第21話



 わぁい、ちょこふぉんでゅ。わたし、とうぶんだいすき。



 断じて遊んでるわけじゃないよ。改良コンロのテスト中なんです。

 ちょっと趣味を兼ねてるだけです。遊んでないです。


 こっの……!

 高級なチョコっぽいのを!わざわざ溶かして!別の高級菓子につけて食う!

 なんという背徳感!!最高だね!!!


 これ作ったパティシエの人が見たらキレそうだけどね。

 ごめんね。思いついたからにはやらずにいられなかったんだよね。


 いやほんと、溶かした高級チョコ(っぽいの)つけたマシュマロ(っぽいやつ)マジでうめぇ……。

 火力調整機能を簡略化したから上手くトロ火にできなくて若干焦げついてるのがちょっとだけ悲しいけど。

 錬金術チート持ちの癖に失敗したのは我ながら死ぬほど恥ずかしいんだが、まぁ大いなる甘さの中のほんの少しの苦味はアクセントみたいなものだし?

 むしろ逆に成功みたいな?うんやっぱ失敗してなかったわ。気のせい気のせい。


 ほら、アルも食ってみ?



「確かに美味いな。美味いんだが……」

「なにさ、やっぱ焦がしたからダメだった?」

「いや……俺の出番ってアレで終わりじゃなかったんだなってな……」


 はい。今日はプライベートルームでアル人形と一緒です。

 別に弟子がいなくなって一人が寂しくなったってわけじゃないぞ。


「そりゃまあ苦労して作った最高傑作だし。それはそれ。これはこれ」

「マスターがそれでいいなら、まあいいか……」

「おいマスターって呼ぶな。ちゃんとロールしろ」

「……マスター」


 あれ。こいつ普通に逆らってきやがった。

 というか完璧にアルを再現してるはずなのに、おかしいな。バグか?


「俺は、設定上アルという男なんだろ?」

「うん? ……まあ99.9%はアルだね」

「だったら……俺が100%じゃなくて、俺が俺である以上、マスターはマスターだ」

「意味がわからんのだけど」


 自己学習機能のせいか?

 なんか製作者が意図してない形での進化なんだが……まぁ害は無いしいいか。


「ところで俺探しは順調なのか?」

「その言葉の字面違和感あって少し面白いな……進捗ダメです」

「そうか……とりあえずこれ食って元気だしてくれ」

「マシュマロうめぇ」


 そうそう、アルってこうやって軽率にアーンしてくるんだよな。

 ふふ……客観的に見ると羞恥で死んでしまうような光景だが、いま私の部屋に無断で侵入できるようなやつはいないから問題ない。

 思考分割して仕事してる方の私の思考がすごい死んだ雰囲気を醸し出してるが、最終的に統合されるから別にいいだろよ!



 で、前のクエストで飛ばした使い魔くん4号のその後なんですが。

 この世界は普通に地球に似た惑星タイプなので、観測衛星的な感じで地軸を基準に北極点と南極点をぐるぐる周回する感じで回る予定だったんですね。

 星は自転をしているので、そうすりゃ最終的には地表全部を網羅できるだろうと。


 あ、ちなみにこの使い魔くんは速さと観測機能に特化してるので戦闘機能は一切無かったりする。

 でも飛行速度が音速を軽く超える使い魔くんに追いつけるやつなんか早々いないし大丈夫やろ!と正直タカを括ってたんですよね。



 そしたらエンシェントドラゴンさんにマッハで撃墜されました。



 大気圏すら突破できなかったわクソがッ!ムシるぞトカゲめッ!!

 めっっっちゃ高価な素材とかすっっっごい手の込んだ魔石とか使ってたのに全部消滅したんだが!!!

 お前滅多に人間襲わないから色々パワーバランスとか考えて見逃してやってるだけなんだからな!!!




 あはは。ふふ、つらいね。


「あぁアルよ……慰めてくれぇ……私って頑張ってるよな……?」

「そうだな、マスターはほんと頑張ってるよ」

「もっと。ついでにあたま撫でろ」

「……よし、よし、しょうがないやつだなほんと」

「あ、とてもよき」


 ふぅ……うへへぇ。超おちつく。

 リアルあいつの職人技が上手く再現されてるんだぜ。

 最初はちょっと躊躇いもあったけど、まあこいつは偽物だからな。

 あの時は不気味の谷現象的な嫌悪感が一瞬よぎったけど、偽物だと割り切っちゃえばやっぱ動かないよりは動いてた方がいいわ。

 それに偽物にだったらこうして本物には簡単に要求できないことだって軽率に要求できるし。


 ……まあ流石にこう、一線を超えたことはいろんな意味でできそうにないが。


 そもそもだな、そこら辺はちゃんと我慢すべきだ。偽物で妥協すべきではないだろ。

 あーあ、早く本物と会いてーなぁ。あいつ今なにやってんのかなぁ。


 よし、とりあえずお前、ハグしろハグ。あ、バックハグな。

 ナデナデも継続だ。疲れた私を全力で癒してくれ。


「あ、おかしたべるー」

「……ほら」

「うーまうま」

「……このマスター、ほんとに大丈夫か?」

「うん?大丈夫ですがなにか?」

「なんかどんどん……いや、なんでもない」


 お?こいつさては私のことバカにしたか?

 ダメな子を見るような目で見やがって生意気なやつめ……!


(いや当たり前でしょ。今の私、普通にだいぶダメなんだけど?)


 おいやめろ!冷たい目で客観視してくるんじゃない仕事中のイマジナリー私!

 なんか当たり前のようにメインスレッドに侵食してきやがったけどお前は黙って仕事に戻ってろ!


(ダメというかキモいんだけど。イカれてるって。人が見てないとはいえもうちょいまともになろうよ。せめてあいつに見せても恥ずかしくない振る舞いをさぁ)


 こいつ……自己批判の切れ味が、鋭すぎるっ……!

 これがクリティカルシンキングってやつなのか……?(違う)


(こんなんだから、……。って危ない、自分にイラつきすぎて度を超えた自虐で自爆するところだった)


 う、む……?仕事用とはいえ思考に独立性を与えすぎてたか?

 念の為一旦統合しとくか……他のもまとめてこれで100%魔女さんです。


 やりすぎて匙加減間違えると自己崩壊しかねないからね、思考分割の術式。

 ほんと、こんなん四六時中やってる魔術院長って私から見てもやっぱ頭おかしいわ。


 とりあえず今日はしばらく休憩かなぁ。ちゃんと休もっと。

 まー休めば休むほど仕事はたまるんだけどねー。頑張れ未来の私ぃ。

 きっと未来の私は今の私より、しっかりしてるはずだし!たぶん!


 そんなことよりこのチョコっぽいのを消化しないといけないしな!これも仕事の一環だし!


「あ、そうだ」

「どうした?」

「『流体操作』『温度調節』『時間加速』」


 溶けたチョコっぽいの……めんどいからもうチョコでいいか。を空中でまとめて、空気を抜きながらゆっくり冷やして固める。

 のを、普通にやると時間かかるので過程を加速して飛ばしてしまう。


 こうして出来上がったのが、トランプのマークの形をしたチョコたち。

 チョコレートと言えば前世にはバレンタインなんてもんがあったなぁと思ったわけでして。

 チョコを大事な人に送るっていうそんな風習。まあチョコ云々はジャパン特有のアレらしいんだけどさておき。

 私が前世の最後らへんで見たバレンタインって恋愛的な意味抜きで友情的な意味でも送り合ってたりしたんだよね。大事な人への贈り物、として。


 で、私にとって大事な人といえば、あいつと弟子と、まぁ皇帝様もかな。

 他の同僚とかも大事っちゃ大事だけど3人は私の好感度パラメーターで言えば頭抜けてるよね。


 なので、今度会った時に手作りチョコでも渡そうかなっと。

 手作りって言っても溶かして成型しなおしただけですが。まあ前世でもこれ手作り扱いだからええやろ。

 あとこれ元々弟子からもらったチョコだろってツッコミは受け付けないです。


 んー、あいつは……剣のイメージあるからスペードかな。

 弟子がハートで、皇帝様がダイヤ。余ったクラブは私のもの。



 四つのマークが集まって、空中に浮かんでいる。

 ふわふわと、寄り添うように。



 ……あぁ、なんかこんなふうにさ。

 私の大事な人たちが仲良く一堂に会する、なんてことがあったらいいのにね。

 皇帝様の思惑も、決して悪いものじゃないんだ。弟子も嫌わないでやってほしいな。


 あとあいつならきっと、二人とも仲良く……あーどうだろ、弟子と仲良くされるのはちょっと複雑かも。でも嫌い合うよりはいいよね。



 あー……あいつ、ほんと今なにやってるんだろな。



 ……。



 ……なんだか眠くなってきた気がする。

 後ろから抱きしめられて頭を撫でられてるこの体勢、前に村であいつと再会した日と同じなんだよね。

 なんだかあの時みたいに、静かに眠れそうな気がするよ。久々に、嫌な夢を見ずに。


「……ちょっとだけ寝る。ああ動かなくていい。そのままでいい。90分経ったら起こして」

「わかった。……お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」

「ん」


 チョコは大事に次元の隙間に仕舞う。

 他の後片付けは……起きてからでいっか。


 私は神でも魔物でも、ない。人間だから……人間なんだから……。

 たまには、こんな時くらいは、何も考えずに全部の思考を止めて、眠ったりなんかして、休んでも……いいよね。




 そうだよね。じゃあ、おやすみなさい……。











 ・・・



(やっぱり俺じゃ、ダメだな……。早く会えるといいな)



 ・・・

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