第27話



「俺の……名前……?」



 そうだよ、ソル。

 お前はもう、名無しの人形じゃない。


 ちなみにこの名前は皇帝様のネーミングです。意味は知らん。

 ご機嫌ハッピーエンペラー状態のあの人がノリノリで付けてくれたので有難く頂戴した。

 いや、見た目はあんま変化ないけどほんと過去一番レベルで機嫌が良かったな。結局なんだったんだ……?


 それにまあ、私にネーミングセンスは無いのでちょうどよかったというか……うん、自覚あるよ……。



「そして、明日からお前は帝国の冒険者、ソルとなる」

「……」

「お前の任務は冒険者活動をしつつ、アルを探すこと」

「本物、を……」


「ん。まぁお前はもう偽物じゃないけどね。アルとは別の存在になったわけだし」



 じゃあ顔も変えろよって話だけど、いいだろ別に……この顔を名残惜しんでも……。

 別人と言い張れるパーツが揃ってるんだから問題ないっしょ。他人の空似ってやつよ。


 んで、アル探索はこいつに任せる。いや、同時並行で使い魔くんも飛ばすけど。

 聖剣の不干渉フィールドにこいつがどう作用するかは未知数だけど、前の使い魔くんが途中まで近づけたこと、そして弾かれるタイミングにムラがあるってことは……自動的ではなく、選択的に行われている。

 つまり、あいつに魔力干渉を行うのは危険だが、直接干渉を試みない限りは問題ない。


 であれば地道に探すしかないだろう。こいつの目視が頼りだ。

 こいつと私のパスはダイレクトに繋がってないから、見るだけならおそらく察知されることはない。

 普通の人間のように、見たものを記憶領域に格納するだけ。なら問題になり得るはずがないんだ。

 だってそれは、人間……通常の生き物と同じプロセスなのだから。


 そうじゃなければ魔力でものを見ているタイプの種族なんかはあいつを見た瞬間失明することになってしまう。

 でもそんな怪事件、今のところ全く噂にも聞かない。であるなら大丈夫だろう。おそらく……敵対さえしなければ。


 世界中を見て回るのは不可能だが、自発的に情報収集をしてもらいながら、少しずつ近づいていってもらう。

 人探しには、そういった噂話を辿る方向の方がやりやすいのかもしれないし、ね。




 とまぁ……。

 色々理論武装したけど結局のところ、私はこいつを道具として見れなくなってしまったというのが一番大きな理由なんだけど。


 いつの間にか一つの個として。

 あいつに限りなく近い……あいつの偽物である、人間として。


 そういうことに気付いてしまったら、偽物のままでいさせることが少し不憫になってしまったんだ。

 農業ギルドの件も、そういう気持ちに拍車をかけさせた、のかもしれない。


 いやはや……私も人のこと言えないじゃないか。

 感情移入し過ぎだよ。



 だけど、私は悲劇の結末なんか認めない。

 だから、私にとってもお前にとっても、一番いい方法を考えたんだ。


 そしてあの子とあの人たちの物語も悲劇にはしない。そこら辺も同様に、許可を取った。

 どうせお前たちの技術は秘匿対象の一点ものなのだから。

 量産なんかされないユニークである存在なのだから、特別扱いしても別にいいでしょ?



 そんなわけだよ。

 お前たちには、ぜひとも……頑張っていただきたいね。



「俺だけの、俺……そうか……」


「そうだよ。ハッピーバースデー、ソル。なんてね」




「そうか……そうか……! ああ、ありがとうっ!!」

「ひぇっ!?」




 ああああ! ちょ! 力強い!

 いま身体強化切ってるから折れる! 身体壊れちゃうっ!


 あっ、あっ!


 あ、でも、すこし、なんか、いいかも、きもちよ、



「っ! 悪い、大丈夫か!?」

「えへ、えへぇ……。……、……危ないとこだった」



 ……いろんな意味で。


 いやぁ、あいつと村で再会した時の抱擁はすごく優しかったからなぁ。

 あれはあれでよかったけど、なんかこう、こういうのもギャップがあっていいよね……。

 アルとは別の存在になったとはいえ、アルの顔と仕草でこういうことされると、うん。

 あいつもこんな風にやってくれたりしないかなぁ……。


(キモ……)


 おい自己批判やめろサブ私。お前にも刺さるぞ。

 あとメインからのフィードバックをモロに食らったいくつかのサブ私が息をしてない件。

 いやはや仕方ないね。おかしいやつを亡くしたよ……全部私なんだが。

 こいつら当分仕事できそうにないから統合して回収しなきゃ。



「それじゃ、明日から頑張ってね」

「ああ……任せろ……!」


「あー……そうそう、プレゼントも用意してるんだ。ちょっと待ってて」



 こいつを冒険者として活動させるなら、戦力増強は必須だ。

 せめて1~2ドラゴンくらいの強さは欲しい。



「ほい、魔剣。銘はレーヴァテインだよ」

「……もらっても……いいのか? こんな凄まじい剣」


「もちろん。えっとね、これには炎熱系の術式がいっぱい入ってるけど最初からは使えない。基本は身体強化が発動するだけで、使い込むと段階的に解放される。……こういうの好きでしょ?」


「なるほど、わかった。マスター……ありがとうな!」



 ふふふ、めっちゃワクワクしてるねぇ。喜んでもらえて私も内心ニッコリだよ。

 あいつは魔術を使えないから、こいつも魔術を使えない。でもこれならオールレンジで対応できる。

 それに術者保護の術式もついてるから、絶対的なピンチには早々陥ることはないはずだ。


 さぁて、要件も済んだし気分的なリフレッシュもできたし、私は仕事に戻……。



「……」

「……」

「……」

「……」


「……えっと、あっちの拡張空間で試し切り、してきていいよ」

「よし、早速色々試してくる!」



 アル人形……ソルがプライベートルームの術式実験用拡張空間へと駆け出し消えていく。


 おいおい、お前は待てをする犬かよと。ついてるのは猫耳だけどさ。

 なんかこういうところは、やっぱりあいつっぽくて再現度が高い。

 でも……やっぱり少し、違う。



 それはきっと、私の知らないあいつの一面がまだまだあったということ。


 あれほど観察して、あれほど理解しようとして、それでもまだまだ足りない。

 もしかしたら一生かかっても……知ることはできないのかもしれない、けれど。


 私が知りたくて、でも決して届かない、未知。


 もっと知りたい、もっと、深く、もっと、もっと。





 ああ……あいつ今、何やってるんだろうな。









・・・




<聖剣ちゃん>

「そういえば最近の干渉大人しい気がする。主のこと諦めたんかな?」




・・・

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