誰も見てないところでもちゃんとできる人ってマジ尊敬
第20話
帝国は未来の国、みたいなことを言われたりすることもあったり、なかったり。
異世界の国っていう言葉が聞こえたときはちょっとドキッとしたけど、まあそれはさておきだ。
元々は普通に魔術を教える的な感じで魔術院にぶち込まれた私なんですが、日々思いついたものを興味本位で自作したりしてたらそれがバレてしまったという経緯があってですね。
私はチートなので、前世のものを再現しようとしたそういったものなんかは当然のように文明への影響なんか全く考慮してないオーバーテクノロジーなやつばっかだったわけでして。
まあ途中から自重し始めたけど時すでにお寿司。いや遅し。あ、ところでどうでもいいけど、お寿司は帝国にはないんですよ。
海がクソ遠いので生魚を食べる文化があんま無いというか。冷却箱が出回ったので海鮮は食べられるようになってきたけど、今後に期待かな。
食欲のせいで横道に逸れました。
本筋に戻すと、この国の技術革新って私の思いつきからうっかり始まってしまってるので、割と技術レベルがチグハグだったりする。
例えば最近三種の神器的な扱いになりつつある、冷却箱。
昔……といっても数年前までの話、食べ物を冷やすためには自然の氷を使うか、魔術師が魔術を使って冷やすか、くらいしかなかった。
基本的に魔術は魔術師しか使えないので、普通の人は氷屋か魔術師から氷を買って、それを断熱性の高い箱に入れて冷やしてたってわけだ。つまり冷蔵箱ってわけね。
そんなアナログなクーラーボックス式では当然長距離の持ち運びなんかできないので、帝国みたいな内陸国の生鮮食品とか氷菓とかなんかは魔術師を雇える貴族の食べ物だったってわけだ。
で、そんな状況を憂いた私が、ついついチートでやらかしちゃいます。
まずですね、魔石ってのがあるわけですよ。これはそれそのものが効力を持った魔力の塊……自然界が作り出した天然の術式結晶、とでもいうべきかな?
自然魔力が濃い地域ではちょこちょこ自然発生したりするのだけど、当然ながら偶然の産物みたいな感じなので安定性はほぼ皆無。ちょっとした刺激で暴発する危険物なわけだ。
その反面、上手く使えれば外部からの刺激により自前の魔力無しで魔力現象を起こせる。
と、いうことは?
意図したタイミングで使える暴発しない安全な魔石があれば、魔力が無い人でも使える魔道具を作れるんじゃ?
はい。
そんなわけで私、魔石の安定化技術、発明しちゃった。
あー、いやほんと。ほんとに……今思えばこれマジでやらかしなんだよね……。
これまでにも皇帝様の下で色々やらかしててごめんなさいしてるんだけど、その中でもトップクラスの軽率さだった。
もっと段階を踏むべきだったよ……この技術が国に莫大な利益をもたらした一方で、反面どれほどの人が地獄を見たものか……。
正直、人工魔石生成術式のが術式難易度がクソ高いおかげでまだマシだったってほんとなんなんよ……。
ともあれ。安定魔石ができたおかげで冷蔵箱は自発的に氷、というか冷気を発生させられる冷却箱に進化したわけだ。
なんなら調子こいて温度調整とか冷蔵冷凍の区画分けとか機能を増やし始めた結果、もはや前世の冷蔵庫と何も変わらんのではないかという。
前世的に考えると軽く100年とか200年は技術が離れてて、これジャンプアップ進化しすぎやろっていう。
もちろん魔石は冷却系以外にも色々ある。
なのでその種類の数だけ新たな魔道具が考案されて、なんかカンブリア爆発ってこんな感じだったんかな(遠い目)って他人事のように見てました。いやほんと皇帝様すみません。
まあ安定化術式の精度によってはだいぶ魔石の効果下がるんですけどね。私がやれば加工効率ほぼ100%だけど。
あと天然魔石の加工はだいぶ危険だから、資格がない人は絶対やっちゃダメだよ。
ここ最近は聞かないけど違法加工による暴発事故とか、術式開発者として流石にちょっとは心が痛むのよ……。
そんで。
今回はそんな魔石を使った魔道具のお仕事。
はい、じゃじゃーん。携帯コンロぉ。
魔力のない人でも使える画期的な携帯式加熱調理機だよ。
少し前に開発した魔石式発火装置が組み込んであって、商業ギルド経由でお試し販売中なんですがね。
さっそくフィードバック的なお便りご意見がいっぱい届いたので、ざっと確認しつつ改修作業に入りますよー。
ていうかこれ……前までは弟子が選別してまとめてくれてたから確認作業楽だったけど未選別だと結構数あるな……めんどいから巻きで見てくか。
えー、なになに。
値段が高い?
うっせぇ価格設定に私は関わってねぇよ私に言うな店に言え。次。
興味本位で分解したら使えなくなった?
素人が思いつきで魔道具分解すんなやボケ。有料だけど修理するから送ってこいアホ。次。
無駄な機能が多過ぎる?
もっと簡易的にして操作を簡単にしてほしい?
ん、あー……納入先の依頼評価としては問題ないはずだったんだけど、これは発売後のユーザー様からのご意見か。
この携帯コンロの当初の販売ターゲットは貴族や隊商だったらしいけど、意識高い系の裕福な冒険者パーティでも使われてるみたい。
冒険の道中に使うとしたら細かい温度調整とかスチームとかタイマーとかの機能はそら要らんわなぁ。
うーん、でもさぁ、やっぱ高機能ってロマンじゃん……?
私は女だけど元男なので、まだこいつはポテンシャルを残している……!みたいなのめっちゃ好きなんですよ。
そういやあいつもそういうロマンを理解してる男だったから、こういうやつの方が好きそうよね。そんな手の込んだ料理は作らないくせに。
一緒に旅してた時期に作ってたのは煮込み系の料理が多かったかなぁ。シチューっぽいのとか、カレーっぽいのとか。
そうそう、この世界にはカレーはある。正確に言うと、スパイスを使ったカレールー的なもの。
王国にはスパイス文化が根付いてないのでメジャーじゃなかったけど、あいつは行商人の子なので色々な地域のものを知っているのだ。
あー……あいつの作る甘口のカレーがまた食べたいな……。
りんごっぽいのと花の蜜が隠し味に入ってて、前世を思い出して涙が出るんですよ……。
これ自分で作るとなんか違うんだよな……成分単位でこだわって再現しようとしてもなんか違うんだ……。
……あいついま何やってるんだろうな。美味しいものとか食べれてるのかな。
おなか空いてるせいでまた脱線しちゃった。
それはさておき。うーん、冒険者向けに機能削った廉価版も開発するかなぁ。
単純に機能削るだけってわけにはいかないから全体調整……いや最初から作った方が早いか?
そもそも今の携帯コンロは組み込みバッテリー付きIHコンロって感じで魔術師による魔力充填が必要だから、できればゆくゆくはカセットコンロみたいに交換式にしたいよね。
そのためには完全に電池的な、魔力貯蔵オンリーの人工魔石カートリッジとか作らないとだけど。
交換式ならカートリッジは安価にしなきゃだし、大量生産できるように魔石生成術式の改良もやってかないとだし、課題は山積みだなぁ。
なんとか早めに試作できるように頑張らなきゃ。
思考分割しながら他のご意見も見てたけど9割方どうでもいい感想だったからそれは無視するよ!
例えばもっと最大火力上げて戦闘にも使えるようにって意見とか。いやなんでコンロを戦闘に使おうとしてるんですかねぇ!?
……ちょっと面白そうって思っちゃったけど。作らないぞ?作らないからな?
よっし、さてさて、作業に入るとしますかね!
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