしい手間も少ないので、行商人や加工職人さんなんかにも冒険者ギルドに所属してるって人は多かったりする。

 まあ当然のごとく手数料は取られるけど、それは必要経費ってやつだし。


 そもそも、元々冒険者とは一般人ができない危険な仕事を代わりにするような仕事だった。

 それがいつの間にかクエストの種類や依頼人の数が増え、冒険者ギルドは今では危険度とか関係なく大体何でも請け負う総合ギルドみたいになってる。

 そしてそこを利用する冒険者も、いつの間にか色んな種類の依頼を請け負う何でも屋みたいになったってわけだ。


 そんな冒険者ギルドに集まるクエスト依頼は本当に千差万別。

 従来のような危険な討伐や探索依頼もあれば、ただひたすらにめんどくさい採集依頼や、これって単なる子供のお使いでは……?みたいな納品依頼もある。

 報酬さえ用意できるなら一般人であっても依頼を出せるので、むしろ雑用的な依頼は案外多い。

 そういう安全なクエストも初級の冒険者なんかには飯の種として非常に有難い存在だったりして、ある意味なくてはならないし、初心者以外にも息抜きで受ける人だっている。

 依頼主は面倒が減って助かる。冒険者は危険を冒さずとも比較的楽な仕事ができる。つまりウィンウィンってやつ。需要があるが故に必要なものなのだ。


 だからそう。個人的な欲求のためのお使いクエストを出すのだって何ら問題はないということ。







 そうですここまで壮大な言い訳です。私は悪くない。



「流石に菓子の納品依頼を魔術院名義で出すのは、いかがなものかと?」



 はい。バレました。そして苦言を賜っております。

 大体さぁ、匿名希望だったのに何で私ってバレてんだよ。

 冒険者ギルドよ、情報漏洩か? あん?


 私の目の前にいるのは一応、名目上の上司である帝国魔術院長。

 見た目は普通の冴えないおっさんだけど中身が激ヤバな、間違いなく人類の上澄みである狂人。

 決して嫌いではないんだけど、ぶっちゃけ個人的にはちょっと苦手。


 でも私の表情は(表向き)涼しいものである。

 分割思考の私ちゃんズが、灰色の脳みそを使って言い訳を考えてくれているからだ。


 さあ反撃だぞ。突きつけろ、くらえっ!



「素材です」

「菓子が、ですか?」

「錬金素材です」

「……」


「……」

「……」


「私の活力となった結果新たなものが生み出されるのであればそれはある意味もう立派な錬成反応といってもいいのでは?」(早口)

「……」




 ……。


 く、苦しい……か?


 というか正直、今の発言は敗北宣言に近いのだが本当に大丈夫なのか脳内の私たちよ……。

 ぶっちゃけお菓子自体は素材じゃありませんが何か?って言ったも同然だし、もはやただの開き直りでは……。

 大体、論点からして魔術院の権威的によろしくないって話な気がしないでもないし……。



「ふむ……。まぁ、まぁ、貴女の生産性に寄与するのであれば良しとしましょう」



 なんか勝ったわ。

 よし、さすが私だ。褒めて遣わす。


 ……。


 いや何ですかその目。やめてください。私が可哀想な子みたいじゃないですか。

 相変わらず院長はクソ真面目ですね。糖分が足りてないんじゃないですか?


「……食べますか? お茶も入れますよ?」

「いえ、いえ、結構です」


 とりあえずお茶菓子でも用意しようと思ったら即答で断られた件。かなしい。

 いや多分、仕事の話をしにきててお茶しばきに来てるわけじゃないんだろうってのはわかるけどさ。


 自分で言うのもなんだけど、私みたいな美少女とのお茶会を普通断るか?

 フルオープンスケベな副院長だったら絶対食いついてたぞ?


 まぁあの人エロ親父な竿役オーラがあるんで正直あんまり長い時間同じ空間には居たくないんですが。

 お菓子とかなんかよりも私に食いついてきそうなにちょにちょした顔してこられると、ちょっとね。割とキモい。(暴言)

 あと直接的なセクハラはないけど、ちょいちょいまぁまぁ下品な下ネタぶっ込んでくるし。別に私は元男だからそこまで気にしないけど。


 多分今回の話だったら、"食べた物が君の身体の中で別のものに変わると。確かにそれは興味深い生体的錬成だねぇ……?"とか上から下に舐めるように見ながら言ってくるんじゃないかな。勝手に想像しといてなんだけどキモいね。

 そしてそんな副院長的下品な想像を嬉々としてお出ししてきやがった分割思考のサブ私ちゃん、お前はボッシュートです。反省しなさい。



 そうだよもう、大体さぁ、私そんなこと言わないし?

 私ってもっとこう、清らかで奥ゆかしい、ヤマトでナデシコな魔女さんなのだか──(たぶん色々違う)(宇宙戦艦かな?)(しょっちゅう妄想してる下品で汚れキャラな元男が何か言ってる)(キモさはぶっちゃけどっこいどっこい)──おい自爆的な自虐やめろ脳内の私ども!!

 まあ確かにさっきも一瞬、妄想であいつに食べてもらげふんげふん……やっぱなんでもないです。



 しかし実際、私の化け物みたいな実態を知ってるくせに平気でそんなふうに際どい軽口叩ける副院長ってほんと凄いよね。そこに痺れたり憧れたりはしないけどさ。

 実績的にも皇帝様や院長と一緒に魔術院を立て直した結構凄い人なのに……ああ自分の性癖に正直でさえなければ……。


 ちなみに私の弟子はその辺割と厳しいので、女好きの副院長もあまり絡みに行ったりはしてない様子。

 下ネタ言うとゴミを見るような目で見つめられるよ。怖いね。(n敗)


 そういうところに関して、院長はそういう気配が一ミリも無いから弟子の中ではポイントが高いみたいよ。なんかたまに二人で魔術談義してたりするのも見るし。

 いや弟子って本格的に魔術を習い始めてまだ3年くらいなんだけどな……いつの間にか帝国魔術院長と本格的な話ができるようになってて少し怖かったんだが……。


 あと弟子よ、質問があるなら私にしなさいね。院長も律儀に教えなくていいですよ。

 まだ弟子は私の弟子なんですから、あんまり私の師匠仕事を取ると拗ねますぞ? 


 ああ……ほんと、どうしよう…。

 もしも弟子に、院長の方が優しい!あの人よりもずっとすごいのぉ!素敵っ!とか思われてたら……。




 やだ……つらい……これが……寝取られ……?(違う)




 ……なんか勝手に脳破壊されかけてしまった。

 だから寝取られは私の性癖じゃないんだっていってるでしょうに。

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