第26話






 と、いうわけで。



「私、お前、改造する」

「わけわからんが急だな……」



 魔女さんinプライベートルーム。アル人形を添えて。


 あのあと皇帝様とは適当にお茶しながらお菓子をつまんで、適当にちょろちょろ打ち合わせしてお帰りいただいた。

 ていうか本来そっちが本題だったはずでは……まあいいか。


 あと残ったお菓子は私が全部(お腹の中に)片付けました。いつも結構残るんだよね。



「……って、いやちょっとやめてよ。その、"そうか、俺にも遂に死ぬ日が来たのか"みたいな顔」

「違うのか?」

「違うに決まってんでしょうが! ほぼ外装変更のみだよ!」



 どんだけ苦労して作ったと思ってんだ。愛着湧きまくりなんだが?

 こいつが壊れたら1ヶ月くらいは死ぬほど凹む自信あるぞ。

 そうなっても思考分割して仕事続けるんだろうけど。


 まぁ、改造といっても大した手間ではない。

 パパッと術式を行使して、アル人形の見た目を少しだけ変える。



「うーん、これでいいかな」

「……どうなったんだ?」

「ほら、こんな感じ」



 虚空から鏡を取り出して見せてやる。

 そこに写っているのは、白髪になったアルの顔。頭に猫耳付き。



 はい。猫耳付き。です。



 そうです。私の趣味です。悪いか。



(……)


 ……おい。わざわざメインの私の思考に侵食してきたならなんか言えよサブの私。

 何もないなら戻って仕事してろ。


 それに、別に悪くないだろこれ。

 有り寄りの有りだろ。ベリーいまそかりだろ?(意味不明)



「……獣人の耳?」

「聴覚センサーになってる。聴力が上がってるよ」

「へぇ、なるほどな」



 ぶっちゃけ聴力機能の向上で猫耳をつける必然性は皆無なんだけどな!

 そこらへん何にも疑問に思ってない様子のアル人形くん。かわいいね。


 猫耳がくるくるぴこぴこ動く。私がそれを目で追う。

 思わず手を伸ばして触れてしまう。ピクッとなる。

 もふもふ。もふもふ。



 ああ、なんだこの気持ちは……。



「おい、ちょっと……そろそろ離れ」

「ふもっふ」


「マスター?」

「ふんもっふ……!」



 いやぁ、素晴らしいとは思わんかね……って、あ、待って。

 アルの顔でその、ちょっと冷たい目は、なんか来そう。


(ダメだこいつ)


 あん? ダメだが? ダメで何か問題でも?

 私は私のキモさを自覚しているので無敵だが?

 あと何時までも思考の片隅に居座ってないで早く仕事に戻れ?



「にゃんだふる……」

「これは、偽物ならではの役得というべきか……」

「あぇ? なんか言った?」

「何でもない。というか良かったのかこれ。だいぶ本物から離れたぞ?」

「んー……まぁいいよ。同一人物のままだと困るし」


「困る?」



 そう、困るのだ。

 丸っきりアルの姿そのものでは問題が起こりかねない。



 こいつには、





「冒険、したいでしょ?」





「……!」

「アルに限りなく近いから、別に私の相手を嫌だとは思ってない……とは思いたいけど、外も見たいと思考してるはずだよ」

「いや、俺は……マスターが作った、マスターのものだ。今の立場に不満は無い」



「っ……」



「私を誰だと思ってるんだ。舐めてるのか。





 私だってあいつのことが全部わかるわけじゃない。

 だけど、こいつのことは別だ。だってこいつを作ったのは、私だから。

 これはあいつのコピーだが、あいつから直接記憶と思考を写したわけじゃない。

 全て私の中から抽出された記憶と思考。それに基づいて肉付けされた存在。


 何もかも私から生まれたのだから、分からないわけがないでしょう。


 それに……あいつが商人ではなく冒険者になったように。

 こいつにも広い世界を知りたいという気持ち、思いが、必ずあるはず。


 だって私があいつのことを……そう理解し、定義しているのだから。


 ……まぁ、こいつの自己学習機能は術式書き換えの権限もあるから、最早中身は術式再展開をして解析しない限り私にも半分ブラックボックス状態なんだけどね。

 でもそこまで逸脱はしてないでしょ。たぶん。そんなブレブレな人間じゃないんで、あいつは。



「……」


「あーもう、じゃあ命令。"好きなことをしろ"」


「……。俺はマスターのこと、好きだぞ」

「おっふ……」



 お前その顔でそれはちょっとさぁ……。


 いやまてまて、耐えろ。今は真面目なターンだ。

 落ち着けー、落ち着け。……ヨシ!



「でも、外にも出たい、でしょ」

「……」

「……」


「……、否定はできない、な」

「いいよ、出ても。許可は取ったから。仕事は与えるけどね」



 それに、少し前から考えていたこと。

 こいつを私の趣味嗜好的な感じの用途で閉じ込め続けておくのは……あまりにも勿体無い。

 じゃあどういう使い道が一番、こいつを有効活用できるのか。


 奇しくもその時、私は例のアレのために、完全自立の使い魔くんを開発しようとしてた。

 で、途中まで着手してて……ふと気づいた。



 じゃないか。完全自立で、使い魔になり得るやつ。



 ってなわけで私はこいつを、自分で考え、自分で行動する使い魔くん的な扱いにすることに決めたのだ。ちょっとこう……寂しい思いはあるけど、ここを巣立ってもらおうと。

 そうなると、完全に人間の見た目のこいつが活動するにはそれにふさわしい身分が必要だろう。存在しない人間として活動するのは色々面倒の元となるからね。

 それに最初は隠れて活動させる運用も考えてみたけど、表立って人間として動けた方が色々と都合の良いことも多いはずでしょう。


 皇帝様にお願いしたことは、そういった存在をゴーレムではなく人間として活動させてもいいかどうか……そして諸々の手続きの許可。市民記録の作成、ギルド登録のための根回し、えとせとら。

 この件は即行で快諾されたよ。面白い試みだってね。むしろなんかめっちゃ食いつかれたけど、また無茶振りに繋がるんやろか……?


 上から下までやばい技術の塊であるこいつは当然秘匿指定、どころか秘匿技術である擬似人格ゴーレムの完全上位互換なので禁忌になる可能性もある。

 でも放出しても解析できる存在が私以外にいるとも思えないし、そもそも完成度が高すぎてゴーレムだと思われることすらまず無いだろう。


 ほんと苦労したからなぁ……マジで全てを注ぎ込んだ最高傑作なんだから。

 戦闘力は本物準拠だからそんな大したことないけどね。



「本当に……いいのか……?」


「うん。名前もつけてあげる。外で活動する時に"アル"って名前は使えないから」


「……名、前?」





「そう。今からお前は "ソル" だよ。"ソル・フィデル" と名乗るといい」

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