勇者のまったりクエストと魔女さんのお仕事
幼馴染の幼少エピソードがことごとくドン引きされる件
第18話
・・・
<魔女さんのスーパーもぐもぐタイム>
えっと、なんか弟子に謎の宣戦布告されたけど……てかお菓子の山すご……。
私は大人なのでお菓子如きでそんな喜んだりはしないけど、すっご。やっば。
新作高級菓子の宝石箱やんこんなん……よくばりセット過ぎる……。
え?一日、一箱?
(半日後)
うん。あるのがいけない。私は悪くない。
<冒険者ギルドの掲示板>
依頼:納品クエスト
依頼者:帝国魔術院の魔術師(匿名希望)
納品物:パティスリー・ドゥ・ラ・リベルテの新作菓子各種
数量:制限なし
報酬:定価の5割上乗せ
期間:3ヶ月
備考:期間中に違う新作が発売されたらそれもお願いします。
「なにこの依頼」
「あん?俺たち冒険者に菓子を買わせるってバカにしてんのか?」
「しかしノーリスクでこの報酬は魅力的だな……どれだけまとめて買えるかわからんが……」
「何に使うんだろ。そもそも普通に買いにいけばいいんじゃないの?」
「そんなん食うために決まってるだろ。どうせ依頼主は外も歩けないくらいの穴倉デブ魔術師だな」
「いや、あの魔術院がわざわざ依頼するくらいなんだから何か深い理由があるのかもしれない……」
「これ、3つ買って2つ納品すれば残った1つ実質無料で食べられるってことじゃない?私あそこのお菓子ちょっと気になってたんだけど」
「あ?菓子なんか別にいらねぇだろ。受けるんなら普通に全部納品するぞ……貴族御用達の店だし仕立てのいい服が必要か?」
「うーむ、高級菓子を使う魔術……?もしそんなものがあるとしたら一体どんな……?」
「むぅ」
・・・
「あ。どうも、お待たせしてしまいました」
早朝の魔術院前。
これから一時的に仲間となる、魔術師の少女エステルが自動扉から現れた。
相変わらず手ぶら……いや、小さな袋鞄を持っているか。
嵩張らないような荷物は普通に持ち歩く、ということだろう。
「いや、時間ぴったりだぞ。俺たちが勝手に待ってただけだ」
「ああ、でもお待たせしてしまったことには変わりありませんし。いやはや、すみません」
「律儀だねぇ、エステルちゃんは」
「お前はもっと時間を守れ」
「あっはは、いつもごめんねぇ」
何笑ってんだこいつ……いっつも人のことを待たせやがって。
ベルはエルフなので見た目通りの年齢ではなく、少なくとも俺の3倍は生きている、らしい。正確な年は教えてもらってないので知らないが。
だから当然、パーティ最年長になるんだが……とにかく時間にだらしない。バラバラに行動すると大抵こちらが待たされて、いつも最後にひょっこりと現れる。
それでもなぜか憎めないんだよな。毎回毎回大した事情もなく俺たちを待たせやがるやつだけど、なんていうか、絶妙にタイミングが上手いというか。
いや、遠慮なく遅刻できるタイミングを見計らってるのだとしたらそれはそれでどうなんだって思うが。
思えばあいつはいつだって時間に正確だった。
村にいる時はもっぱらこちらから会いに行かなければならなかったので気にしてなかったが、一緒に旅をしている時期にも待たされた記憶はない。
だからと言って他人に厳しいわけでもなく、待たせてしまうことがあったとしても、冗談混じりに文句を言うことはあれどそれだけだ。
俺も平和な状況が続いてるとうっかり気が抜けることもあったから、それが申し訳なくも有難く感じたものだ。
──ん、ああ待ってないよ。そんなにはね。……この寝坊助野郎。
──まぁ待たされるのも意外と悪くはないかなってちょっと思ったけどさ。……いやこっちの話。
──ていうか……えっと、なんていうか、思うんだけど同部屋でも別に良くない?部屋代無駄じゃん?てか前に一緒に寝た仲なんだし、また昔みたいに一緒に……。
──え、ダメ?……あ、いやいや冗談だから。そんな困った顔すんなよバッカだなぁ流石に冗談だってばさ!
──冗談だって、うん。
一緒に旅してた時、たまたま宿で寝坊してしまいこんな感じに弄られたことがあったのを思い出す。
というかそもそも一緒に寝た云々は子供の時の昼寝のことだろうに何言ってやがるんだあいつ……。
ちなみにこの時のあいつの様子が気に掛かったのもあるし、意趣返しの意味も込めて次の宿で本当に同部屋にしてみようかと考えてみたんだが。
一瞬固まった後で慌てて拒否してきたので、やっぱりあれはただからかってきたってだけのようだ。
幼少時代のあいつは男の子みたいな雰囲気だった。だから俺も気にせずべったりだったんだが、それでも当時から十分美少女の片鱗を見せてたので、今考えると俺もガキだったんだなって思える。
それで7年後に再会したあいつが美少女そのものといった姿に成長してたから正直内心ビビりまくってたんだが……再会直後はあいつが色々ヤバかったのでそれどころじゃなかったしな。
なんとか正気を取り戻させてからは表面上、昔みたいな調子に戻ったように思える。でもやっぱり昔とは違う、というか……やっぱり女の子なんだなって感じることが多くなった。
表情を失くしたあいつも、まるで人形のように綺麗だった。でもあいつは魔術が得意なだけの、普通の女の子なんだ。やっぱりあいつには、笑っていてほしい。
一緒にいて、日に日に元気になっていって、どんどん女の子っぽくなっていったあいつを見てると……ほんと元気になってよかったなって思えたんだ。
だからこそ、そんなあいつを守ってやれなかったことが本当に悔しい。
俺は弱すぎた。あいつが俺に失望したのもわかる。だから、強くならなければ。次があるかどうかはわからない。許してもらえるかも、わからない。
でも、いつかまた会えると信じてる。そして許されるなら、次こそは必ずあいつを守ってみせる。どんなことをしてでも。どんなことからも。
……そうだな、もっと頑張らなきゃな。
「……まーた幼馴染ちゃんのこと考えてる?」
「ん、ああ……すまん、何かあったか?」
「いや何もしてないけどさぁ……いつものことながら、可愛い女の子を前にして違う女の子のことに没頭するのってちょっとどうなのかなぁって思うよ?」
「可愛い……?ああ、あの二人か」
「おい、私も可愛いだろこら」
「ふふふ……」
「この人たち、いつもこんな感じなんですかね……?」
いつも通りニコニコ笑っているアリアと、ジト目で呆れた様子のエステル。
というかエステルの雰囲気が若干怖いんだが……何か気に障ったか……?
「まぁまぁじゃれ合いはこの辺にして、行きましょっかー」
「あ……というかその幼馴染さんのお話、若干気になるんですけど」
「いあいあだいじょぶ、これからアルと一緒にいたら腐るほど聞けるから」
「ふふ、アル様はいつだってその方のこと考えられてますからね」
「そうそう、一途もそこまでいくとちょっと気持ち悪いよね」
「おい」
なんだかんだ盛大にバカにされながらも歩き出す。
いいだろ別に。ほんとあいつ、ほっとけないやつだったんだから。
……離れ離れになって、もう4年にもなるのか。あいつは元気にやってるのだろうか。
いつかのように、悪意を仕方ないと飲み込んで、傷ついてたりしてないといいのだが。
「もう、ほらアル行くよー?」
「ん、ああ今行く」
あいつ、いま何やってるんだろうな。
・・・
<聖剣ちゃん>
「魔法使い……じゃなくて魔術師の仲間、かぁ。なんか懐かしい感じ。気を付けなきゃ」
・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます