聖剣が強すぎるせいで中々成長を実感できない

第11話

 俺たちは魔術師の少女に先導され、魔術院を奥へ奥へと歩く。

 その後ろ姿に、少し考える。果たして、この魔術師の強さは如何ほどか。


 今まで出会った魔術師は、あいつを除いて全員が魔道具を持ち歩いていた。

 杖、魔導書、ローブ、魔剣。変わったやつだと大鎌とか、箒なんて奴もいたな。



──魔道具を使わないのか? いや使うよ? そりゃ使った方が楽だし?


──でもまあ無くても同じことできるし必要なら必要に応じて作るか呼び出せばいいだけの話だし?


──いちいち持ち歩くのもめんどいから私は手ぶらなだけだよ。ほら手ぶら。


──……あ、うん。そうだね。だから丸腰の魔術師に会ったら気をつけたほうがいいかも。


──魔術師に必要なのは魔力なんかよりも応用力と想定力。優秀な魔術師は常に状況を想定して用意を怠らない。


──つまり用意が無いのは用意できない初心者か、ただの馬鹿か、もしくは予め用意を必要としない超一流のどれかってこと。


──下手にがちゃがちゃ装備してる魔術師よりも、やばいかもしれないからね?



 何故か胸に両手を当てながら話していたあいつのことを思い出す。今考えてもあのポーズは意味がわからんが……。

 ともかくあいつも使うことがあるということは、魔道具を使わない魔術師は、まず存在しないと考えていいだろう。


 そして目の前の少女は手ぶらで普通の服装。他に何か持っているようには見えない。

 ……流石に初心者でも馬鹿でもないだろう。


「気を引き締めたほうが良さそうだな」

「どゆこと?」

「多分あの子、相当強いぞ」

「そりゃそうでしょ。あの魔神様のお墨付きだもの」

「まあ、それもそうか」


 それに、そもそもここは魔術の最高峰と呼ばれている帝国魔術院だ。全員がそうだったとしてもおかしくは……。

 いや、でもすれ違った人たちは杖とか持ってたな。手ぶらだったのは受付の人くらいか。

 超一流の人が受付なんかしてるわけがないから、あの人はただの事務員だろう。

 だからまあ、最高峰といえどもやっぱり普通は何か身に付けているわけだ。


 だからこそ、この少女の異質さが際立つ。

 仮にも最強と噂されている奴が推薦するのだから、ただの魔術師なわけがない。


「到着ですよ。どうぞ」

「おぉ……広いね」


 分厚い扉が開き、通されたのは魔術院の高い建物にぐるっと囲われた中庭。

 地面は剥き出しの土で庭側の壁には一つも窓がなく、瓦礫のようなガラクタがいくつか転がっているのみで他には何もない。

 吹き抜けの青空と太陽の光でかなり明るいのだが……少し圧迫感を感じるな。


 日が高い。そろそろ正午過ぎになるか。


「ここが第三魔術試験場です。大規模魔術のための試験場になりますね」


 少女が厳重に扉を閉めながら説明してくれた、のだが……。


 えっと、それはつまり今から大規模魔術使いますってことだろうか。俺たちが今からするのって、模擬戦なんだよな?

 というかこれ、もしかして閉じ込められたんじゃないか……?


「あ、もちろん壁も強化されてますが、空にも結界が張られていますよ。必要な空気や光以外は一切何も通さない特製のものです」

「へー、全然見た目わかんない。普通に空が見えるだけなのにねぇ」

「なので、うっかり外に飛び火したり空から何かが飛び込んできたりは無いから安心ですねー」


 いや、やっぱり完全に密室じゃねえか!

 まあ最悪、聖剣でどうにでもできるだろうけど……。


「ちょっと試してもいい?」

「構いませんよー」


 ベルが弓に矢をつがえて魔力を込め、真上に放つ。

 空気を引き裂く矢は、当たればワイバーンすら一発で落とす強力な一撃だが……?



 ぱん、と間の抜けた音を立ててあっさり矢が落ちた。



「うわ……ちょっとショック」

「まぁ、あれはここの院長でも破れないので仕方ないですね」


 それはつまり、帝国魔術院長以上の実力者があの結界を張った、ということになる。


 魔神と呼ばれる男、デュシエル……か。


 でもきっと、そんな結界でもあいつならいけるんだろうな。あっさりと、余裕な表情で突き破るのが容易に想像できてしまう。

 そしてニヤリと得意気に小さく笑ってこちらを振り返るのだろう。楽勝だったよ、と。


 なんか聖剣からも「自分いけますけど!」みたいな意思を感じるが。いや、今はダメだぞ?


「ちなみに私なら、時間さえかければ一応、穴を空けられますよ」

「えー、時間かけていいなら私だって何百発か撃ち込めば」

「いや無理ですねー。あれはダメージを丸めて全部ゼロにしちゃうので、別のアプローチが必要になるんです」

「むむ……ちなみにあれ、上から乗るとどうなるの?」

「乗れますよ。ただしずっと乗ってると形状が変化して、外側に押し出されちゃいますね」

「あー、なるほど。ゴミとか溜まるかもだもんね」

「……そろそろ始めようぜ?」


 雑談し始めた少女とベル。いや目的忘れてないか?

 アリアも微笑ましく見てないで、突っ込んでくれ……。


「……そうですね。すみません、私から提案した模擬戦でしたのに」

「アル?」


 いやなんで俺が悪者みたいになってるんだよ。


 試験場の中央まで歩いていく少女。

 ついて行こうとしたら手で制されたので、俺たちは入り口近くで待機。



「さて……模擬戦とは言いましたが、実力のわからないもの同士で不測の事態があると困りますので」






 ──『魔動機兵・召喚』






「これと戦ってみてください。訓練用のゴーレムです」


 地響きが轟いた。

 土煙をあげて着地したのは、3体のかなり大きな金属鎧。

 巨大なハンマーを持つ鎧。二本の剣を持つ鎧。そして、謎の筒を幾つも持つ鎧。


 不気味な威圧感がある。ホントに訓練用なのか……?


「え、えぇ……何でもないように使ってるけど空間転移……? 超上級魔術じゃん……」

「あ、えっと……これ厳密には転移じゃなく召喚で、決まった単方向にしか、それに結界内で使うにも色々条件が」

「始めようぜ?」


 話が長くなりそうだったので打ち切る。白い目で見られたが、俺は悪くないはずだ。だよな?

 アリア、ニコニコしてないで何かいってくれ……。


「……ちゃんと安全装置は付いてるので安心してください。それでは始めます」


 全く安心できない見た目の鎧が、見た目から想像できないほど静かに、素早く動き始めた。重量級にしか見えないがかなり機敏な動作だ。

 これは下手な冒険者よりもよっぽど、


 いや、というか速過ぎでは!? 絶対これ訓練用じゃないだろ!!




「……行け! バイオレンスアーマー! キリングアーマー! ジェノサイドアーマー!!」




 しかも名前が、なんか不穏っ!!


 って、


 あ、ちょ、聖剣待っ────







「──え?」

「あー……」


 こりゃ台無し、だな……。

 制御の一切を失った鎧たちは、そのまま頭から転倒して動かなくなってしまった。


「やっちゃったねぇ……」

「すまん、鞘に収めたままなら大丈夫かと思ってたんだが……」

「あ、え……?」


 おそらく、聖剣が魔力を無力化したのだろう。それじゃ模擬戦が成立しないから使うつもりなかったんだが……。

 ピカピカ光って「楽勝!」と主張してくる聖剣を背中から下ろす。


「悪いアリア、やっぱ預かっててくれ」

「でもアル様、それでは武器が……?」

「たまには使わず戦ってみるのもいいだろう。いい修行になる」


 聖剣が「あれ? 自分なんかやっちゃいましたか!?」とばかりに光ってるが、今回はちょっと留守番な。

 確かにこの子は凄い魔術師だろうが、流石にあいつほどじゃない。やっぱ魔術師相手にお前を使ってちゃ勝負に……。




「待って、下さい」




 鎧に駆け寄って何か調べていた少女が、ゆらりと立ち上がった。

 いつの間にか、その手には魔力光を放つ長杖が。って、今……無言で魔術を使って杖を出したのか?


 あいつもたまにやってた、宣言無しの魔術行使。わかってはいたが、やはり、ただの魔術師じゃないようだ。


「本気で、やります。使


 ガタッ!!と聖剣から音が鳴る。

 いや聖剣は自分では動けないので実際には鳴ってないのだが、強烈な抗議の意思を感じた。


 ていうか落ち着けって……多分悪気は無いんだろうから……。

 今の俺たち、全然知名度無いから所詮ただの自称勇者と古くて凄い剣ってだけなんだしさ……。

 法国だけがアリアを通じて勇者だと認識してくれてるものの、それだって勇者見習いみたいな感じに過ぎない。


 まあ別に俺は有名になりたいわけじゃないしな。

 あいつを守れるぐらい強くなり、あいつの隣に立つ。俺の望みはそれだけだ。

 もっと強くなって、聖剣の力も使いこなせるようになって、そのついでに魔王を倒す。

 結果として勇者と呼ばれるなら、それでいいじゃないか。その過程に聖剣も不満はないはずだろ?


 とりあえず、落ち着いてくれ……落ち着けー……あの子は斬っていい敵じゃないぞ……。


「仕切り直しです、構えてください」

「正直それはやめた方がいいと思うんだが……」


 最初と明らかに雰囲気が変わった少女が、物騒な気配と共に立ちはだかる。


 いやだからこれ、模擬戦なんだよな……?

 本当に無事に、終わるのか……?









・・・



<聖剣ちゃん>

「よりにもよって魔族の武器と間違えるとか!! 今は人間も使ってるんは知ってるけど!! 絶対喧嘩売ってるって!!!」



・・・

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