見て!魔女さんが冒険者っぽい仕事にワクワクしてるよ! (1〜4)
第14話
・・・
この世界での魔術の定義とは、魔力現象、つまり魔法を操る術式を用いることである。
遥か昔、強力な魔物たちが魔力で強引に物理法則を捻じ曲げて起こす固有の現象を、魔法と呼ぶようになった。
大火を起こし、洪水を起こし、暴風を起こす。それはまさしく災害であり、魔物が現れる度、人類に多くの被害がもたらされた。
人類にも魔力はあった。しかし魔法を引き起こすほどの魔力を持つものは滅多に現れることはなく。
長らくの間、人類は魔法使いと呼ばれる極僅かな突然変異的存在以外、魔物たちに対抗できる者はいなかった。
底辺を這う人類に追い打ちをかけるように、賢く器用な魔物が他の様々な魔物の魔法を魔力で模倣、再現するようになり、自身の魔法として用いるようになる。
その魔物の姿形は人間に酷似しており、人間の言葉すら操り人類の上位種として振る舞い始めたそれは魔王を名乗るようになった。そしてその眷属は魔族と呼ばれるようになる。
しかし長い年月が過ぎ、一人の天才的な魔法使いが魔族のそれの模倣、再現に成功させる。
術式として汎用化されたその技術は、忌避されつつもその実用性から、魔物と戦う人の間に広まることとなった。
次第にその技術は洗練され、効率化され、より少ない魔力でも扱えるようになり、ついには全くの新しい魔法の術式さえ作り出される。
いつしか、魔法使いは魔術師と呼ばれるようになり、望み学べば誰でも魔法……魔術を扱える時代が訪れたのだ。
それが、人類史における魔術の興り。今から500年くらい前の出来事になる。
うん、だからまあ……歴史的に見て、魔術師を魔物扱いして迫害するっていうのも納得できなくないんだ。
魔王の誕生が800年くらい前なので、その時代が人類にとっての暗黒時代だったのだろうってことは想像に難くないから。
そういった背景の歴史認識が今も残っているというのは、絶対に忘れるべきではないよね。
当時の魔王を討ち滅ぼしたのは、およそ700年前の勇者。
まだ人類には僅かばかりの魔法があるばかりで、魔術なんてまだ影も形も無い時代。
元々から魔物に食物連鎖的な意味で負け続けてきた人類は、更にその暗黒時代にて、魔王率いる魔族に酷く虐げられてきた。
人類は魔物と魔族たちによって急激に数を減らし、もはや滅びを待つばかり、といったところだったのだ。
それを良しとしなかった女神様がようやく重たい腰をあげる。
救いを求める人類の祈りを聞き入れ、様々な恩寵がもたらされることとなる。
聖職者たちに奇跡という魔法に似て非なる力の恩寵を。そして脆弱な人の身を強くする守りの恩寵を。
女神の力で人々は狩られる立場から反転攻勢に出られるようになった。
それでも魔王の軍勢は強大で、人々は戦いながらも更なる祈りを捧げ続ける。
かくして、当時の人類最大勢力だった王国にもたらされた最大にして最後の恩寵が、聖剣。
人類に降りかかるあらゆる魔法の、その全てを打ち消し斬り払う、無敵の神器。
だがしかし、その強力で純粋な神気を受け入れられる人間は、なかなか現れなかった。
人々は待望する。人類の希望を。闇を照らす光を。そしてその祈りはついに届く。
ようやく現れた聖剣の担い手を、人々は勇者と呼び、熱狂し、歓待し、多くの支援を施した。
勇者は魔法使いと聖職者を仲間とし、人々を助けながら旅を続け、ついには魔王を斃す。
希望の力が暗黒時代を斬り裂いて、世界に平和がもたられたのだ。
これはいまや御伽話の中で語られるお話。でもかつて実際に起こったお話。
もはや王国でも忘れられかけている、そんな勇ましくも在り来たりなお話だ。
そしてそのお話の続き。魔王は一度滅んだが魔族の残党は残っていた。
もたらされたのは仮初の平和。人々は魔物と魔族の危機を完全に克服したわけではなかった。
勇者は生涯奮闘したらしいが、殲滅を果たすことは終ぞ無く。
現代にも、その闇は未だに燻り続けている。
しかし残念なことに、人々の危機感はどんどんと薄まっていく一方だ。
魔物との戦いの技術も年々向上し、冒険者たちの討伐活動も活発となっている。
勇者に頼らずとも彼らは、それなりに魔物たちから人類を守れてしまっている。
20年ほど前に魔王の再誕が宣言されたのだが、今の魔族たちはそこまで積極的に表立って動くこともない。
なのでかつてのような勇者待望論も起こり得ず、勇者も聖剣も忘れ去られたままだ。
私はあいつの手がかりを探すために、最後の映像に見たあの剣に関する、あらゆる文献を探し始めた。
だけど数は少なく、あの時からこれまでに見つかったそれらも、噂、作り話、虚偽、誇張がほとんど。
事実を調べるには、断片的すぎるものばかりだった。
たったの700年。
この世界の人類には、数百年生きる長命種も存在しているというのに。
その実在は創作の衣にカビの生やした伝説として、あっさりと散逸してしまったのだ。
……そう考えるとあの融通の利かない無機物も、ちょっと可哀想だよね。
人々に望まれて生まれたのに、勇者が死んで、扱えるものが誰もいなくなって。
魔王を倒す役目が終えて、しばらくは祀られたりしたのだろうけど、結局すぐ忘れられて。
滅びることもできずに次の役目をずっとずっと待ち続けて、ついには再び魔王が現れたのに、それから二十年も主は現れず。
ようやく素質を持った者が聖剣の担い手となったというのに、喜びの声も、希望の祈りも、どこにもない。
それでも淡々と、機械的に、聖剣としての役目を果たし続けているんだ。
ほんと健気で、悲しい存在だよ。
まあそれはそれとして絶対にわからすけどな……!
必ず丸裸にしてやるぞ駄剣め……。
そんなこんなで使い魔くん4号の試作が頭の中でできたので、実装のために皇帝様の隣で歩きながら作業中。
不敬?今更だろそんなの。皇帝様もこれに興味持ってるみたいだし。
4号のコンセプトは超望遠特化。魔力と電力のハイブリット構造で、稼働全体はともかく観測に関してはほぼ魔力を使わない。
光学的な索敵、いや敵じゃないけど、魔力に頼らない方法でいけば魔力不干渉バリアを抜けるんじゃないかなって思ったけど……。
うーん、やっぱ難しいかもなぁ。
魔力無しだと探知に時間かかるだろうし、大した観測距離を稼げないからぶっちゃけあんまりよく見えないかも。
ていうか、えーっと……観測人工衛星ってこんな感じの仕組みだったっけ……?
ぐ、うぉおお、前世の知識、知識、思い出せぇええ、……ないわ!
くっそ、もっとちゃんと勉強しとけばよかったっ……!
……まあいつものチートパワーでゴリ押しトライアンドエラーするしかないな。
そーれ使い魔くん飛べー。
この星を元気にぐるぐるしてらっしゃーい。ドラゴンには気を付けるのよー。
ていうかさっきから皇帝様、めっちゃくちゃこの使い魔くん4号に興味津々じゃない?
ちょっと説明してからの食い付きが良すぎてちょっと怖いんですが。
あ、いや、まだ試作なので完成まで時間がだいぶ掛かりそうなんですよ……。
ちょ、流石にそれは予算付けすぎじゃ、……?
……?
……ってあれ?『契約』しないの?
てっきりいつもの無茶ぶりの流れだと思ったのに。
まあいいや。ちゃんと完成させるんでご安心を。
納期も珍しくだいぶ余裕ある設定だし?
そいじゃま、気を取り直してクエスト頑張りましょっかね!
・・・
<昔々の女神さん>
「ちょっと寝てたら人類滅びかけとる……テコ入れもしてみたけどやっぱ魔法が強すぎるんよね。……そだ、いっそのこと私の半身を送ったろっと」
「わかった! 素質ある純粋な人間を主に選んで魔法を使う敵を全部斬ればいいんよね! 頑張るよ!」
「よし、これで完璧。頑張ってね。それじゃもうちょい寝ますんで……」
・・・
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