あいつが気になって仕方がない <勇>

第3話

・・・



 皇帝の絶対守護者。


 帝国の最終兵器。


 時代の破壊者。


 深奥の魔神。



 その驚異的な実績と、途轍もない術式の恩恵により、その存在を知らない冒険者はいない。

 それでいて全く無名の時に召し抱えられたため情報が少なく、謎に包まれた、至高にして最強の魔術師。




 クード・ヴァン・デュシエル。




「最強、ねぇ。物騒な噂ばかりだから正直強いというよりやばいやつって印象なんですけど?」


「そうですね。ですが、私たちがいま使っている旅の道具ですけど、ほとんど全部この方が作られたそうですよ」

「え……マジ?やばくない?これ無い旅とか考えられないじゃん。いやぁ魔神さまさまだね」



 冷却箱、保温袋、自動発光照明、撥水外套、他にも様々。

 仲間たちが語るように、その恩恵は凄まじく、あらゆる技術を過去の物にし、今までの冒険の在り方を一変させた。


 帝国に襲来した魔王軍の幹部も単独で撃破したと言われ、その実力も凄まじい。

 並び立つものがいない、至高で、最強。といわれている。


 だけど。



(……至高にして最強の魔術師、か)



 今までの旅で会った魔術師はどいつもこいつも、大したことなかった。

 最強というからには、今までのやつらよりは凄いんだろうが。


 それでもやっぱり俺の中では、あいつ以上の魔術師を想像できない。



 聖剣はあらゆる魔を断つ、魔力には無敵の存在。


 それでも、使い手たる俺はあまりにも弱い。圧倒的で、隔絶した差がある。

 あいつは俺を守れるけど、俺はあいつを守れない。



 ずっと勘違いしていたんだ。俺はあいつを、助けたのだと。

 あんな凄いやつを、助けられる存在なのだと。


 思いあがっていた。

 俺は、傷ついたあいつを守れるのだと。



 王国は、はっきり言ってかなり駄目な国だった。住人の公的記録すら碌に残していない怠惰な国だ。

 村が滅んで現地の記録が焼けたせいで、あいつに関する記録はギルドにあるものだけ。



 王国の外れの村にいる、



 嫌がらせのように村の住人に出されて、悪戯だと疑われて放置されていた討伐依頼。

 いつしか村との連絡の一切が途絶えたことにより、依頼が本当だったかもしれないと新しく作られた調査依頼。


 俺がその依頼を受けて、その依頼は問題無かったと報告した。


 でも、その地獄にたった一人無傷で生きていた女の子が、果たして本当に人間なのかどうか。

 王国のギルドの連中には中々信じてもらえなかった。



 忘れられない。村人に拒絶されて、檻の中に入っていた幼少のあいつを。

 忘れられない。何もかも拒絶して、檻の中に入っていた成長したあいつを。



 吸血鬼に襲われた村人が、死んだまま蠢く村の外れで。

 あいつは生きる気力を失い自ら檻に入っていた。


 まるで、あの時と同じように。

 まるで、自分が罪人なのだと言い聞かせるように。


 吸血鬼を滅ぼしたあいつは村人の支配権だけを奪い取り。

 うごめくだけの屍が日光や魔力切れで滅びる様を、暗闇の中から光のない目で眺めていた。


 まるで自分も、あのように死ぬべきなのだと。そう言いたげな様子で。


 だから俺はあの時のように、強引に暗闇から引っ張り出した。

 拒絶されてもたくさんの言葉を交わし、無理やり外の光の中へと連れ出した。



 お前はお前だ、そんな吸血鬼みたいな化け物じゃないのだと。

 そう言い聞かせるように。



 その時の様子は、何も子供のころと変わらなかった。

 7年経ってもあの時のまま。


 押しに弱いところも、思い込みが激しいところも、言葉の節々の気遣いも優しさも、何もかも。

 あいつは、人より器用で頭が良く、人を疑うことが嫌いなお人好しの、ただの女の子だ。



 大人ぶって地獄のような現実を無理やり噛み砕いて、それを泣きながら飲み込んでただけの、ただの子供なんだ。



 俺の力が足りなかったばっかりに、あいつはずっと魔物扱いだった。


 俺が弱かったせいだ。俺が間違ったせいだ。

 そのせいであいつは王国を、俺たちを見限って、離れていったんだ。


 俺は、あいつを守れなかった。何が、勇者だ。

 人々を守る、救世主? あの時、たった一人の幼馴染すら守れなかったのに?


 俺が勇者? ふざけるな。


 力が。

 切実に、力が欲しい。


 あいつを守れるほどの、力が。

 俺はもっと、強くならなきゃいけない。



「ねぇねぇアル? 聞いてる?」

「あ……すまん、聞いてなかった」


「まーた空想の幼馴染のことでも考えてたの?」

「だからクーは空想じゃねぇっての」


「いや……そんなのいるわけないじゃん。なにワイバーンを一撃で叩き堕とす女の子って」



 ……まぁ、現実味がないとは俺も思う。

 それをあいつは、小さな子供のころにやってのけた。


 あの村は最低な村だ。

 村を守ってくれた英雄を、化け物みたいに扱ったのだから。


 でも俺はあいつを純粋にかっこいいと思い、こっそりとあいつの元に通ってたんだ。

 最初は戸惑ってたあいつも喜んで、色んな魔術を見せてくれた。



 花を咲かせる魔術。

 風を吹かせて空を飛ぶ魔術。

 地面から人形を作る魔術。

 光を空中に浮かべる魔術。


 他にも色々あった。



 そのどれもこれもが、一流とされる魔術師でも簡単には出来ないことだと知ったのは、村を離れた後だった。

 あれを当たり前みたい見せられていたから冒険者になってこの認識を正常にするのには苦労したものだ。


 ……まぁ、知らなければ確かに嘘くさいとは思うけどな。

 でもいたんだって。そんなすごい女の子が、本当に。



「はいはい。で、私たちのパーティにも魔術師が必要だけど、どうするの?」



 俺たちは、仲間である聖女見習いアリアの教会がある法国を当面の拠点にし、冒険者としての依頼を受けながら、世界各地を巡って魔王軍の脅威と戦っている。


 今受けている依頼は魔王軍が以前使っていた遺跡の探索。

 なのだが、結界が張られていて入ることができない。


 アリアも奇跡と呼ばれる魔術に似たものを使うことができるが、結界の解析のような細かいことは無理らしい。

 そして同じく最近パーティ入りしたダークエルフのベルも、弓使いなのでそんなことはできない。

 ドレイク……たまに依頼を手伝ってくれる元盗賊の優男も、魔力鍵には疎いといっていたから無理だろう。


 そういう話で、俺たちは依頼を手伝ってくれる魔術師を探していて、最初の話題となったわけなんだが。



「実際その、はどうなんだ?」


「いや無理でしょ。あんた例えば王国で王様直轄の部下を依頼に貸してくださいって言っていけると思う?」

「無理だろうな」


「まー本当に噂通りなら、もし手を貸してくれたら一発なんでしょーけどねぇ」

「あの鍵、異常に高度で他の冒険者仲間の魔術師じゃ歯が立たなかったからな……まぁダメ元で帝国に行ってみるか」


「そこまで凄い方でしたら、何か突破するアドバイスくらいは頂けないものでしょうか……」


「うーん、帝国行ったら正式に依頼出してみる? 試す価値はあるかも?」

「そうだな、とりあえずそうするか」



 こんなとき、もしあいつがいたら。


 そんなことを思う資格なんか、俺には無い。

 あいつをあんな目にあわせておいて、あいつの力を借りたいだなんて。

 ……考えるだけでも罪深い。


 だからいつか、俺が強くなり、本当の勇者となることができたら。

 その時初めて、あいつの隣に立てるのだろう。


 いつか、見つけ出して、また、その隣に。


 いまはどこにいるのかもわからないが……。

 生きると約束してくれたのだから、生きているはずだ。


 きっと、元気でやっている。信じよう。




 ああ。あいつは、いま何をやっているのだろうな。






 ・・・



「あ、また聖剣が光った」

「ホントだな。最近多いけどなんだろうな」



 ・・・

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