第5話

 弟子にも一応、弟子の仕事がある。といっても完全に独り立ちさせてるわけじゃないから今のところは私が様子を見ながらだけど。

 なので四六時中私の研究室にいるわけじゃないんだが、まあ多少は慕われてるのか用がなくてもちょいちょい顔を見せてくれる。ほんと可愛いやつだよ。


 そんなこんな、今日も弟子から差し入れが入ったのでコーヒーブレイク中。思考分割して作業もしてるけど、メインスレッドはいったん休憩だ。


「あ、そーいえばなんか冒険者ギルドから魔術院宛に依頼きてますねー」

「んー?」


 うーん、冒険者ギルドからか。なんだろ、また冒険用具関係かな。それでいえば新型保温袋をこないだ納品したけど、なんか追加要望でもあったとか?

 もしくは新作冒険用具の開発依頼かもしれない。欲しがりだからなぁ、冒険者ギルドは。

 まあ目に見えて依頼達成率良くなったみたいだし、我ながら実績あるからね。お役に立てて光栄だよ。


 それにしても。魔術院に来てからこういうのを開発し始めたけど、もっと早く作っとけばよかったかなーって少し後悔してるんだよね。

 あいつと別れるときに、いろいろ残してやればその後のあいつの冒険ももっと楽になっただろうなって。


 一緒に旅をしている時なら大抵のことは私の魔術でなんとでもなったけど、私がいなくなったらやっぱり細かいことで苦労している様子はあったし。

 魔道具って結構高いしあの後もあんまり道具を揃えられてないみたいだったから、ソロの冒険者じゃなかなか手が出ないってのもあるんだろうな。


 どうだろう。今のあいつ、私が作った道具を冒険で使えてるのかな。使ってくれてたら嬉しいな。


「んー……」

「いやお菓子食べ終わってからでいいですよ」


 それにしてもこのボーロみたいなお菓子うめぇ。でもちょっと口に含みすぎたな。こいつが美味すぎるのが悪い。


 ああ、今の私には甘味しか癒してくれるものがないのだ……。

 元から甘いものは好きだったけど、性別が変わってからは尚のこと美味い。味覚の変化を体感した身からすれば、女子のスイーツ好き比率の高さは納得だね。


 おかげでカロリーと血糖値がボンバーしてるけど、そんなん魔術でどうにでもなるし!

 好き放題食べても体型にも健康には影響なし!! チート術式万歳!!!


 ……というか思ったけどこれ、割と高度な術式だから今は私くらいしか使えんが汎用化できたら凄い有用なのでは?

 これも開発スケジュールに……いやいや自ら仕事を増やすのも……でも医術院とかで使えるなら使えるようにした方が絶対いいよな……。

 どうしよう。まぁとりあえず脳内のやるかもしれないことリストに放り込んどくとして。


「んー、ん。なんだこれ。場所、帝国じゃないじゃん」

「ギルド経由の個人依頼ですね。依頼主が聖女見習いなので公的に近い感じですけど。場所は法国近くの遺跡で、内容は入口魔術鍵の開錠」

「修行クエストのヘルプって感じかな」


 とにもかくにもここ最近、聖って文字にいい思い出がないので、一切この人とは関係ないけど全然モチベが湧かない。

 今日飛ばした2.9がダメだったら本格的に3号作らねば……くっそぜってぇ負けねぇからな……!


「えっと、見た感じ魔族が使う古代暗号文字の術式だね。現物見ないと詳細はわからんけど、そんな大したことはない感じ」

「この雰囲気ならたぶん、ししょーの部屋の鍵の方が強固ですよねー」

「そうだね。てか魔術練習で人のプライベートルーム開けようとするのやめようね?」

「さいきん結構、良さげな感じの手応えが……」

「やめようね!?」


 もはやほぼ我が家といってもいい、この研究室には私の私室もある。そんでもって、ここにはちょっと人にはお見せできないものとかあって、ちょっと人にはお見せできないことしてるので結構がっつり鍵をかけてるのだけど……え……手応えあるの……?マジで?

 恐ろしい子。誰だよこいつ育てたやつ。私だったわ。レベルアップ早すぎてちょっとビビるわ。


 こわ……セキュリティ更新しとこ……。


 いや、いつでも掛かってこい的なことは言った記憶あるけど、そういう意味じゃないんだが……?

 なんか思い描いてた師匠と弟子の関係と違う気がするっ……! 別にいいんだけどさっ……!


「まあとりあえず、私はパスかな……」

「この形式だと全体像が必要だから、現地行かないとですもんね」

「ゴリ押しもイケるけど崩壊対策必須だし、どのみち現地だね。私はちょっと流石にいま他国に出向ける暇は無いわ」

「……じゃあ、他の研究室に順番に回してきますね」

「ん」


 ……いやどうだろ。大したことないとは言ったけど、この手のタイプは専門外だときついかも。上級の魔術師でも、解析系と精密調整が苦手だったら厳しいかもしれない。

 まあ魔術院長とか副院長クラスなら余裕かな。他の同僚たちだと、半数以上はいけるだろうか。一応ここは魔術の最高峰。専門分野なら上級冒険者と比べても引けを取らない優秀な実力者がごろごろいるのだから。 

 なんだったら弟子も楽勝だろうね。技術力だけならここでも上位クラスはあるし。


 うーん……そうだな。


「ちょい、エステル?」

「はい?」

「いま大した依頼持ってないでしょ?」

「そーですね。こないだのが納入完了したので評価が来るまでは自主研究に当てようかと」

「じゃあこれ、やってみる?」

「……いいんですか?」

「いや、というか興味あるんでしょ? 他より真っ先にここに持ってきたってことはさ」

「えー、えーと……えへへ……」

「他国の調査も兼ねて行っておいでよ。前の依頼の最終報告書は私が作っといてあげる」

「え? 開発過程とか……あ、いや愚問でしたね。お願いしてもいいでしょうか?」

「どんと師匠に任せんしゃい」

「やった! ありがとうございます! お願いします!」


 それなりに手頃っぽい依頼だし、これは弟子の経験値になってもらおう。ついでに私たちの開発製品がどんな感じで使われてるかの実地調査もしてもらう感じで。


「あ、お礼にししょー、これ実家の新発売のお菓子です!」


 ……いや、あのさ。ちょっと弟子よ。気のせいかもしれんが私のこと近所のガキかなんかだと思ってないか?

 ちゃんと敬ってる?私、ユーの師匠よ?お菓子で毎回喜ぶと思ったら大間違いなんやぞ?



 あ、このチョコっぽいの、うまっ……。






・・・




<聖剣ちゃん>

「最近目標指定系の魔術がえげつなく飛んでくるけど、こんなん間違いなく攻撃の予兆やろ。絶対に通さんよ!」




・・・

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