第8話

・・・



<心配性な魔女さん>


「エステル大丈夫かな……単独のフィールドワークは初めてだし、やっぱりちょっとくらい様子を……」

「邪魔するぞ。茶を頼む」

「……ようこそ。どうぞおかけになってください」


(いや普通に邪魔なんだが? やっぱこいつ暇なのか?)




・・・




「マジ、この世の楽園。私、帝国に住みたい」

「おいしいですね……」


 食後の白い氷菓を食べながらご満悦のベルとアリア。いや目的忘れてないか……?



 あの後、宿屋に泊まる前にアリアがギルドで滑り込みの依頼を出し、そして一泊してからの昼時。

 昨夜は適当に済ませたから、ちゃんとした食事を取るのはこの昼食が最初なんだが……。


「なんなのこれ、10年前の帝国こんなん無かったよ……これも魔神サマの恩恵……?」

「あるにはあったそうですが、とても高価だったものが冷却箱が開発されたおかげで安価になって市井に広まったようですね。とてもおいしいです……」

「マジで魔神さまさまじゃん。女神様から改宗していい?」

「ちょっと私の立場的に良いとは……でもこれは法国の街にも是非広めたいですね……冷却箱の輸入を増やすよう要請しなければ……」


 いや確かに美味いが、二人とも絶対目的忘れてるだろ。このあと依頼の確認にギルドに行くんだぞ。

 とりあえずベルとアリアの器を取り上げて離してやる。


「ああ! 私のアイスクリンちゃん!!」

「アル様……?」

「ほら、さっさとギルド行くぞ」

「アイスクリンちゃん……」

「アル様……」

「……食べてからにするから、早くしろよ?」


 この世の終わりみたいな顔をされたから器をそっと戻す。いや、そんなにか……?

 俺はどっちかというとメインの挽き肉料理の方が美味かったが。あれまた食べたいな。夜も頼むか。


 ……あいつがいたら、あいつもたぶん氷菓子の方を喜ぶんだろうな。

 きっとあまり変わらない表情で、目だけ少し丸くして。


 いつか会えたら、食べさせてやりたいものだ。


「ホント、アルはさぁ……まあいいや」

「……ん?なんだ?」

「いーや?何でもないよ?」

「おいしい……」


 意味深な含み笑いをされたので気になるが、何だったのだろうか。


 あととりあえずアリア、早く帰ってきてくれ。

 お前が一応このパーティのリーダーなんだから……。




・・・




 帝国に着いて1週間が経った。依頼はすぐ受けてもらえたようだが、アリアが帝国の教会で色々用事が出来てしまい、予定が伸びてしまったのだ。

 仕方ないのでその間、帝国観光していたのだが……やっぱり凄いな帝国。冒険のために色々装備や道具を整えたりしてるが、特に最新の冒険用具が充実しててとても心が躍る。

 なんかこう、最新式って使うかどうかは別として心惹かれるものがあるよな。携帯式加熱調理器とか明らかに冒険に必須ではないんだが欲しい。まあ高すぎて手が出ないんだが……。


 買い物したり、食べ歩きしたり、忙しそうなアリアを労ったり、ベルと二人でギルドの簡単な依頼を受けてみたり。

 時間はあっという間に過ぎ、そんなこんなで顔合わせの日を迎えて件の魔術院へ向かう俺たち。


「結局、例の魔神とは会えなかったか」

「そうですね。でもその方より推薦を受けた優秀な魔術師が受けてくださると聞いております」

「へぇ、凄そうじゃん。どんな人だろうね?」


 魔術院の扉の前に立つと、自動で開いた。凄いな……どういう仕組みだ?

 ベルも不思議そうに無駄に扉を出入りして……いや受付の人、迷惑そうに見てるからやめような?


「……いらっしゃい。ご用件は?」

「本日面談予定のアリアとそのパーティです。エステルさんをお願いします」

「はい、はい、えぇと、第二面談室へどうぞ。右手側廊下の手前から二番目の扉です」

「ありがとうございます」


 かなり広いエントランスから廊下に入り、扉を開ける。

 そこにいたのは、年若い少女。俺と変わらないくらいか、もしかしたら年下かもしれない。

 この子が、依頼を受けてくれた魔術師? 凄腕というには若すぎないか……?

 もしかしてこの子はその助手とかで、本人はまた後で来るとかか……?


「はじめまして、聖女見習いのアリアとその仲間です。本日はよろしくお願いいたします」

「どうも、私は魔術師のエステルです。気軽に名前で呼んでくれてかまいません」


 どうやら本人だったらしい。余計なことを言わないでよかった。


「早速、依頼内容の詳細をお話したいのですが……」

「あ、大丈夫ですよ。報酬面も依頼難易度も特に問題無いので。あとは現地に行ってから、ですねー」

「……とても話が早く助かります」

「それで、こっちの人たちが……」


 少女が俺たちに視線を移す。ベルを見て、俺を見て……なんだ? 二度見されたんだが。

 一瞬固まり、少し視線を泳がせ、目を閉じ。


「……なるほど」


 何がなるほどなんだ……?

 そしてベルをもう一度見て、アリアをまた見て、最後に俺を見て。


「なるほど」


 いや、だから何がなるほどなんだ。


「えーと、俺はアル。隣がベルだ。よろしく頼む」

「えっと?よろしくね?」

「先ほど名乗りましたが、エステルです。よろしくお願い……します」

「……」

「……」

「……」


 なんだ、なんで俺をジッと見てくるんだ……?

 妙な緊張感が走り、アリアは静かに、ベルは少し戸惑いながらこちらを見守っている。

 謎の静寂はしばらく続き……。


「あの……一つだけよろしいでしょうか」


 ようやく俺から視線を外した少女が、アリアと向き合う。


「依頼を受けるにあたって条件を付けさせてください」

「……なんでしょうか?」

「模擬戦、してくれませんか?」

「……唐突ですね」

「あの魔力鍵はかなり高度です。その先は相応の危険が予測されます。私が鍵を開けたことでみなさんに何かあると寝覚めが悪いので、実力を見ておきたいんです」


 ……確かに唐突だが、それもそうだ。

 依頼は鍵を開けるところまで。そのあと付いてくる義理はこの少女にはない。

 なので自分が帰ったあとで自分がやったことにより犠牲者が出たとしたら確かに気分は良くないだろう。


 それはわかるのだが……なんかやたらこの少女から敵意のようなものを感じるのだが……気のせいか……?


 聖剣はさっきからピカピカと光ってやる気を見せているように思える。問題ない、というかむしろやりすぎないか気を付けた方がいいくらいだろう。

 うーん……まあ少女の言うことにも一理あるしな。


「俺はいいぞ」

「私も大丈夫だよー」

「……私は、何かあったときのために後ろに控えさせていただきます」

「ありがとうございます。魔術試験場が空いてるはずですので、そちらに向かいますね」


 少女が不敵に笑って俺を見上げる。

 いや、俺この少女に何かしたっけ……?






「本当の魔術ってものを、見せてあげます。楽しみにしてくださいね?」






・・・




<聖剣ちゃん>

「お? 敵? 魔術師? 戦う? 斬っていい?」


「ダメ? そっかぁダメかぁ……」(ピカピカ)




・・・

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