助けてっ!脳内の私ちゃんが息をしてないのっっ!(スヤァ) (1〜4)
第24話
・・・
未知という名の恐怖。
未知に対する好奇心。
この二つの感情はしばしば両立してしまい、たびたび激しい後悔をもたらすものだけど。
未知を既知に変えてしまう時の感覚には非常に強い中毒性がある。快感と言ってもいい。
以前はできなかったこと。やりたくてもやれなかったこと。望んでも不可能だったこと。
それが今はできてしまう。許されるかどうかは別として、やろうと思えば可能。
何もかもできるし、やれるし、可能。それは正真正銘の
それを振るう誘惑は何度も形を変えて私を襲ってきた。
幼少時代。幽閉時代。二人旅時代。そして今。
新たな法則の発見。新たな技術の発見。新たな活用の発見。
そして生まれる成果の結晶。それは世界を具現化する創造。
まぁ……昔と今は方向性がだいぶ違うけど。
それでもここ最近、ちょっと衝動的にやりすぎたかなと反省してるのだ。
そうです、反省はしてるんですよ。
でも後悔が先に立たないように、反省も先にはできない。
今更それをどうこう言っても、結局もうどうにもできないんです。
だって過去を変えることなんかできないのだから。
そんな魔術、私にだって使えないから。
……いやまぁ、時間遅延術式はいい感じになってきた気がするし、このまま発展させていけばもしかしたらって感触はある。
でも時間軸の原点、現在時の壁を貫くのは魔術チートをもってしてもまだかなり難しそう。停止は実現可能な目処が立ってるけどなぁ。
なんか魔力って何でもありなように見えて、変なとこで融通効かしてくれないよね……。
と、そんな余談はさておき。
私は今、過去の自分のやらかしの尻拭いを、必死に考えているところなのだ。
その時はままえやろと軽く考えてたことが結構な事になって困っているところなのだ。
できればなんとかうまい具合に解決できないかと、頑張って考えているところなのだ……。
ああそうそう。
話は変わるけど、帝国には新聞というものが存在する。ファンタジー世界だとあんまそういうの聞かないよね。
と言っても市民の識字率は平均で精々6割程度なのでどちらかというと特権階級向けの情報を多めに扱っているものになるけど。
識字率に関していえば帝都だと教育レベルが高いから8、9割くらいになるだろうか。でも郊外になるとやっぱり文字が読めないって人はそこそこいる。
今の皇帝様は市民教育にも力を入れているので段々とレベルも上がってるらしいけど、まあこういうのは時間がかかるものなので長い目で見ないとね。
手っ取り早く『知識転写』の術式を使って言語知識の強制インストールをするって方法も提案したことあるけど、爆速で否決されたし。そして禁忌指定にもなりました。せっかく術式作ったのに……!
あと新聞はお金があれば普通に誰でも買えるよ。前世的な感覚だとかなり高いけど弟子の家とかも購読しているらしい。
各ギルドなんかにも備え付けで置いてあるけど、冒険者ギルドとかの冒険者は文字がわからない人も多い気がするのであれはどっちかというと職員向けな気がしないでもないかな。
その昔、というか先代皇帝の時代までは言論の自由イコール体制批判の機会だと認識されていたので、権力者側がメディアの権限をガチガチに握っていた。
でも今の皇帝様はその辺りを市民に段階的に解放しており、この国、特に帝都では比較的自由な発言が許されている雰囲気がある。
皇帝様はこの他にも色々な権利を下々の人たちに与えていってるので、独裁者なのに市民人気は結構高かったりするのだ。
その反面、大半の貴族からはバチクソに嫌われてるんだけどね。既得権益も潰しまくってるし、まぁそりゃそう。
好感を持ってる極少数の貴族様の方が頭おかしい気がしないでもない。嬉しい話ではあるけどね。
それに嫌われてるといっても皇帝様は敵に容赦ないから表立っての敵対はしてないし、いざとなったら私が出張るので問題はない。
というかそういう根性のあるタカ派の貴族は多分もういないし。
そんなこんななわけで新聞を読む市民もそこまで珍しくなくなったし、今の新聞は昔より市民的なことも書いてある。
帝都の中央広場では文字が読めない人たちのための読み聞かせなんかもやってたりして、ちょっとした娯楽の一つになってるってわけ。
そう……なので、何かあるとちょっとしたニュースとして……上から下までたちまち巷の噂になったりするんです。
そういう、わけでしてね……。
"<農業ギルドで話題の新人、アグリさんへの質問>"
"冒険者顔負けの働きを見せる女性ギルド員が農家の間で話題になっている"
"この女性は冒険者の間にも噂が広まっており──"
どうしてこうなった……?
いやいや、別に私の仕事がなんらかの噂になることは珍しくない。けどこれはちょっと話が違う。
見出しを見ただけで頭を抱えたくなったんだけど……あの……なんで汎用農作業ゴーレムが普通に一般ギルド員みたいになってんの……?
まぁ確かに見た目だいぶ人間だけど、それでもよくよく見ると割とメカニカルよ? なんで当たり前のようにそのポジションが受け入れられてんの? 農業ギルドの人たち頭大丈夫か?
そりゃ使ってもらう以上愛着を持ってほしいなぁと外装には(深夜的テンションで)こだわりましたがね……。
これってあれよ? 普通の人の中に獣人が混ざるのとかとは全く別次元の話よ?
そもそもギルドって結構採用基準難しいじゃん……? そこにゴーレムが人間面して所属するのは色々と問題なのでは……?
それに、記事の中にゴーレムのゴの字も出てこない。普通の人間みたいに扱われている。
いや流石にちょっと色々まずいんだが……。
「面白い記事だろう」
ニヤリと笑う皇帝様。いや何わろてんねん。ご機嫌ですね。私はちょっぴり不機嫌です。
今日は進行中案件の打ち合わせの予定なのでティータイムセットは控えめ。
ちょっと机の上が(お菓子類的な意味で)少し寂しいが今日はこれ自体が仕事なので……
(つまめるお菓子が無いとは言っていない)
で、私の研究室は新聞を取ってないので、この人が面白くないこの情報を颯爽と持ってきてくれたわけだ。
まぁ一応エントランスまで行けば院で取ってる新聞があるけど、いちいち研究室の外に出るのもめんどいから私は普段あまり読んだりしない。研究的な意味で有益な情報は少ないし。
市場調査的な意味ではたまに役立つこともあるけど、それだってそれを読んだ他の人から教えてもらえるから自分で読む意味があまりないんだよね。
って思ってたら、思いっきり存在しましたわ。こんな爆弾が。
「すみません……」
「何を謝る?別に責めているわけではない」
「あ、いや、なんか……すみません」
「まあいい。こうして考えると、術式の秘匿は妥当だったな」
「いや……すみません」
なんか楽しそうにクツクツ笑ってる皇帝様と謝罪botになっている私。
というかなんだこの時間は……どういう話の流れに持っていかれるのか予想がつかなくて恐ろしいのだが……。
「実に愉快だ。興味が出てギルドマスターへの聞き取りもさせたが、面白かったぞ?」
「正直あんまり聞きたくないです……」
「彼女は私たちの仲間だ、道具ではない。ゴーレムと呼ばないで欲しい。とな」
「……、……。それは……個人的にはあんまりよくないように思いますね」
「ほう?」
疑似人格が予想を遥かに超えて、受け入れられすぎてしまっている。
古今、人型の道具を人間扱いする物語の結末は、大抵の場合悲劇になるものだ。
ましてやあの子のスペックは大抵の人間より遥かに高い。だからこそ、その力の用途は農業用に限定されているのだが。
まあ、というかですね、農業用なのに明らかにスペックが過剰です本当にありがとうございました。
このスペックを予算内で実現した辺り、さすわた!なのですが、状況と場合を考えるべきでしたよね。うん。
いやほんと、変なテンションだったとはいえ軽率にスペックを盛り過ぎだったんですわ……。
盛っていいのは乳だけだと前世で言われてただろっ……!
ここの女神は私にそれを盛ってはくれなかったがなっ!クソがっ!
あぁほんと……誰か過去の私をここに連れてきてくれない?
今の私を煩わせた罪で17分割にしてやんよ。やろぉぶっころ。
……。……で、だ。
それをそれ用の道具として理解して見做せない人がいると、どうなるか。
きっと、その役割以外の役割を与えたがる。つまりこの場合、人間としての振る舞いを求める。
それが、どのような結果に繋がりかねないかも、理解せずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます