武人と結ばれた夜

 気が付くと、俺は武人の香りがする部屋着を身にまとい

寝室のベットの上で寝ていた。


武人はベットに座り、俺の前髪を撫でながら心配そうに

俺を見つめていた。


武人…。ドキッ


俺はゆっくりと上半身を起こす。


『これ、武人が着せてくれたの?』

『ああ…』

『見た? 見たんだろ?』

『しかたねーだろ、素っ裸で置いとくわけいかねーし。

水も冷たくなってるし。マジ、死んじゃったかと思って、

ビビった』


武人の声が少し震えていた。


『ごめん…』


武人の横顔は少し頬が赤くなっていた。

俺の頬も少し火照ってきているようだ。


『お前さ、相当、欲求不満が溜まってるみたいだな』


誰のせいだよ。武人のせいだよ。


『俺が先に結婚するもんで僻んでるのか。今度さ、いい女紹介すっからよ。

それで勘弁しろよ』

『……』

俺は、今、どんな顔をしているのだろうか?

武人には俺が僻んでいるように見えるのか。

まあ、半分は当たってるけど……。


『なあ、雅也、腹空いてないか?』


そういえば、お昼から何も食ってなかったな……。


『なんか作るからお前もこいよ』


そう言って、腰を上げた武人の手を俺はグイッと引っ張った。

その拍子に武人はベットにお尻をついた。


『雅也?』

『女じゃダメだ』

『え……』


気づくと俺は武人の体を抱きしめていた。

もう、この気持ちを止められない。


『武人がすきだ――……。ずっと、好きだった、、、、』


死ぬまでこの気持ちを封印しておくつもりだった。

武人の顔を見るのがつらいから……。


『俺……もう、最後だから…。一度だけでいい……

一度だけでいいから…俺を抱いて…』


きっと、武人は困惑している。俺はまともに武人の顔を

見ることができずにいた。変な男と思っているだろう…。

気持ち悪い男だと思っているだろう…。

これで、武人に嫌われた……。

俺はもう…おしまいだ。


『ごめん…オレは女が好きだ』って言われるのがおちだ。


そうなったら俺はもう立ち直れない……。


ああ、武人の体…あったかいな…。

もう少しだけ、もう少しだけこうしていたい…。


と、その時だった――――ーーー。


武人は俺の手を離すと、勢いよく武人の唇が俺の唇に

強く接してきたーーー。


と、思いきや有無も言わせないうちから俺の舌に武人の舌が

絡みついてきた。


(これは…)


声が出ない…濃厚で熱いキス。


俺の身体が反応している。武人を求めている。


武人は俺を優しくベットに寝かせると、俺の上に乗っかってきた。


『男を抱くのは初めてだが…覚悟はできてるんだろうな?』

『ああ…でも、なんで?』

『笑っちゃうけど、俺の身体もお前に反応している…』

『え…』

『こんなこと、ホントにあり得ねーよな(笑)』

そう言うと武人は優しく笑った。

『ほんとに(笑)』


俺達は濃厚で熱いキスを繰り返し、何度も何度も肌と肌で重なり合った。


『お前、こんなところにホクロがあるのな』


武人はマジマジと俺の身体を見て胸元にあるホクロを見つけた。

『ったく、スケベ、変態』

『お前もだろ』

『……そうかも』


そして、武人の唇が俺の唇を塞ぎ、武人の長い指先が俺の突っ立った

下半身へと伸びた。俺は身体中の体温が熱くなり、どんどん雪のように

白い結晶が溢れ出してきた。

それを武人は零れないように口で受け止めた。

『あ…ン』

俺と武人の指と指が絡み合う……。


武人が俺の身体中にキスするたびに俺の身体は反応して、のけぞるように

自然に腰が動いていた。


ああ、武人…愛してる…。武人、愛してるよ……。


俺は武人の腕の中で武人の温もりに包まれていた。


俺は全てに満たされていた。


終わった後のシーツは俺と武人の愛の結晶が混ざり合っていた。


『ねぇ、なんで俺を抱いてくれたの?』

『言っただろ。俺の身体が反応してるって。俺は自分の身体が

求めてるもんは拒んだりしねー。それは男も女も関係ねーよ』

『チェッ。だったら、もっと前から頼んだらよかった。

そしたら俺を抱いてくれた?』

『さあ、どうだろうな(笑 )』

『このことは2人だけの秘密だね』

『絶対に汐里には言うなよ』

『わかってるよ』

死んだって言わないから安心して。


『ねぇ、武人…。もしも俺が女なら結婚してくれる?

俺との身体の相性はどうだった?』

『お前が男でホント残念だよ…。悔しけど、満たされていた……、、、』


その言葉を言った武人は恥ずかしさのあまり真っ赤な顔をして

照れ笑いをしていた。


『これが最初で最後だからな。もう二度と抱いてなんて甘えてくんなよ』

『チェッ』

『な、なんだよチェッって……』

『はいはい、もう絶対言いません。言わないから、もう一回いい?』

『はい?』

『冗談だよ(笑)』


俺は汐里さんに嫉妬してる。歯痒いくらい羨ましい…。

汐里さんはこれからずっと武人と一緒にいられるんだ。

こんな風に毎日、武人に抱かれて、愛されて羨ましい……。

だけど、俺は男だ…。どんなに頑張っても武人の子供は産めない……。

ねぇ、武人、今日のことは俺が今まで生きてきた中で、一番の思い出になったよ。


武人…ありがとう……。


【お前が男でホント残念だよ…。悔しいけど、満たされていた……、、、】


俺はその言葉だけでいい――――……。


心まで満たされ気持ちよくなった後、俺は武人の腕枕の中にいた。


そこそこ筋肉がついた武人の二の腕は俺の頭の大きさには調度よく

すっぽりとハマっていた。


『武人、新しい住所が決まったら教えてくれよ』


『ああ、必ず、連絡する――』


その言葉が俺が男として聞いた武人の最後の言葉だった―――。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る