上司がよく無茶振りしてくるけど無ければ無いで少し物足りない

第9話


 ここは私の研究室である。つまり私の城とも言える。すなわち私の領域。

 ここの主は私であり、私はこの場の絶対支配者である。


 この場で私以上に好き勝手振る舞える存在など、許されてはならないのだ……!

 故に、例えどんな偉い奴が来ようが……私は負けない!


 そう、負けな……。


 負け……。


 ……。


 やっぱり偉い奴には勝てなかったよ……(諦め顔ダブルピース)


 なんか今日も今日とて皇帝様がお邪魔しに来てるよ。邪魔するんやったら帰ってやぁ?

 まあ普通に邪魔ではあるものの、別に対応する余裕が無いわけじゃないから別にいいんだけどさぁ……。

 今抱えてる仕事の納期は余裕綽々だし。修羅場状態なら例え皇帝だろうがおかえりいただくんだけどね……。


 私は権力が弱点属性な悲しい男。いや元男。

 断る理由がないなら相手しないわけにもいかないので、とびっきりのお菓子とお紅茶を用意してティータイムのセッティングするよ。

 せっかくだし今回は私もそのまま休憩がてら参加することに。作業も色々あってちょっと長引いちゃってたし。


 といってもまだ連続30時間程度だから楽勝だけどな!昭和のサラリーマンより断然短いからヨシ!

 そもそもその時間の半分以上、仕事じゃなくて私用の使い魔くんの開発なんですけどね!

 いいだろ仕事の方もちゃんとやってんだから! 仕事の進捗は超順調だぞ!!


 でも使い魔くんの進捗はあまりよろしくないです(憤怒)

 3号は一切の成果をあげられなかったので残念ながらボツになりました。なので今はまだマシな手応えのある2号バージョン2.95with中継機を運用つつ、4号の考案中。

 1号もそうだったのだけど魔術的に直接干渉するタイプはどうも難しいみたいだ。色々試したけど目標固定は結局一回も通せなかったよ。

 望遠は別の開発に流用できそうから3号の開発も無駄ではなかったけどねぇ。望遠術式、何となく皇帝様が好きそうな気がする。あとで報告するか。

 しかしホントマジであの無機物、過去の遺物の癖して手強いね。クソが。てか干渉不可範囲が広すぎなんだよクソが。

 今わかってるのは、使い魔くんたちの尽力による不干渉領域の逆算から何となく王国近辺にいたんじゃね?ってことくらい。曖昧すぎるわ。

 それ以上の絞り込みもできなくて遠隔サーチもできないとなると、もうあとは使い魔くんの視界のみで地道かつアナログに探すしかないんかなぁ。


 国中を、目視のみでの人探し。

 手詰まり魔女さん心の俳句(季語が無いので才能ナシ)


 こんなんシンプルに苦行じゃんよ……。


 ……というか、しばらく前からイヤなことに思い当たってるんだけど。

 あいつ王国の冒険者だからてっきり王国にいると思ってたけど……ひょっとして他の国に出てるとかあるのか?

 他国にもって考え始めると更に捜索難易度が跳ね上がるんですがそれは……。

 まあでも聖剣だって王国の外れにあったやつだし、あいつがあの後、他国に移る理由はない、はず……。


 ……いや、思い込みは魔術師最大の敵だ。一応検討しよう。

 だとすると候補は王国のほかに近隣の、教国、法国、獣国、若干離れてるけど帝国も範囲に入るか。

 王国はとりあえず王都に潜伏モードの使い魔くん2号たちを投入し始めたものの成果は未だ無し。

 あとの4ヶ国。やるしか、ないかなぁ。帝都にもばら撒いたら皇帝様に怒られるかな……?


 あいつももっと派手に動いてくれたら冒険者たちの噂とかから特定できたりするのに。

 良くも悪くもあいつは地道だ。こっちも地道にやるしかない。ほんと楽できないね。



 がんばろ。あいつ、いま何やってるんだろな。



 そんなこんな考えてたらティータイムセッティング完了。

 さてさて。


 元おっさんの元おっさんによるおっさんのためのおっさんズお茶会、はーじまーるよー!


 字面がちょっと汚いけど大丈夫、見た目は美丈夫アンド美少女だから!

 あと皇帝のお茶時間に勝手に同席するのって不敬なんじゃないかなとかちょっと思ったりもするけど、そこら辺は当人に黙認されてるので問題ないんです。

 というか今の私、普通に偉いし。皇帝様以外で文句つけれる奴なんている? いるわけねぇよな!


「ほう。今日の茶菓子はかなり良いものだな」

「えぇはい。パティスリー・ドゥ・ラ・リベルテの新作だそうで」

「リベルテ商会のか。やはりあそこは扱うものの品質が良い」


 弟子の家が手がけている事業の一つの高級お菓子屋さんである。

 リベルテさん家のパティスリーって感じなありがちネーミングのくせして、くっそ敷居が高い店らしい。

 ここのお菓子は配送対応してないから、弟子が持ってこないとなかなか食べられない貴重品なのだ。

 せっかくなので作業合間の楽しみとして冷却箱のストックしてたその貴重品を大放出……まぁあると食べちゃうからあんま数ないけど。

 お前が来なければそのクソうまなちっちゃいゴテゴテしたタルト?は全部私の腹の中に収まったのだがな……!


 ……いや別に本気で惜しんでいるわけではないぞ。お菓子ごときでそんなそんな。

 ただ私、外に出てお買い物する暇が中々ないから、あ、これしばらくもう食べられないんだなって思っただけで。

 持ってきてくれる優しい弟子もクエストで他国行っちゃうし……。


 ……。


 納品クエスト、依頼しちゃおっかな。


 ああでもご飯ならともかく、流石に職場に嗜好品をデリバリーしてもらうのはどうなんだ……?

 普通にみんなに良い顔されない気が……あ、いや、いける?

 私は錬金術もチート級だから、こう、錬金素材です!みたいな感じで当たり前の顔して依頼すればいいのでは?

 ちょっと苦しいけど、ゲームとかだったらお菓子を合成素材にするのは、よくあることだし?

 最悪、ちょっとばかし差し入れとしてお裾分け(ワイロ)すれば許される気が?


 ……よし後で出そう。ぶっちゃけもっとこれ食べたいし(自分の欲望に正直過ぎるイヤらしい男)(元男)


「ふむ……。手広くやってその全てで結果を出す辺りあそこは流石だ。その分、議会では兎角うるさいが」

「ああ、そうなんですね……。そこはかとなく想像できます」

「その親に似て貴様の弟子も中々だからな」

「はは……」


 適当に喋ってたら急にリアクションに困る軽口をブッ込まれて思わず変な笑いが出てしまった。

 なにわろてんねんって自分で自分にツッコミを入れたいが、ぶっちゃけ笑うしかないのよこれ。


 いやね、弟子の親御さんは会ったことないけど噂には聞いている。

 "嵐"の異名を持つ、やり手の大商人だ。さぞかし騒々しいのだろうね。弟子もその気質はしっかり引き継いでいるのかやっぱり騒々しい。

 でもこれは、そう言う話じゃなくてさ……。


 弟子、この皇帝様のことが大っ嫌いなんだよ……。


 いやいや。何があったか知らんけど、よりにもよって帝国で皇帝嫌いとかやばいでしょ……。

 この人ある意味というか普通に独裁者やぞ……ハラハラするんだが……。


 まあ弟子も小さな子供ではないし立場を弁えてるので変に突っかかったりはしない。

 うっかり鉢合わせてもさりげなく席を外すくらいだし、その場で会話を求められれば表面上は普通に話す。

 おかえりいただいて私と二人になった時、一瞬くっそ不穏な表情になったりするんだけどね。それ怖いからやめてけれ。

 皇帝様もそこら辺の空気は読んでくれてるのか、基本的に弟子がいないタイミングを見計らってここに来ている様子。

 でも皇帝様の方は別に弟子を嫌ってないようで、私と話してる時とか普通に話題に出してくる。というかむしろ結構気に入ってるんじゃないか。

 いやお前めっちゃ嫌われてるんだが?なんだこいつそういう性癖なのか?おもしれー女扱いしてるのか?やらんぞ?


 でもまあ、この皇帝様がそんな調子で軽い対応してるということは、そこまで深刻な事情による確執ではおそらくないのだろう。

 たぶん、弟子の方が感情的に嫌いってなってるだけ。いやそれもそれで良くないとは思うけど。私の弟子になったばっかりの頃は普通な様子だったのになぁ。

 初対面で当たり前のように私の研究室に入ってきた皇帝様に目を丸くして、そっから緊張しまくってたっていうのに。あれはちょっと可愛かった……。

 魔術師として成長して、仕事を手伝わせられるようになってからかなぁ。弟子にはまだ私の監督抜きでの仕事はさせていないけど、最近はほとんど独力といっていい。

 そんで大口発注元の皇帝様に鬱憤の矛先が向かっちゃっているのかもしれない。皇帝様からの仕事って事務作業が多いもんね……。

 私のやつ修羅場った時たまに手伝わしてるけどすまんな……書類作成ってマジおもんないよな……。

 まあ今の帝国は皇帝様が全面立て直し中の黎明期みたいなもんだからね。忙しいのは仕方ないよ。みんなも頑張らなきゃあねぇ。一番頑張ってるのは私だけどな!


「そういえば仕事の話なのですが先日納入した使い魔くん、その後の状況どうでしょう?フィードバックがあれば反映させますが」

「ああ、あれは正常に運用を開始していて今のところ問題はない。素晴らしい出来だ」


 ご機嫌に微笑んでるところを見るに、十分ご期待に沿えてるようだ。

 いつもキリッとした顔で固定されてるのでこうも表情を緩ませているのは割と珍しい。

 普段はクッソ真面目な鉄面皮で周りを威圧してるからね。皇帝だから舐められたら終わりなんだろうけど。ヤンキーかな?


 帝国には残念ながら敵が多い。

 先代までの皇帝のせいで仲の良い他国は少ないし、内部も粗方浄化したが膿は未だ残ってるらしい。

 魔族もちょいちょいちょっかいをかけてくるみたいだし、こう見えて皇帝様も大変なのよ。

 ここ数代の皇帝の功績なんか、どいつもこいつも贅沢好きだったから嗜好品がやたらと発展したってことくらいしかない。

 その恩恵を存分に味わってる身としてはそこだけ少し許しちゃいそうになるが、まあ、うん。酷かったらしい。

 そもそも嗜好品とか、昔の一般市民には一切関係なかったからね。

 それが今となってはこの人の尽力もあって庶民も文化的な生活を楽しむことができている。



 皇帝、グラン7世。大鉈を振るう独裁者にして、私が認める帝王。



 変なところもあるけど、やっぱ素晴らしい人だよ。

 恩もたくさんあるし、できることなら力になってあげたいね。


「その働きに感謝をしている。これからも励んでくれ」

「ありがとうございます」


 それに……仕事したらちゃんと褒めてくれるし。私は褒められたら褒められただけ伸びるタイプなので、顔には出さないがやっぱ嬉しい。


 モチベが上がって開発にも力が入るよ! 私はね、嬉しくなると、ついやっちゃうんだ!(軽率な技術革新)




 でも……できれば無茶振りはヤメテ欲しいかな!!




 ……フリじゃないぞ?







・・・



<聖剣ちゃん>

「ぶっちゃけ魔族と魔術師って何が違うんかよくわからんのよ。どっちも似たようなの使うし?」

「とりあえず主が認知してない奴はダメっぽいから、頑張って弾くよ!」



・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る